北朝鮮は30日、中距離弾道ミサイルを4年ぶりに発射した。通常の角度であれば在日米軍基地や自衛隊基地ほかグアムまでが射程距離となる。金正恩朝鮮労働党総書記は2018年に大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発を停止すると発表したが、これを破棄した可能性が強くなっている。制裁緩和を求めて今後も北朝鮮のミサイル発射実験が続くとの見方がある。
バイデン米政権高官は30日、北朝鮮のミサイル発射は「一層の不安定化を招く」と指摘。核・ミサイル開発を巡る直接協議を条件なしに行うよう呼び掛けたという。「真剣な協議の開始が適切で正しいことだと考えている」と高官は強調した。ロイター通信が同日伝えた。
防衛省は、今回の北朝鮮の中距離以上とみられる弾道ミサイルは最高高度約2000キロ程度で30分程度、約800キロ程度飛翔した。日本海の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと推定する。いっぽう、朝鮮中央通信(KCNA)も中距離弾道ミサイル「火星12」を発射したと発表。韓国国防省の分析によると、通常の角度ならば「火星12」の射程は4500キロから5000キロという。
KCNAによると、「火星12」には大型・大重量の核弾頭を搭載可能だ。30日の発射では弾頭部にカメラを備え飛行中に撮影を行ったと説明し、成層圏を越え宇宙空間から撮影した地球の写真を公開した。
韓国の文在寅大統領は国家安全保障会議(NSC)で「2017年に高まった緊張状態に類似している」と批判し、北朝鮮が2018年に発表した大陸間弾道ミサイルの実験一時停止について「撤回に近づいている」と懸念を示している。当時、北朝鮮は何度も発射実験を行い、2度は日本北部の上空を通過し北太平洋に落下した。
2018年、トランプ米大統領(当時)と首脳会談を行ったのち金正恩氏は長距離弾頭ミサイルの実験中止を発表していた。しかし、北朝鮮は労働党会議のなかで、「敵対的な政策を放棄する兆しがない」米国と同盟国との対峙を示し「長期的な戦い」に備えると、ミサイル実験の再開を示唆した。
1月中旬、国連安全保障理事会(安保理)で北朝鮮のミサイル開発に関わる北朝鮮国防科学院所属の科学者5人らに制裁を課すことを米国側は提起したが、中ロが「保留」を要求した。このため米国は同様の内容で12日付に独自制裁に踏み切った。
トーマスグリーンフィールド米国連大使は30日放送のABCテレビで「同盟国の日本や韓国とともにほかの対抗措置の可能性について協議する」と明らかにした。同じ日に外務省の船越健裕アジア大洋州局長は、ソン・キム米国北朝鮮担当特別代表と電話協議。核・ミサイル・拉致問題など緊密に連携していくことを確認した。
制裁緩和を求める金正恩氏の判断次第で発射実験は続く可能性がある。連続するミサイル発射について、AP通信は匿名の韓国専門家の話として、バイデン米政権を揺さぶり制裁緩和交渉を開始させようとする試みだと報じた。
米保守系シンクタンク・ハドソン研究所の北東アジア担当上級調査顧問ブルース・クリングナー氏は、そもそも2018年の実験停止自体は意味があるものではないと指摘する。「11の国連決議によって北朝鮮は核実験や弾道ミサイルの発射は飛距離に関係なく禁じられることになっている」とツイートした。
制裁はいくつもの抜け穴から形骸化しているとの指摘もある。昨年10月に発表された国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネルによると、北朝鮮は経済的苦境のなかでも核・弾道ミサイル計画と開発を継続し、禁止された石炭取引も続いているという。
このほか、外貨獲得の代わりに暗号通貨を窃盗しているとの報告もある。北朝鮮のハッカーは昨年、仮想通貨の取引所や投資企業に対してサイバー攻撃を仕掛け、4億ドル(約450億円)相当の仮想通貨を盗んだとブロックチェーン分析企業チャイナリシスが1月に報告している。
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