防衛装備庁は7月15日、長射程自爆型無人機(UAV)の脅威に対処する「迎撃ドローン早期取得プログラム」の実証試験について、エアモビリティ、全日空商事、Terra Drone(テラドローン)日本海洋の4社を受託企業に決定したと発表した。8月上旬までの実証試験を経て、有望な機種は速やかに量産取得へ移行する方針である。
ウクライナや中東の戦域における長射程自爆型UAVの大量運用は、高価格な迎撃ミサイルのみに頼る従来の防空システムの限界を露呈させた。これに対処すべく、比較的低コストで迅速に配備・量産できる迎撃ドローンの獲得は、日本の安全保障においても一刻を争う課題となっている。
しかし、このプログラムは単なる新兵器の導入にとどまらず、戦闘の様相が数週間単位で変化する「新しい戦い方」に対し、日本の防衛調達制度、そして脆弱な国内ドローン産業がどう応じるかという、極めて本質的な転換点を示している。
「とにかくスピード」完璧主義を捨てる防衛省の決断
防衛装備庁の担当者は大紀元の取材に応え、本枠組みを開始した背景として「ウクライナ侵略では、2~3週間のうちにドローンの性能がアップデートされるといった、今までには考えられないような速度のフィードバック・サイクルが行われている」と指摘する。
こうした戦場での激しい変化に対応するため、防衛省は「最初から100%の性能を求める完璧主義をやめ、とにかくまず部隊で使ってみる」という調達マインドの変革へと舵を切ったという。
従来、数か月から数年を要していた装備品の取得プロセスを、本プログラムでは「募集から選定」「選定から実証試験の終了」「契約締結から取得」の各工程をそれぞれ約1か月と設定し、プログラム開始から約3か月という、異例の極超短期スケジュールで量産調達の契約まで試みる体制は、これまでの防衛調達から見れば歴史的なスピード感と言える。
急ピッチ開発の背景 脆弱な国内生産基盤と「今すぐ必要」な防衛力
日本がこれほどまでに急ピッチで迎撃ドローンの取得を急ぐ背景には、中国や北朝鮮の無人機活動の活発化がある。
中国は日本周辺で偵察・攻撃型無人機「WL-10」や「GJ-2」の活動を活発化させており、ロシアはイラン由来のシャヘド型、北朝鮮も自爆型無人機の量産に関与するなど、大量運用を前提とした脅威が日本周辺に直結している。
しかし、現在、日本のドローン生産基盤は極めて脆弱といえる。読売新聞によると、2024年の産業用ドローンの国内生産は約1千台にとどまる。戦時下ではあるものの、ウクライナの2026年のドローンの年間生産量は約700万台に達する見込みだ。
選定4社の思惑 ウクライナの「実戦知見」と「海外先進技術」の争奪戦
防衛省・海上自衛隊は、部隊のさまざまな戦術的、運用的ニーズを検証するため、迎撃ドローンに求める特性を4つのタイプに分類し、区分ごとに企業の募集と書類審査、指名競争入札を実施した。
選定された4機種は、いずれも終末誘導の自動化、垂直離着陸(VTOL)性能、地上管制システム(GCS)を使用した中間誘導の自動化への拡張性という共通の公募要件を満たしている。標的への直接衝突などによる迎撃を想定した機体である。
タイプ1は、機能を拡張することなく、単一の管制装置から複数機を同時に管理し、それぞれに目標を割り当てられることが要件となった。
この区分を受託したエアモビリティは、ポルトガルのBeyond Vision社製「BVQ404」を提案。同機はポルトガル軍への納入や北大西洋条約機構(NATO)の演習への参加実績があり、ウクライナでも実戦運用されている。
海外製ドローンの日本市場参入を支援する同社は、こうした海外のアセットを日本の防衛力強化に取り込み、防衛分野を含む幅広い事業領域でサプライチェーンを構築するとともに、量産体制の確立を目指している。
タイプ2では、他のドローンと比べて最大射程が長いことが求められた。受託した全日空商事は、ドイツのQuantum Systems社製「QS INTERCEPTOR」を提案した。受託した全日空商事は、ドイツのQuantum Systems社製の「QS INTERCEPTOR」を提案した
。同社は長射程(タイプ2)の実証試験を受託し、ドイツ製の高性能機体を供給する役割を担うこととなる。
タイプ3は、国産機であり、国内の生産基盤が整備されていることを要件とした唯一の「国産機」枠である。
選定されたテラドローンは、日本製の「TerraB1」を提案した。同社は、ウクライナの実戦環境下で開発実績を持つ現地の迎撃ドローン企業、Amazing Drones社とWinnyLab社を買収し、連結子会社化する予定だ。
ロシアのシャヘド型無人航空機(UAV)の迎撃に成功したウクライナの先端的な実戦知見と、日本企業としての供給力や制度対応力を組み合わせ、防衛事業への本格参入から約4か月で実証企業への採択を果たした。国内で継続的な生産と供給を支える体制を築き、防衛事業で主導権を握る思惑がうかがえる。
タイプ4では、迎撃時に優位性を確保できる最高速度が重視された。この区分を受託した日本海洋は、米DZYNE Technologies社製の次世代自律型迎撃ドローン「IonStrike」を提案した。同機は高度な自律飛行技術とオープンシステムアーキテクチャを備えている。
同社は、同盟国である米国の先進的な対無人航空機システム(C-UAS)技術を国内へ迅速に導入し、実用化を支援することで、海洋防衛ビジネスにおける地歩を固め、日本国内で多層的な対無人機システムの構築を主導する戦略である。
立ち塞がる「制度の壁」と今後の展望
実証試験では、飛行性能や探知・追尾性能のみならず、艦上での運用性や、通信途絶時の安全性といった実際の部隊運用(特に海上自衛隊)に直結する能力が検証される。
しかし、ここから迅速な量産取得・部隊配備に進むにはクリアすべき課題も多い。日本とウクライナの間には「防衛装備品・技術移転協定」が未締結であり、日本の防衛装備移転三原則による規制や、ウクライナ側の軍事用ドローン輸出規制などの法的な障壁が存在する。
こうした事情もあり、読売新聞によると、防衛装備庁の担当者はウクライナと防衛産業協力を進める機運はまだないと慎重な姿勢を崩しておらず、現状は民間主導の技術連携が先行する構図となっているという。
「まず試して、改良する」という新しい調達方式が、形骸化せず、実際の迅速な量産契約と部隊への早期配備へと本当につながるか。8月上旬に終了する実証試験の結果とその後の防衛装備庁の決断は、日本の防衛体制の即応力を左右する極めて重要な試金石となるだろう。
小泉進次郎防衛大臣は4日の定例会見で次のように述べた。
「自前で生産力を持たなければ、抑止力を持つことにはつながらない、この生産力こそ抑止力である」
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