菅首相とバイデン大統領は4月16日、ワシントンで日米首脳会談を行い、双方とも会談の成功を宣言した。会談後の共同声明は包括的で、異例にもある特定の対象に的を絞っていた。それは中国だ。
両首脳は、東シナ海、南シナ海、台湾海峡における中国の活動に深刻な懸念を表明した。また、香港とウイグル族に対する中国の弾圧にも言及した。
日本が中国の隣国であり、日本企業が中国で盛んにビジネスを展開していることを考えると、日本が中国政府に対してこのような直接の声明を発表することは非常に珍しい。実際、日本の首相が米大統領と共に台湾問題に言及したのは50年ぶりだ。
会談での菅首相の主な目的は、米国に「日本を守る」と改めて表明させることだった。共同声明と記者会見の内容を見る限り、日本政府は目標を達成したと考えているのかもしれない。
両国で違う解釈
共同声明によると、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した。米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した。 米国はまた、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認した」
声明を読む限り、日本は世界最強の米軍が核兵器を含む手段で防衛してくれる事と引き換えに、自国の軍事力の強化を約束したようだ。
しかし、会談の成果を正しく評価するためには、しばらく待って実際に何が起こるかを見るのが最善だ。特に、これまでの日米会談でも、今回とほぼ同じ内容が合意されているからだ。
問題はここにある。米国にとって、日本が「自らの防衛力を強化する」と約束する事は、日本が長年の防衛上の欠陥を改善することを意味する。
しかし、日本にとってその約束は、これまでの取り組み以上のことは何もしないという意味であるようだ。日本はその一方で、米国が所有する全ての兵器を日本の防衛に使用することを期待している。
したがって、日本が合意を守り防衛力を向上させるかどうかを判断するために、日本政府が今後90日間で以下のいずれかを行うかどうかを見るべきだ。
- 国防費を増やす。現在の年間約500億ドルでも低い。今後5年間で毎年10%の増加、そしてそれが適所に使われる事が必要だ。つまり、まず年間25%の自衛隊員の採用不足に対処するための支出、そして部隊が適切に訓練するための支出、そして残りを兵器の購入に使うべきだ。
- 陸・海・空の自衛隊が連携して作戦を行えるように改善する。各自衛隊が互いに通信できる手段を持っていなければ、日本が「超音速兵器」や「攻撃能力」などの先端兵器を購入・開発しても意味がない。それほど深刻なのだ。
- 日米両軍が日本の防衛に必要な計画、訓練、演習などを行う統合司令部を日本に設置する。日米安全保障条約を結んで60年たった今でも、そのような司令部は設置されていない。
これら3つの事に取り組まなければ、日本政府が(再び)約束した防衛力の強化に真剣に取り組んでいるのかどうか疑問である。日本が何をしようがしまいが、米国は守ってくれると思っているかもしれない。しかし、そうはならないかもしれない。
懸念されるシナリオ
米国の支援の約束は誠実であるが、中国が日本に対して全面戦争を仕掛けたほうが、米国は支援しやすい。中国が現在の「水面下」のアプローチを続ければ、日本と周辺地域ですぐに深刻な問題が起こる可能性がある。
次のシナリオを想像してみよう:
- 300隻の中国漁船と25隻の中国海上民兵船が尖閣諸島に来る。十数隻の中国沿岸警備隊の船と中国海軍の艦艇も同行している。
- 中国の艦隊は、日本の海上保安庁に「撤退せよ」と命令し、小さなチームを尖閣諸島に上陸させる。
- 日本の海上自衛隊と沿岸警備隊は増援を送るが、数でも兵器でも中国に劣っている。米国は第7艦隊から艦艇を送り込み、近くには日米の潜水艦も潜んでいる。
- しかし、米国と日本は、侵入してきた中国艦船を沈めることに消極的だ。中国海軍が報復し、第三次世界大戦が始まる可能性があるからだ。
- 中国政府と中国海軍は、米海軍と日本海上自衛隊が報復しないと計算してこの侵攻を仕掛けた。
- 核戦争をしたくなければ、この時点ですでに決着は着いている。
しかし、米国は日本の防衛において核兵器の使用も含まれると約束したはずだ。それでも特に米国領土が直接脅威にさらされていない今回のようなグレーゾーンの状況では、核兵器を使用することに反対する強い有権者層が現れるだろう。中国は「どうぞ、狙ってみろ」と言うかもしれない。
米国にはより小さな「戦術的」核兵器もあるが、核であることに変わりはなく、「小さな核兵器」だからといって容易に使用できるわけではない。そして、尖閣のシナリオだけでは、米国が日本のために引き金を引くには不十分かもしれない。
日本は行動を起こす必要がある
先程述べたポイントをまとめてみよう。
従来の戦力は依然として重要であり、日本は必要な戦力を持っておらず、米国を過度に依頼している。米国はこの20年間、中国ではなくイラクとアフガニスタンに力を注いできた。
もちろん、米軍は依然として強力だ。しかし、中国人民解放軍は、艦船の数、対艦巡航ミサイル、日本やグアムの米軍基地に打撃を与えることができるロケット部隊など、いくつかの分野で米軍に勝っている。
日本は、これまでのように米国に依存できないことを認識すべきである。むしろ、自国の軍事力を真に向上させるために、より多くの行動が必要だ。その過程で、日米同盟はより強固なものになり、中国の侵略に対するより大きな抑止力となるだろう。
菅・バイデン会談が終わり、適切な声明と約束が交わされた今、日本が防衛を「強化」するために実際に何をするのかを見てみよう。中国を阻止するには、首脳会談や共同声明だけでは足りないからだ。
日本の憲法は更なる軍事発展を禁止していのかというと、そんなことはない。武力行使を規定した憲法第9条は、制定当時から繰り返し再解釈されており、日本が自衛のために必要なことは何でも出来る。日本の政治家らは、「憲法」と「憲法第9条」を口実にして、やりたくないことをしないようにしてきた。
日本の財政状況が原因で防衛予算が増やせないのかというと、そんなこともない。日本は豊かな国で、防衛に必要なお金は十分持っている。日本はただそれを使おうとしていないだけだ。米国に頼って「ギャップを埋める」方が簡単だからだ。これが両国の安全保障を脅かしているにも関わらず、米国はこれに不満を示したことはない。
では、日本の世論は日本の防衛力強化を阻害しているのだろうか。日本の指導者たちがその必要性をしっかりと説明すれば、世論は賛同するはずだ。日本の世論は圧倒的に反中国だ。そして、大多数が強力な措置で日本の領土を守る事を支持している。自衛隊の脆弱性の現実を知れば、国民は驚き、政治家たちを非難するだろう。
(文・Grant Newsham/翻訳編集・大紀元日本ウェブ編集部)
執筆者:グラント・ニューシャム(Grant Newsham)
米海兵隊の元将校、米国の外交官と企業幹部を歴任し、アジア太平洋地域で長年の仕事と生活の経験を持つ
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