約100日間も消息が途絶えている中国のトップ女優、ファン・ビンビン。彼女の安否に注目が集まるが、巨額の脱税疑惑で当局に拘束されているとの報道もある。一部の専門家は、脱税は口実にすぎず、米中貿易戦や国内の経済状況の悪化が、彼女の失踪の背景にあると分析する。当局は、芸能人や富豪から資産を狙い、押収することを考えているという。
中国メディア「ファン・ビンビンは拘束されている」
中国国内の情報筋が8月6日、米中国語メディアの衛星放送・新唐人テレビに対して、ファン・ビンビンが北京市内で拘束され、取り調べを受けていると明かした。情報筋の親族が事情を知っているという。それによると、ひそかに拘禁されているビンビンに対して、当局は24時間監視をしている。「夜寝る時も監視されているほか、明かりを消すことも、両手を布団の中に入れることも許されていない。人身の自由を完全に奪われている」。
証券日報電子版6日の記事も、ビンビンの拘束について報じた。脱税疑惑のほか、一部の銀行の不正融資や汚職にも関わっているとし、今後法的処罰を受ける見通しだという。しかし、数時間後、同紙はこの記事を取り下げた。
中国国内メディアは、ビンビンが過去5年間の総収入が10億元(約160億円)に達したと指摘。また、ビンビンがオーナーや役員を務める会社は12社にのぼり、海外で不動産投資を行い、巨額の富を手に入れたと批判した。
政府系シンクタンク中国社会科学院も、批判に加わった。同院が今月3日公開した『中国影視明星社会責任研究報告書』では、映画スターとして、ビンビンが社会的責任を果たしているかを示すポイントに「ゼロ点」をつけた。
芸能報酬の税率を7倍引き上げ
中国国税総局は8月1日、映画制作会社や芸能事務所を対象に新たな徴税制度を実施した。新制度では、芸能プロダクションと芸能人が享受する課税優遇措置が全て撤廃されたうえ、個人所得税の税率を35%に統一し、さらに6%の増値税と0.78%の増値附加税も計上された。このため税率は、合計約42%となった。
中国経営報7日付によれば、匿名の芸能関係者は、これまで中国芸能人の徴税税率は6%だったと述べた。中国当局は芸能関係者らに対して10月までに、今年1~6月まで「不足分」の税額を支払うよう求めているという。「ビンビンの件で、中国の芸能界に激震が走った。今後、多くの大物芸能人が当局の引き締めの対象になるだろう」。
大紀元コメンテーターの華頗氏は、「税率の引き上げで、芸能界から1000億元(約1兆6000億円)以上の資金を集められるだろう」と述べた。また同氏によると、芸能人だけではなく富豪もターゲットになっているという。
富豪の間に広がる不安
今年5月、安邦保険集団元会長の呉小暉氏に対して、詐欺と職権乱用の罪で懲役18年の実刑判決が下った。また、呉氏の個人資産105億元(約1800億円)は当局に没収された。同社は2月、公的管理に置かれていた。呉小暉氏は中国の実力者・鄧小平の孫娘の結婚相手だった。
7月、中国複合企業、海航集団(HNAグループ)のナンバー2・王健氏がフランス南東部で謎の事故死を遂げた。海航集団が共産党高官グループの隠匿資産で、総資産はかつて1780億ドル(約19兆5800億円)と言われている。
中国の富豪の間では、次はいつ自分が標的になるかと不安が広がっている。なかには、共産党の機嫌取りに走る人物もいる。
中国インターネットサービス大手・騰訊控股(テンセント・ホールディングス)の馬化騰会長と、インターネット通販大手・京東商城の劉強東・最高経営責任者(CEO)は今年6月、「中国共産党の聖地」である陝西省延安市に訪れ、共産党政権への忠誠を誓った。
1920年代に共産党が組織した「紅軍」の軍服を身にまとう馬化騰氏らの姿がネットに流出すると、大きな衝撃は走った。「厳しい状況に置かれているだろう」、「保身のためのやむを得ない行動だ」という同情論がうずまいた。
今年1月に発表された米フォーブス誌のリアルタイム富豪ランキングによると、馬化騰氏の個人資産は501億ドル(約5兆5481億円)で、世界富豪ランキングで14位、アジアでは1位だ。
しかし、当局はこの機嫌取り作戦では態度を変えなかった。当局は8月、青少年の視力を保護するためにオンラインゲームの規制に乗り出した。この影響で、同月中旬にテンセントの人気オンラインゲーム「モンスター・ハンター:ワールド」が配信停止となった。業績悪化との観測が広がり、8月31日香港株式市場で同社株価が一時、前日比7.7%安となった。
そんななか、電子商取引最大手・アリババ集団の馬雲会長が10日、来年9月に引退すると突如発表した。名誉や金銭が手に入っても、共産党の支配下から抜け出すことができないという現実の前、馬会長の引退は「身を守るため」との見方が出ている。
馬会長が引退表明した当日、傘下の電子決済サービス大手・アリペイ(支付宝)は、中央銀行が設立した中国の銀行カード連合組織「銀聯」に吸収された。事実上の「上納」だ。馬会長はかつて、「アリペイをいつでも国に差し出す用意がある」と発言していた。
国内メディア・好奇心日報は、中国企業の経営者は「政治的に正しいかどうか(ポリティカル・コレクトネス)」に常に気を付けていると指摘した。
「国有化」で資産家を打倒し資産没収か
米サウスカロライナ大学の謝田教授は、当局は有名芸能人や富豪の資産を財政赤字の穴埋めに当てる意図がある、と指摘した。米中貿易戦で、中国が急激な元安を回避し、外貨準備を切り崩してドル売り・元買いの為替介入を繰り返してきたため、外貨準備は7月と8月、2カ月連続で減少。教授によると、経済成長の鈍化で、国内のキャッシュフローも厳しくなっている。
いっぽう、中国経済金融評論家の呉小平氏は、11日に発表した評論で、「私営経済はすでに役割を終え、そろそろ退場すべきだ」と主張。まるで資本主義経済を否定するかの論調を展開し、民間の企業家や投資家を驚かせた。
謝教授は、同記事は中国共産党政権の意向を反映したとみている。「共産党は従来から、資産家を打倒の対象にしてきた。今後、中国の民間の企業家や有名芸能人は厳しい現実に直面する。海外への移民ブームがさらに拡大するだろう」と述べた。
共産党は、政権を掌握する前の1920年代、貧しい人民を解放させるために「悪徳の資産家」と戦っていると宣伝していた。「打土豪、分田地」(豪族の財産を強奪して、貧乏な人に分配する) 運動を起こし、農民と労働者の支持を取り付け、政権奪取に成功した。今、富豪は再び、槍玉に挙げられている。100年経っても、中国共産党のやり方は変わっていない。
中国共産党が政権を握っているかぎり、いわゆる人生の成功者である芸能人や富豪は、俎上(そじょう)の魚でしかない。
(翻訳編集・張哲)
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