中共幻想に溺れるな 米エリートに警鐘 WTO・香港・南シナ海で示された制度的不誠実

2025/12/27 更新: 2025/12/27

アメリカのシンクタンク「ハドソン研究所」中国センター所長の余茂春氏が、ワシントンのエリート層に宛てた公開書簡で「中国共産党(中共)への幻想を捨てよ」と訴えた。余氏は、WTO加盟、香港の「一国二制度」、南シナ海問題などの事例を挙げ、中共は国際協定に署名して利益を得た後、義務の解釈を一方的に変え、最終的には約束を踏みにじる「制度的な不誠実」を繰り返してきたと指摘。冷戦後の対中関与政策はすでに破綻しており、もはや中共の「言葉」ではなく「行動」のみを基準に国際秩序のリスク管理を行うべきだと強調した。。

「古い悪癖というものは、最も直りにくい。とりわけ、郷愁を戦略思想と勘違いしているエリートたちはそうだ」と、余氏はワシントン・タイムズ紙への寄稿で述べている。余氏は、トランプ政権第1期で国務省の対中政策首席分析官を務めた経歴を持ち、トランプ政権の対中政策の指南役とされていた中国系米国人研究者である。

余氏によれば、現在もなお、ワシントンやブリュッセル、さらには欧州のいくつかの首都には、「中国共産党は説得すれば『大きな取引』ができる」と信じる人々が存在するという。彼らは、「時間をかけて柔軟な姿勢で交渉すれば、北京はウクライナや中東の戦火終結を手助けし、世界市場を安定させ、さらには中共が数十年にわたり続けてきた貿易不均衡や知的財産窃取を是正する可能性すらある」と信じているのだ。

余氏はこう指摘する。「この論理に従えば、中共支配下の中国は世界の混乱を引き起こす張本人ではなく、むしろ不可欠な協力パートナーであり、辛抱強く育て、時間を与えれば報いてくれる存在だということになる」。

しかし、こうした信念が今も存在する背景には合理的な根拠があるわけではないと余氏は強調する。「それを誤りと認めるのが、あまりにも感情的に痛いからだ。つまり、西側が冷戦後に掲げた『関与すれば中国は変わる』という核心的前提がとうの昔に破綻しているという事実を直視したくないのだ」と述べ、「より率直に言えば、『招き入れた』つもりが、実際にはオオカミを居間に入れてしまったようなものだ」と警鐘を鳴らした。

中共は「越線」ではなく、制度的に国際協定を踏みにじる

余氏は、国際秩序は「法が権力を縛る」という基本理念の上に成り立っていると指摘する。各国は共通のルールを認識し、それに基づいて行動する。しかし中共はこの前提を根底から否定している。その違反行為は偶発的なものではなく、長期的かつ意図的で、制度的に組織した国際協定違反である。

「これは文化の違いでもなければ外交上の誤解でもない。これこそが共産主義の本質である」と余氏は述べる。「共産主義中国をどの分野に置いても――貿易、安全保障、人権、地域外交――同じパターンを繰り返している。まず協定を結び、利益を得た後、義務の解釈を一方的に変更して履行を弱め、最終的には協定そのものを投げ捨てるのだ」と語った。

WTO・香港・南シナ海 中共の国際協定違反は「制度的戦略」

余氏は中共の不誠実な行動を複数の事例で示した。

中共は2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟を申請した際、「市場開放」「情報の透明性」「差別禁止」「政府介入の制限」など多くの厳粛な約束をした。しかし20年が経過した現在も、国家補助金による産業の歪曲、企業内への党支部設置、技術移転の強要などが続き、統治は密室的で政治色の濃いままである。

「中共にとってWTOのルールは、自由市場経済における共産党の介入を制限するためのものではない。それは共産党を肥え太らせ、強大化するための道具なのだ」と余氏は述べている。

香港問題でも同じ手法が見られる。1984年に締結された〈中英共同声明〉は法的拘束力を持つ国際条約であり、2047年まで香港の高度な自治と市民の自由を保障すると明記していた。

