長期金利2.9% 30年ぶり高水準 市場は財政の何を問うているのか

2026/07/10 更新: 2026/07/10

7月9日の国内債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが一時2.900%に上昇した。1996年9月以来、約30年ぶりの高水準である。前日比では0.035%の上昇となった。中東情勢が再び緊迫して原油価格が上昇し、インフレ懸念に伴う債券売りが強まった。

直接の引き金は原油である。だが長期金利は5月18日に一時2.8%をつけるなど、この間水準を切り上げてきた。債権価格と利回りは逆相関になっており、債券価格は下落すると利回りがあがる。

ここにきて高市早苗政権の積極財政による財政悪化リスクを意識した債券売りが続いているという声もあがっている。

骨太方針で入れ替わった言葉

政府は6月30日の経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)」の原案を示した。

財政運営の中核目標を単年度のプライマリーバランス(PB)黒字化から、国と地方を合わせた債務残高対GDP比の安定的な低下に改め、通常の歳出とは別枠で「強く豊かな日本」投資枠を新設する。同枠には要求上限(シーリング)を設けない。7月中旬の閣議決定を目指す。

第一生命経済研究所の星野卓也氏は、原案と前年版のテキストを比較し、「財政健全化」の語が11回から0回に消える一方「財政の持続可能性」が13回「市場の信認」が9回、新たに登場したと分析している。最頻出語は前年の「地域」(184回)から「投資」(157回)に変わった。同氏は、黒字を健全、赤字を不健全とみなす含意を避けるための意図的な語の入れ替えとみている。

高市首相は6月24日の経済財政諮問会議・日本成長戦略会議の合同会議で、17分野・62製品技術への官民投資額が2040年度までに総額370兆円を超えると説明し、「行き過ぎた緊縮志向と未来への投資不足の流れを断ち切る」と述べた。

370兆円超は2027年度から2040年度までの14年間で年26.4兆円に相当する。

野村證券の岡崎康平氏は、2025年度の民間設備投資125兆円、公共投資33兆円と比べれば無視できない規模だが、そのすべてがGDP統計における設備投資・公共投資の定義に当てはまるかは不明だと指摘する。同氏は現時点では大きすぎも小さすぎもしない規模と評価している。政府と民間の負担割合も現時点では公表されていない

日銀は「後手」なのか

日銀は2025年12月に利上げし、2026年6月15日から16日の金融政策決定会合で追加利上げに踏み切った。方向は引き締めである。にもかかわらず市場は、政策対応が物価に追いついていないとの警戒を解いていない。7月3日の債券市場では、財務省が7月2日に実施した10年債入札の応札倍率が3.13倍と前回の3.53倍を下回り、需給の緩みを意識した売りが出た。市場では、日銀の政策対応が物価上昇に追いつかない「ビハインド・ザ・カーブ」に陥ることへの警戒が広がっている。

利払い費という時限装置

また金利が上昇すると当然、財政にも直接跳ね返る。

財務省が2026年度予算案を基に作成した後年度影響試算によると、国債の利払い費は2026年度の13.0兆円から2029年度に21.6兆円へと約7割増え、元本返済を含む国債費は31.3兆円から41.3兆円に膨らみ、歳出全体に占める割合は約26%から約30%に上昇する。

さらに財政制度等審議会が4月17日に示した試算では、利払い費は2035年度に35.9兆円、金利が想定より1%上振れした場合は45.2兆円と、2026年度の3.5倍に達する。財務省は資料で、市場の信認を失えば金利が上昇するだけでなく、通貨への信認も損なわれるとの趣旨を明記した。

同じ日の試算では、2034年度の利払い費が従来想定から約8.4兆円上振れし、34.0兆円になるとされた。時事通信の報道によると、財政制度等審議会分科会の増田寛也会長代理は会合後、財政余力をいかに高められるかが重要だとの認識を示した。

金利高と通貨安の同時進行

通常、財政拡張は金利上昇を通じて資本を呼び込み、通貨高をもたらす。ところが足元では逆の現象が起きている。円相場は6月30日に1986年12月以来およそ39年半ぶりとなる1ドル=162円台に下落した。市場では、2027年度予算案で明確な財源が示されなければ170円台に下落するとの見方も出始めている。

金利上昇と通貨安が同時に進むのは、投資家が日本国債にリスクプレミアムを要求している証左とされる。一方で日経平均株価は7月3日に前日比1010円高の6万9744円をつけ、7万円が視野に入った。株高と債券安と円安の併存は、債務の持続性そのものではなく、インフレと通貨価値の希薄化による調整を市場が織り込んでいる可能性を示唆する。

楽天証券経済研究所の愛宕伸康氏は、政府が投資ロードマップを描き補助金を用意しても、企業は中長期的な採算が見込めなければ投資に踏み切らないと指摘する。同氏は、過去に繰り返された経済対策で潜在成長率が高まったとは言いがたく、供給制約によるインフレ下で野心的な投資促進策を講じた場合の副作用を意識すべきだとしている。

検証機関の不在という論点

歳出膨張の管理も課題として残る。日本総合研究所の村瀬拓人氏によれば、2025年度の一般会計における補正予算での追加額は18兆円で、予算全体の13.7%に達した。経済産業省予算は当初の0.35兆円から補正で2.37兆円と7倍弱に膨らんだ。当初予算にシーリングが課される結果、継続的に必要な支出まで補正に回る構図が定着している。同氏は多年度予算編成と独立財政機関の設置を提言している。

行政府から独立した立場で財政の見通しを分析・評価する独立財政機関(IFI)は、OECD加盟国の多くが設置しているが、日本にはない。2013年6月には衆参両院の超党派有志議員が国会への設置を提言したが、その後の税収増と金利低下により議論は後退した。

もっとも、政府側にも動きはある。骨太方針2026に向けた予算編成改革の基本原則には、市場の信認確保のため第三者的レビュー(独立的な検証機能)の検討を進めるとの項目が盛り込まれた。

長期金利は節目の3%に近づいている。骨太方針の閣議決定は7月中旬を目指すとされる。市場が問うているのは歳出の額そのものではなく、投資枠、財源、金融政策の三つが整合しているかどうかではないか。

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