なぜクビアカツヤカミキリ被害は桜で広がるのか 日本の桜並木が抱える弱点

2026/08/07 更新: 2026/08/07

サクラやウメ、モモなど、バラ科の樹木を内部から食い荒らして枯死させる甲虫「クビアカツヤカミキリ」の被害が、全国各地で拡大を続けている。

2012年に愛知県で初めて被害が確認されて以降、埼玉、群馬、東京、大阪、徳島、栃木、奈良、三重、茨城、和歌山、神奈川、兵庫、京都、千葉、滋賀と被害確認地域が広がり、2026年には岐阜県でも初めて被害が確認された。被害樹種は主にサクラ、モモ、スモモ、ウメといったバラ科の樹種である。

「クビアカツヤカミキリ」による被害対策として、全国の自治体が最終手段として選んでいるのが、被害木そのものを伐採すること。被害拡大防止の観点からサクラが伐倒される事態が相次いでおり、とりわけ全国に大量に植樹されているソメイヨシノでの被害が顕著だという。

サクラ並木を守るための対策が、結果としてサクラを切り倒すことにつながる、この一見矛盾した構図こそが、この虫がもたらす被害の質を象徴している。

なぜソメイヨシノばかりが標的に

ソメイヨシノは、江戸時代末期に生まれた一本の原木から接ぎ木や挿し木で増やされてきた、いわば単一クローンの集合体だ。全国の公園や堤防、学校の校庭を彩る無数のソメイヨシノは、遺伝的にはほぼ同一の個体とされる。

この遺伝的な均一性は、開花時期がそろい一斉に咲き誇るという花見文化を支えてきた一方、病害虫に対する抵抗力の個体差がほとんど存在しないことも意味する。

クビアカツヤカミキリが特に桜の大敵とされる背景には、全国どこでも同じ遺伝子型の木が大量に、しかも密集して植えられているという、日本の桜並木特有の景観そのものが関係している可能性がある。

この虫の侵入経路について、埼玉県環境科学国際センターは、輸入木材や梱包用木材、輸送用パレットなどに幼虫が潜んだまま運ばれてきて、国内で成虫に羽化し繁殖したと考えられるとしている。成虫の飛翔能力は限られており、長距離の拡散は人間の活動によるものと推定されるという指摘もある。

国境を越える物流網が、意図せぬ形で外来種の運び手になっている構図となっている。

繁殖力の高さも際立つ。1匹のメスが樹皮に最大で1000個の卵を産むとされ、埼玉県のまとめでもメス1頭あたり1000個近くの卵を産むこともあるとされている。

日本だけの問題ではない 中国やEUでも被害

クビアカツヤカミキリは、実は原産地の中国でも農業被害をもたらす害虫として知られている。幼虫の破壊的な摂食活動により、中国における果樹の最も重要な害虫の一つと見なされており、特にモモの木が被害を受け、果樹園のモモの木の半数以上が寄生されることもあるという。

原産地では天敵などによる抑制要因がある一方、侵入地域では有効な天敵が限られ、被害が拡大しやすい。

欧州でも同様の事態が起きている。南イタリアでの大発生では数百本の果樹が枯死し、EUでは防除措置における最優先事項として公式に指定されている。

2008年には英国の植物検疫当局の検査で、オランダの供給業者から送られた中国産と疑われる木製パレットから成虫3匹が発見された例も報告されている。

現在、日本での被害は20都府県に及ぶ。桜並木は地域の観光資源であると同時に、地域住民にとっての生活風景でもある。

被害木の早期の伐採は感染拡大を食い止める有効な手段とされる一方、長年親しまれてきた並木景観を失うことと表裏一体でもある。

「守るために伐る」という選択を、これだけ多くの自治体が同時に迫られている事態は、単一の樹種・単一のクローンに依存した戦後日本の緑化・造園文化のあり方そのものに、一石を投じているとも言えそうだ。

エポックタイムズ記者。日本の外交をはじめ、国内外の時事問題を中心に執筆しています。
関連特集: 社会