米海軍、17のタイムゾーンにまたがる大規模演習を計画 中露との衝突に備える

2021/05/25 更新: 2021/05/25

米海軍と海兵隊は今年の夏頃、近年まれに見る大規模な軍事演習を行う予定だ。最先端の技術と戦術を用いて訓練を行い、将来起こりうる中国ロシアとの軍事衝突に備える。演習は17のタイムゾーンにまたがり、米海軍と海兵隊から約2万5000人が参加する。米軍事サイトMillitary.comが報じた。

「ゲームに登場するような技術も登場」する軍事演習

「ラージスケール演習(Large Scale Exercise 2021、LSE)」と呼ばれる今回の演習には空母や潜水艦、航空機、無人船舶などが投入され、米国本土、アフリカ、ヨーロッパそして太平洋に配備された米軍の各部隊が参加する。

米海軍と米海兵隊は20年近い中東地域での作戦行動を通じて、密接な連携関係を構築してきた。中国やロシアとの競争が激しさを増す今日、米海軍省は主要な任務を対テロ戦から中露の侵略行為を阻止する方面へと切り替えている。

米艦隊総軍司令部のタビサ・クリンゲンスミス少佐(Lt. Cmdr. Tabitha Klingensmith)は、30以上の部隊が実地訓練に参加する予定で、そのほかに50以上の部隊がバーチャルで参加する予定だと明かした。

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そして、クリンゲンスミス少佐は、今回の演習は実際にフィールドで参加する部隊とバーチャル空間で参加する部隊が一体となり、既存の演習では達成できなかったようなレベルのものになるとの見方を示している。

「LSEでは、ゲームの中に登場するような技術が使われる。世界各地の司令部とユニットをオンラインで接続することで参加する部隊を増やし、海軍と海兵隊が将来直面するような場面を如実に再現する」

南シナ海における戦闘を強く意識する米軍

軍事演習に参加する部隊は、将来、中国共産党の人民解放軍と武力衝突が発生した際に遭遇しうる状況に対処する能力が試される。演習では、紛争中の環境における沿岸作戦(LOCE、Littoral Operations in a Contested Environment)や、遠征前方基地作戦(EABO、Expeditionary Advanced Base Operations)、紛争中の環境における指揮および統制(Command and Control in a Contested Environment)といったシチュエーションが想定されている。

「EABO」とは米海軍が提唱した新時代の作戦構想である。まず、敵軍の占拠する島を海兵隊が襲撃し、自軍の陣地とする。そこに各種ミサイルシステムや通信システムを配備し、飛行場を整備することで拠点化する。そして、このような拠点に依託して軍事行動を展開し、最終的に制海権を掌握する。

海兵隊はEABOを「海上阻止の形勢を逆転させる(turn the sea denial table)」ものであると形容している。

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近年、すさまじい勢いで発展してきた中国人民解放軍は、南シナ海における支配権を強めている。第一列島線に位置する沖縄や台湾を射程に収めるミサイルを配備するにとどまらず、南シナ海で航行する米軍空母を撃沈するために「空母キラー」と呼ばれる大型の対艦ミサイルを開発した。そして、より遠距離を射程に収める弾道ミサイルの配備を進め、グアムの米軍基地まで照準を合わせている。

このように米軍の空母艦隊の進入を阻止し、周辺地域から米軍を追い出そうとする中国人民解放軍の作戦は一般的に、接近阻止・領域拒否(Anti Access/Area Denial、A2/AD)と呼ばれている。中近東での「対テロ戦争」から手を引き、西太平洋へとバランスシフトした米軍がこのような脅威に直面した際に考案した対抗策こそが、前述の「EABO」そして「LOCE」である。

中国軍の脅威に対処するのは米インド太平洋軍だ。その任務地域は非常に広く、14ものタイムゾーンに跨っている(同軍公式ホームページより)

近年まれに見る大規模演習

米海軍の訓練および本土防衛を担当する米艦隊総軍で指揮官を務めるクリストファー・グレイディ大将(Adm. Christopher Grady)はMillitary.comの取材に対し、「今回の大規模演習は単なる演習ではない。複数の海軍部隊が、世界中の紛争状態にある水域で武器やプラットフォームを共有しながら統合的な戦闘能力を高めるためのものだ」と述べた。

そのうえでグレイディ氏は、今回予定されている演習は始まりに過ぎず、今後も海軍は絶えず力量を増強していくことを明らかにした。「優れた海部隊とはどういうものか、その限界の枠を押し広げ続ける」と強調した。

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また、米海軍作戦部長のマイク・ギルディ大将(Adm. Mike Gilday)によると、今回の演習は十年来最も大規模な演習になるという。

米海兵隊に所属する3つの海兵遠征軍は、それぞれ配下の部隊を演習に派遣する。また、大西洋地域を担当する第2艦隊、東太平洋を担当する第3艦隊、東大西洋および地中海を担当する第6艦隊、西太平洋およびインド洋を担当する第7艦隊、サイバー戦を担当する第10艦隊は、それぞれの配下にある部隊を演習に送り出す。

第1、第8、第9は欠番であるため、このたびの「ラージスケール演習」では、米海軍の大多数の部隊が訓練に参加することとなる。

広がる対中共包囲網

国内ではウイグル人や法輪功学習者に対して残酷な弾圧を行い、国外では周辺諸国に圧力をかけ続ける中国共産党政権に対し、各国が連携して封じ込めを試みている。

5月11~17日にかけて、日本の九州地方南部では自衛隊がフランス陸軍、米海兵隊とともに離島防衛訓練を行った。自衛隊からは、島しょ部が侵攻された場合に上陸作戦を行う専門部隊「水陸機動団」が参加し、南シナ海で活発な動きを見せる中国を牽制した。

また海上自衛隊は4月5~7日にかけて、ベンガル湾で行われたフランス海軍主導の共同訓練ラ・ペルーズ21に参加し、各国との連携強化を図った。

米軍も中国共産党の封じ込めを本格的に取り組み始めている。米インド太平洋軍は3月1日、中国共産党政権に対する抑止力を高めるために4600億円の追加予算を求める要望書を連邦議会に提出した。その中には、グアムに全方位からの攻撃に対応可能な統合防空機能を構築する計画が含まれている。

(王文亮)