しかし中共は香港の主権を掌握すると、「協定はすでに時代遅れだ」と主張し、自治制度を次々と解体していった。これは「不注意な違反」ではなく、計画的な戦略的詐術である。

さらに南シナ海問題でも同様の構図がある。中共は〈国連海洋法条約〉に署名した際、その拘束力ある仲裁を受け入れると公言した。しかし2016年、南シナ海での主張を否定する仲裁裁定が出ると、それを公然と拒否した。今日に至るまで、争議海域の軍事化と周辺国への威圧を続けている。

人権面でも同様である。新疆ウイグルやチベットなどで、中共は反人類罪、さらにはジェノサイドに該当する行為を続けている。

「これらは偶発的な事件ではなく、制度からの行動法則である。すなわち『まず署名し、まず利益を得て、選択的に履行し、責任追及を永遠に回避する』ということだ」と余氏は語った。

民主国家と共産中国の本質的違い 「法は党の道具」に

親中派の中には「どの国も条約を破ることはある」と主張する者もいる。これに対し余氏は、「その言い分は意図的なごまかしか、あるいは無知の証である」と述べ、民主国家と共産政権の違いは本質的だと指摘する。

民主国家が規則を破った場合、司法や立法の制約を受け、是正される可能性がある。裁判所が介入し、議会が調査し、政府は説明責任を負う。敗訴し、代償を支払い、法律を改正したり、正式に条約を脱退することもある。違反は制度の失敗ではあっても、法治そのものは否定されない。

しかし、共産主義下の中国はまったく異なる。マルクス・レーニン型の支配構造のもとでは、党がすべてに君臨し、法律は単なる道具にすぎない。条約は行動の制約ではなく、他者を縛るための武器である。

「民主国家が時に自ら認めたルールを破ることがあるとすれば、中共は最初から受け入れる意志のないルールを恒常的に破っている」と余氏は述べている。

「言葉で安心させ、行動で縛る」中共の常套手段

「何十年もの間、西側の対中政策は、一方的な希望の上に築かれてきた」と余氏は語る。「接触と関与によって中共が穏健化すると信じ、その約束を誠意の表れと受け止め、明日の中共が今日の約束を守ると思い込んできた。しかしこの希望は完全に破綻している。中共の言葉は相手を安心させるためのものであり、その行動は相手を支配するためのものだ」。

善意や曖昧な合意では、共産主義体制を縛ることはできない。むしろそれは、利益をむさぼるための仕掛けに過ぎない。
「結論は残酷だが単純だ。世界はもはや北京の言葉を真に受けてはならない。声明、公報、白書はいずれも中共を信頼させる根拠にはならない。行動こそが唯一の証拠である」と強調した。

西側は過ちを繰り返すべきでない

余氏は、こうした教訓はまず共産中国の国際制度における位置付けに適用すべきだと述べる。中国をWTOに加盟させた判断は、中共自身の約束と「いずれ変化するだろう」という幻想に基づいており、当時の政治・経済体制の現実に基づいていなかった。その結果、国際自由貿易体制全体が中共によって蝕まれたと指摘する。

「この誤りを二度と繰り返してはならない。遵守を強制できない領域には中共を入れてはならない。義務を軽視する場所では特権を撤回すべきだ。これは敵対ではなく、基本的なリスク管理である」と余氏は強調する。

共産主義と「ルールに基づく国際秩序」は決して両立しない。なぜなら共産主義はルールそのものの主権を否定するからである。中共の論理では、党の主権は絶対であり、法律は党の意志に従属する道具である。協定は自らを制約するものではなく、他者を拘束する武器である。

「国際社会は多様な政治体制を包摂できるが、中共のように体系的かつ悪意ある不誠実を容認することはできない」と余氏は断じた。

「実効性のない関与はもはや外交ではなく、自己催眠にすぎない。今こそ、中共が自ら改革するという幻想を断ち切るべき時だ。現実を直視し、条件を設定し、冷静な目で共産中国と向き合う――それこそが冷戦の教訓であり、いまなお有効である」と語った。

林燕
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