中国 なぜ中国で「突然キレる事件」が増えているのか

「まだ彼女いないの?」SNSの一言が引き金となった殺人事件 中国

2026/02/12 更新: 2026/02/12

中国河南省で、あまりにも理不尽な殺人事件が起きた。2025年11月30日、開封市郊外の農村で、21歳の男が刃物を持って民家に押し入り、妊娠7か月の女性とその義母を殺害した。

中国メディアによると、男と被害者の妊婦は中学時代の同級生だったが、ここ数年はほとんど交流がなかったという。

事件の直前、被害女性が加害男性の投稿動画のコメント欄に「もう何年もたつのに、まだ彼女いないの?」と書き込んだことがあり、この一言が男の怒りを買ったとされている。

犯行当時、家の中には6歳と2歳未満の子供がいた。子供たちは、目の前で起きた惨劇を目撃していた。男は犯行後、自ら警察に出頭した。

遺族側は強い憤りを示し、死刑の即時執行を求めている。

弁護士によれば、男は「うつ状態」を訴えているが、現時点では刑事責任を免れるほどの精神障害とは認められない可能性が高いという。

ネット上では「社会全体の怒りが限界に来ている」「軽い冗談も怖くて言えない」といった声が相次いでいる。

SNS上の何気ない一言が命を奪う引き金になる現実に、多くの人が強い不安を感じている。

社会に広がる「邪気(リーチー)」という異変

近年の中国では、「そんなことで?」と目を疑うような些細なきっかけで、人が突然暴力に走る事件が後を絶たない。ネット上の一言、数千円の口論、視線や誤解、それだけで人が殺され、人生が終わる。もはや個別事件として片づけられる段階ではない。

中国の人々は、この異常な状態を一言でこう表現する。「社会に邪気(リーチー)が充満している」

邪気とは本来、中国の伝統思想に由来する概念であり、「人の心を濁らせ、極端で乱暴な方向へ引きずる負の気」を指す言葉である。怒り、恨み、不安、絶望が積み重なり、理性の制御が効かなくなった状態だ。今の中国社会は、その邪気に丸ごと覆われていると人々は感じている。

実際、目を疑うような事件が各地で相次いでいる。
・湖南省では、修理代およそ2万円をめぐる口論の末、修理工場の経営   者が高級車の持ち主を殺害した。
・浙江省では、上階のリフォーム音を「嫌がらせだ」と思い込んだ住民が、包丁を持って隣人宅に押し入った。
・火鍋店では、夫が隣席の「美しい」女性を見ただけで、妻が沸騰したスープをその女性に浴びせた。
・各地の学校周辺や繁華街では、無差別に人を狙う暴走車事件も繰り返されている。

共通しているのは、動機があまりにも些細であること、そして怒りが一気に爆発していることである。人々はこれを「社会への報復」や「邪気による暴発」と呼んでいる。

こうした暴発の背景には、長年積み重なった現実がある。

経済の失速、失業の拡大、給料の未払い、家を買ったのに完成しない住宅、その返済のローンだけが残る。抗議すれば拘束され、声を上げれば検閲される。逃げ場のない閉塞感の中で、不満を吐き出すことなく、内側で腐っていく。

当局はこれらの事件を「個人的なトラブル」「偶発的な事故」として処理し、社会全体の問題としては決して認めない。だが人々はすでに気づいている。原因をたどれば、制度そのものに行き着くからである。

そのため中国のSNSでは、奇妙で悲しい呼びかけが広がっている。
「外では人と衝突するな」
「自慢話をするな」
「誰にでも丁寧に接しろ」
「言葉と態度を慎め。薄氷の上を歩くつもりで生きろ」

これはマナーの話ではない。
いつ、どこで、誰が突然壊れるかわからない社会で、自分の身を守るための「生存術」なのである。

河南で起きた今回の事件も、その延長線上にある。冗談とも取れる一言が、人の心の中に溜まりきった邪気を刺激し、取り返しのつかない惨劇を引き起こした。

今の中国社会では、それが決して特別な例ではなくなりつつある。

李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!
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