米大手総合情報サービス会社、ブルームバーグはある研究を引用しながら、中国政府が世論操作のためにSNSに投稿させている「やらせ書き込み」は、年間で4億8800万件に上ると発表した。
米ハーバード大学政治学者のゲイリー・キング氏は公共政策専門家2人と共に、中国共産党のネット宣伝工作員、いわゆる「五毛党」について初めて体系的に研究を行った。「五毛党」という名は、宣伝工作員としてレビュー1つを書き込むごとに、政府から五毛(貨幣0.5元の別称、約8.5円)の報酬を得ていると言われていることに由来している。
「五毛党」のほとんどは政府機関に所属する公務員
研究チームによると、中国国内で定着している認識とは違い、 五毛党には他人との直接な議論を避け、外国政府をあげつらうこともしないという特徴があるという。彼らの役目は、世間によいニュースを流したり、共産党を賛美したりして、一般市民の目を当局に都合の悪い話題からそらすことに絞られている。
キング氏はブルームバーグの取材に対し、中国当局はネット論争に勝って民衆を承服させるのではなく、不満を抱える民衆の注意を分散させ、話題を変えることによって、「好ましくない話題」の議論を収束させているとの見解を語っている。またこうした戦略は、以前は外部の人間には知られていなかったことだとも分析している。
さらに驚くべきことに、これまで五毛党は政府に雇われて小金稼ぎをしている一般市民だと言われてきたが、実はほぼ全員が政府機関に所属する公務員であり、例えば税務署や人的資源部門、司法関係といった職員だったことも明らかになった。研究者らは、こうした公務員らがレビューを入れて報酬を得ているという証拠は見つかっていないため、おそらく書き込みは彼らの仕事の一部であるとの見方を示している。
五毛党の書き込みの約半分は政府系ホームページに投稿されており、残りの半分はSNSの約800億件もの書き込みのなかに紛れている。単純計算すると、178個の書き込みのうちの1つが政府によるやらせレビューということを意味している。
世論操作のかなめは、「その問題に関係のない興味を引く話題」で民衆の関心を誘導すること
ブルームバーグは、今回の研究の発端は、江西省贛州市章貢区ネット宣伝弁公室から漏洩した2013年と2014年のアーカイブ文書だったと報じている。これらの文書には多種多様なメール形式や操作手続きの流れ、添付書類などが大量に含まれていた。キング氏の研究グループはこれらの文書に対し解読や分析、データの自動抽出や分類を行った。
その結果、彼らが抽出した特徴ある2341通の電子メールの半分以上に五毛党の書き込みが含まれていたことが明らかになった。五毛党の書き込み総数は43797個で、それらの特徴は他のやらせレビューを識別するための目印となっていた。研究者らは電子メールの情報とSNS上の名前を照らし合わせて、五毛党の人物を特定するところまでこぎつけている。現在、多数の五毛党に関する氏名や連絡先、写真に至るまでの情報を入手しているが、公開は避けるとしている。
これら五毛党によるやらせレビューが書き込まれる時期には、ある一定の規則性が見られるという。通常、社会不安や何らかの抗議行動が一旦生じれば、五毛党は直ちに書き込みを始め、「その問題に関係のない興味を引く話題」を提供して民衆の注意をこちらに誘導しようとする。例えば研究チームは、2013年7月に起きた新疆ウイグル自治区での暴動後に、五毛党がネット上に1100個もの書き込みを投稿したことを突き止めている。書き込みはいずれも、地方経済の発展を称賛し、「中国の夢」を賛美するものだった。
当局が今最も恐れていることは民衆の蜂起
同社はまた、研究者らがこれら漏洩文書の中からデータベースを作成して分析を進める中で自動学習の手法を使ったところ、中国国内のその他の地域における五毛党の書き込みを発見したことも報じている。
研究チームは、五毛党のやらせ投稿には以下の規則性があることも認めている。
1、論争になりそうな話題は避け、巻き込まれないにようにする。
2、民衆の関心から逸れるような別の話題を積極的に提供することより、集会や街頭抗議活動に関する議論を鎮静化させようとする。
3、徹底的な封鎖は民衆の怒りをあおるだけとなるし、逆に当局にとっては、反対意見を知ることにより、それらを参考にして地方の指導者を評価することができるというメリットがあるので、ある程度の異論は容認する。
研究チームは、中国の共産党政権が目下最も恐れているのは、外国から攻撃されることではなく、国内の民衆が決起することだと指摘している。
(訳注):「五毛党」とは、金のためにネット上で政府や共産党を擁護・賛美するような内容を書き込む人に対する蔑称であり、公募時の正式名である「網絡評論員(ネット評論家)」を略して「網評員」となり、「員」の同音字「猿」を使い「網評猿」と揶揄されることもある。狭義の意味での「五毛党」は各地の党や政府の宣伝部門、教育機関(特に大学)などに雇われ、専業あるいは兼業で書き込みをする人のことである。「網絡評論員」の身分を堂々と公開する人もいるが、大多数は普通ユーザーを装い複数のIDで投稿している。広義の意味での「五毛党」はネット上で中国政府や共産党を賛美・支持・弁護する傾向のあるすべてのユーザーをさす。このようなユーザーはよく一斉攻撃を行うため「網絡水軍」あるいは単に「水軍」とも呼ばれている。その他、社会に不満を抱き過激な主張や言動をする「憤怒する青年」の略称「憤青」とその同音蔑称「糞青」も、お金を貰わず自発的に政府や党を賛美する「自幹五」も、全部広義の意味での「五毛党」である。
(翻訳編集・桜井信一/単馨)
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