防衛価値が最も高いのは日本 中国の軍事脅威巡り=米CSISが各国有識者に調査

2020/10/25 更新: 2020/10/25

米国の有力シンクタンク・戦略国際問題研究所CSIS)は対中国政策について、米国や日本、欧州のオピニオンリーダー(Thought Reader)840人あまりからの意見をデータ化した。

回答したオピニオンリーダーたちは、経済、安全保障、人権、民主主義、教育などさまざまな分野の専門家。リーダーたちは、国際情勢およびアジア情勢の議論に影響力のある有識者でCSISから声をかけられた。米国内で440人、欧州とアジアで409人から回答を得ている。8月3~31日まで実施され、日本からは59人が参加した。

調査によると、400人あまりの米国のオピニオンリーダーたちは、中国の軍事的脅威から同盟国や友好国を守るためにかなりのリスクを冒す用意があると考えている。

中国からの軍事脅威にさらされた同盟国を防衛する価値を10段階で評価した場合、米オピニオンリーダーの間では日本(8.86点)が最も高い。次にオーストラリア (8.71点) 、韓国 (8.60点) 、台湾 (7.93点) 、そして南シナ海における同盟国・パートナー国 (7.12点) が続いた。

また、アジアと欧州のオピニオンリーダーたちの74%は、中国と関係を損なっても、米国とのパートナー協力関係を優先にしたいと答えた。

米中間で軍事衝突に発展する可能性は「あり得るが、低い」と考える割合は、米オピニオンリーダー(83%)、欧州・アジアのオピニオンリーダー(74%)、米世論(60%)といずれも6割以上だった。

また、国家安全保障の専門家のうち、79%が太平洋での中国との紛争では、今は米国が勝利すると考えているが、10年後の場合、勝利の確信は54%まで減っている。

中国の人権問題 批判声明と経済制裁の組み合わせを

中国の人権問題については、米国、欧州、アジアのオピニオンリーダー、そして米世論ともに人権問題への促進を重視するとの意見が7割を占める。彼らは、香港、チベット、新疆ウイグル自治区に関する人権問題を優先的に取り組むべきだと考えており、具体策として、中国政府に対する非難声明と関与者への経済制裁の組み合わせが適切だとした。

経済政策では、オピニオンリーダーのわずか14%が、米国は中国が自由市場経済になることを奨励すべきだと信じている。また、米国のリーダーの71%は、中国共産党政権で米国の経済的利益は損なわれたとみている。CSISの報告執筆者は、10年前と比較して、考え方が著しく変化したとみている。「米国および米国のリーダーたちは、もはや中国が自由市場経済に変わることがゴールだとはみていない」とCSISのスコット・ケネディ中国経済主席は香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストに語っている。

中国人民解放軍と深い繋がりのある通信機器大手・華為技術ファーウェイ)の第5世代移動通信システム(5G)の排除について、米国では71%、アジアと欧州のオピニオンリーダーの67%が支持を示した。さらに、半導体事業や部品の大手メーカーを持つ国の回答者である日本(85%)、台湾(82%)、韓国(76%)は、ファーウェイの5G市場への参入禁止に強く支持を示している。

欧州とアジアのリーダーは、中国経済とのデカップリングには消極的な数字を示しているが、米国が主導する5Gファーウェイ排除は支持する傾向にある。ファーウェイを禁止したいと考えるオピニオンリーダーのなかで、ハイテク企業を有する台湾(54%)と日本(44%)の回答者はより強硬な立場を示しており、中国のハイテク企業との取引禁止を支持している。

対中提言 クアッドのような小数国の枠組みに期待

CSISは、調査を踏まえた政策提言として、2020年10月に東京で開催された日米豪印外相会合(Quad、クアッド)のような少数グループによる枠組みが重要性を増しているとした。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムや欧州連合(EU)は、コンセンサス(共通の合意)形成が必要で、中国の取り込みに弱いと指摘。クアッドのようなグループによる軍事演習、外交的協調、機密情報の共有といった体制の強化に期待を示した。

いっぽう、中国との技術競争については、米国務省の提案する通信安全の保護の指針「クリーンネットワーク」のような多国間協力を強化するべきだとした。また、日本や韓国、台湾など先端技術を有する国・地域との輸出管理上の協調や、デジタル貿易協定によるルール作りのために、集中的な外交努力が必要だとした。

安全保障について、CSIS報告執筆者は、アジアにおける米国の抑止力と安全保障に対する信頼度は高い(7割以上)ものの、10年後は20~30ポイント低下していると指摘。

このポイント低下は、過去20年間の中国の大規模な軍拡、接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の急速な進歩を反映しているとみている。中国軍はこの間、地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルを1250発以上、戦闘機を350機以上、中国共産党による対米防衛線「第一列島線」に及ぶ統合防空システムを建設している。

この現状を受けて、米国の国家安全保障専門家は、サイバーや宇宙空間で中国を抑止する能力を高め、西太平洋における米軍のプレゼンスを高めることに重点を置いている。議会でも承認され、2020年国防権限法( NDAA)は「太平洋抑止力構想」を可決している。

また、11月の米大統領選挙について、トランプ氏が再選した際には、欧州各国との関係の見直しを促した。また、バイデン氏が勝利した場合は中国の軍事脅威下にある東南アジア諸国との関係強化を提言した。

CSISは、回答やオピニオンリーダーが国・地域で偏りがあるため、科学的な結果ではないとしつつも、対中戦略を練る上で大いに参考になるとしている。

(翻訳編集・佐渡道世)

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