ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されている中国の「万里の長城」は、一部の観光エリアを除いて9割近くがほぼ崩落し、消滅の危機に瀕している。整備が行き届いておらず、工場建設による無断取り壊しなど、人的被害もみられる。「文化財保護意識の低さが、長城消滅危機の主因」と専門家は指摘する。
現在、北京近郊の「八達嶺長城」など、観光名所であるエリアは整備されているものの、ほかは明の時代に完成して以降、ほとんど修繕されることもなく、「野長城」とよばれている。そのうえ、人為的な破壊が至る所で起きて、近年中国メディアが現状を伝えている。
ダム工事により地盤沈下になったり、鉄道や道路などの建設で寸断されたり、長城のレンガが沿線の住民に建築資材に転用されたり、骨董品として売られたりしている。城壁に穴をあけてトイレや家畜小屋などにする農民もいるという。
2016年、遼寧省にある「小河口長城」では、階段が分厚いコンクリートで埋め尽くされた。地元の文化財保護当局は「合理合法で、上級部門の許可を得た修繕だ」と主張したが、インターネットではその無知ぶりを批判する書き込みが噴出した。
中国長城学会の幹部・董耀会氏の話では、山西省左雲県の農村で長城を挟んで建てられた2つの工場を合体させるために、60メートル長さの城壁が取り壊された。関係者の処分はわずか200元(約3500円)の罰金だった。
中国長城学会の副会長、古代建築専門家の羅哲文氏は「自然界の侵食よりも、人によるダメージの方がずっと深刻だ」と話し、中国社会全体の文化財保護に取り組む意識の低さが、長城消滅危機の主因だと指摘した。
整備は地方当局に任されている。このままでは長城が消えてしまうと懸念されるなか、管理責任者である国家文物局は「多大な人手と、資金が必要だが、沿線には貧困地域が多く、修繕を全うするのは困難だ」と釈明した。
インターネットでは政府の対応を批判する声が上がっている。「年間延べ1億人以上の観光客が訪れているのに、なぜ観光収益を修繕費に充てないのか」
「豪華な政府役所に数十億元の建設費をどんどんつぎ込んでいるのに、長城の整備になると『人力も財力も足りない』のか?」「笑止千万な話だ」
万里の長城の建設がはじまったのは秦の始皇帝時代、その後漢の武帝時代などを経て拡大・延長され、14世紀の明の時代に完成した。全長は約8851.8キロ。西端は甘粛省嘉峪関からスタートして、北京、天津、青海など15の省市自治区をまたがり、東端は遼寧省内の虎山長城で終わる。
(翻訳編集・叶清)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。