「報奨金は、お母さんの治療費に使いたい」
「遊園地に行ったことがない。動物園にも一度も行ったことがない」
そんな言葉で多くの人の心を動かした少女が、いま競技の舞台から離れようとしている。
中国の飛び込み選手、全紅嬋(ぜん・こうせん)が2026年上半期の大会をすべて欠場することになった。理由は「けがの回復が不十分なため」と説明している。
全紅嬋は、中国南部・広東省湛江(たんこう)市の農村出身。貧しい家庭に生まれ、幼い頃から家族を支える思いで競技に打ち込んできた。
7歳で親元を離れて寮生活に入り、厳しい練習を重ねた末、14歳で東京五輪の金メダルを獲得。決勝では満点に近い高得点を2度記録するなど圧倒的な演技を見せ、一躍スターとなった。
その後も世界トップレベルの成績を残し、素朴で飾らない人柄から「応援したくなる選手」として高い人気を集めてきた。
ただ、この欠場発表の直前に起きた出来事が、今回のニュースに影を落としている。
今年4月、全紅嬋をめぐり、飛び込み界の関係者や中国国営中央テレビ(CCTV)の記者、国際審判らが関与したとされる集団中傷問題が明るみに出て、大きな波紋を呼んだ。
問題の発端は、200人以上が参加するチャットグループだ。報道によれば、「(全紅嬋を除く)他の選手への攻撃は禁止」といった内容が掲げられ、特定の選手(全紅嬋)だけを標的にする異常な状態が続いていた。
4月10日、警察当局は、全紅嬋を繰り返し中傷したとして、このグループを作成した31歳の男性に10日間の行政拘留と罰金の処分を科したと発表した。しかし、ネット上では「処分が軽すぎる」「一人に責任を押し付けて幕引きを図ったのではないか」といった批判が噴き出している。
全紅嬋が2026年上半期の大会をすべて欠場するという今回の発表では、その理由について「あくまでけがの回復が不十分なため」と説明している。だが、直前に明らかになった中傷騒動との関係には触れられておらず、競技の外での強いストレスの影響は、多く語られていない。
トップ選手であっても守られない現実。その違和感は、いまも消えていない。
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