中国共産党公式メディアと代理人は2021年のカナダ連邦選挙結果に影響を与えるため、様々なメディアプラットフォームで扇動記事や偽情報を流していた。共産党に不都合な政策の阻止や政治行動を弱体化する狙いがあるとみられる。世界の偽情報を監視するカナダ拠点団体「ディスインフォ・ウォッチ(DisinfoWatch)」が報告書のなかで指摘した。
報告書は、創設者のマーカス・コルガ(Marcus Kolga)氏と、カナダのシンクタンク「マクドナルド・ローリエ研究所」(MacDonald Laurier Institute)の通信責任者である劉愛民氏が12月1日に発表した。
報告によると、中国当局の代理人は共産党機関紙・環球時報やSNSの微信(WeChat)、華僑が集まるローカルサイトなど、さまざまなメディアプラットフォームで扇動記事や偽情報を流していた。偽情報は特に、中国系カナダ人の有権者が野党・保守党候補者を避ける内容に集中している。
これらの情報発信は、中国共産党が好まない政策成立を試みる候補者や、保守党にネガティブな印象を与えるもので「恐怖と怒りを煽っている」と執筆者らは指摘した。
たとえば、環球時報9月9日付の記事は保守党の対中外交政策を非難した。政策には、中国共産党の人権侵害者の責任追及、貿易の中国依存から脱却した多角化および中国からの撤退、カナダの次世代通信インフラにファーウェイの参入禁止、カナダのケーブルネットワークからの中国公式メディアの排除などが含まれている。
党の舌と呼ばれる機関紙である同紙は、保守党が対中強硬政策を実行した場合「報復する」と威嚇した。報告書によると、カナダの選挙をめぐる中国共産党政権のプロパンガンダは、権威主義的な支配に対する批判をそらし、中国の利益を損なわないようにする狙いがあると指摘した。
保守党候補者の偽情報がWeChatに
報告は保守党の候補者ケニー・チウ(趙錦栄)氏に対する偽情報について詳述した。香港出身のチウ氏は、外国政府のために働く個人や組織に公式登録を義務付ける「外国影響力登録機構」設立を求める私設法案(法案C-282)を提案していた。環球時報の記事の後、チウ氏を攻撃する書き込みがWeChatに流れた。
この書き込みは、同法案が「コミュニティにおける表現の自由を抑圧し、中国とカナダの間の経済、文化、技術の交流を制限するもの」と非難している。実際には、同法案は特定の国や民族を対象にしていない。
チウ氏は以前、大紀元のインタビューに対して、メディアの虚偽報道をカナダ安全情報局(CSIS)に報告したことがあるが、CSISからは対処の是非に関する返事が得られなかったという。
環球時報の記事発表のタイミングから、当時の世論調査で保守派の支持率急伸を受けて出された可能性が高いと報告書は分析している。チウ氏に対するSNS上の偽情報も、この記事に合わせて発信されたという。
選挙予測を行う統計モデル338canada.comが収集した世論調査データによると、ブリティッシュ・コロンビア州のスティーブストン・リッチモンドではチウ氏当選と予測されていたが、結果は10%差で自由党候補に敗れた。報告書は、世論調査は完全ではないものの劇的な逆転は珍しいと指摘。SNSの選挙に対する影響力について当局の調査が必要だと訴えた。
中国共産党は偽情報、脅迫、威嚇、影響力工作を利用して、カナダの政治的議論や政策を直接に操り、カナダでの利益を促進する意思を繰り返し示してきた。報告書は、このような干渉はカナダの民主主義の健全性を損ない、民主主義の制度やシステムに対する国民の信頼を損ねる恐れがあると注意喚起している。
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