台湾有事は早ければ今年11月に起きる可能性があるー。在沖米海兵隊の政務外交部元次長で、安全保障に詳しいロバート・エルドリッヂ氏は警鐘を鳴らした。ロシアによる侵略戦争の勃発で世界情勢の不安定要素がくすぶるなか、中国が想定より早く台湾侵攻を図るかもしれないと分析する。
ロシアの教訓を学んだ中国軍はより緻密な作戦計画を立てるとみられている。対する米軍は武器弾薬の備蓄が不足し、日本は防衛力強化の道半ばで、中朝露の三正面作戦に直面する可能性もあると指摘する。
「もっと緊張感とスピード感をもって行動しないといけない」。エルドリッヂ氏は13日、大紀元の取材で危機感を表した。
――台湾有事が起こりうる時期について
台湾有事が発生するのであれば、11月から1月の間だと分析している。インド太平洋軍のデービットソン司令官は、中国の台湾侵攻は10年または6年以内と発言していたが、現在の世界情勢を見れば、さらに早まるだろう。
デービットソン氏の発言は、中国軍の人工衛星破壊能力を念頭に置いたものだ。これに対抗して米国などは人工衛星の防衛システムの研究を進めていたが、コロナ禍により遅れが出てしまった。
さらに、昨年秋行われた日本の総選挙では、台湾防衛を重視する中山前議員や長尾前議員が軒並み落選したことにより、国会では台湾を守るという気運が後退したと感じる。
今年に入ってウクライナ戦争が勃発し、世界情勢が大きく変化した。中国はロシアの失敗を見て、侵攻を思いとどまっているとの分析もあるが、大きな間違いだ。中国はロシアの失敗事例と成功事例、西側の戦い方や国際社会の支援の仕方、日本の対応など、全部分析している。使用している武器や戦術なども見ている。一番得したのは中国だ。
中国は新しい情報を元に台湾侵攻作戦を練り直しているだろう。世界情勢が混乱するなか、侵攻はさらに早まると考えた。
――台湾有事が近い6つの理由
1つ目は、中国は軍事的に有利だと中国が思っていることだ。先ほども衛星破壊能力に言及したが、人工衛星がなければ近代戦争は戦えない。
2つ目は、米国の武器弾薬の在庫だ。ウクライナに多くの軍事支援を行ったため、武器の在庫が足りない状況で、生産に2、3年かかるものもある。在庫がない状況では、台湾海峡の戦いに臨むことはできない。
3つ目は、中国に有利な状況が続いていることだ。中国は2015年頃から、いつでも台湾を侵攻できる体制になった。しかし、日本の右派は中国の軍事力を軽視し、左派は中国に対して宥和的だった。中国はすでに能力と意志が備わっている。中露が準軍事同盟を結んでいることが2月4日の共同声明で明らかになった以上、危険度はさらに増している。
台湾海峡で有事になれば、ロシアが動く可能性は十分ある。いままで台湾有事は台湾海峡だけのことだと思われてきたが、北海道も加わって二正面作戦になるかもしれない。北朝鮮も動けば、三正面作戦になる。米軍に余裕がない状況で、自衛隊にとって非常に大きな負荷となる。
さらに、世界の台湾に対する関心が形になる前に、中国は行動すると考えられる。形になるとは、国家承認すること、台湾関係法を制定することなどだ。
日台関係の強化も一つの分水嶺となりうる。日本における台湾への関心が高まるなか、日本版台湾関係法が制定され、防衛政策の転換と防衛費の増額が完成してからでは遅いだろう。
4つ目は、11月の米国中間選挙だ。過去数回の選挙を見ると、いずれも大きな混乱が生じている。混乱に乗じて中国が行動することも十分考えられる。
5つ目は、民主党であるバイデン政権が続いている内に行動することだ。
そして6つ目は、11月の最後の週から1月の最初の週までの5~6週間にかけて、在日米軍の人員が足りなくなることだ。感謝祭にクリスマス、ユダヤ教の祝日もある。8000名の日本人の従業員がいるので、お正月休みがある。その期間に中国が軍事行動を起こせば、人員不足が起きてしまう。有事は前もって分からないので、休暇中の隊員が沖縄に戻れないことも十分考えられる。
――台湾有事の前兆はつかめるか。
米軍は中国を過小評価する傾向がある。私は、中国が軍事演習を名目に、カモフラージュをして、そのまま侵攻することを心配している。
そして、中国の戦法はサイバーや人工衛星、工作員などを複合的に使うもの。クルーズ船に4千人~5千人の兵員と大量の武器を詰め込むことや、漁船を使う可能性もある。
中国がペロシ氏訪台後に行った大規模な軍事演習も、事前に準備していたもので、訪問を口実に実行しただけだ。それほど大規模の軍事演習はすぐ実行できるものではない。
――台湾有事の際に、ロシアはどう動くか。
ロシアは強くないが、それ以上に日本の対応が肝要となる。現在も多くの法的不備があるなか、ロシアの動きに日本側は混乱するかもしれない。日本は限られた防衛力の集中を妨げられる。
ロシアが軍を動かしても、日本に攻撃しなければ日本も撃ち返すことはできない。いつ撃つか分からない状態で、緊張感と混乱だけが増していく。これは自分の首を絞めているようなものだ。
ロシアが実際に動かなくても、日本はロシアを防ぐために全兵力を南方に集中することができない。北方の守りと南方の守りに加え、本州の守りも固めないといけない。したがって、実際に動かせる防衛力はおのずと限られてくる。
――日本の兵站と継戦能力について。
雑誌『月刊WiLL』で佐藤正久参議院議員と対談した際、海上封鎖に対する日米の連携の難しさについて意見交換した。有事になれば燃料や食料、負傷者の輸送が必要となるが、日本の兵站は弱い。
その原因となったのが専守防衛の考え方だ。自衛隊が発足した1954年当時、日本は専守防衛を貫くから国外に出て戦うことはないと判断し、兵站は日本国内で調達することとなった。なお、近年では少しずつ改善も見られている。日本と米国が1996年に締結した物品役務相互提供協定(ACSA)により、寄港した際の物資の補給などができるようになった。
さらに、通常は国の軍隊であれば、負傷者が出た場合、補充する兵員がいる。しかし日本では負傷者が出る前提で運用していない。23万人のうち、戦闘継続ができなくなった者が出ても補充は困難だ。その上、自衛隊では法的な強制がないため、戦争が勃発すれば任務を拒否する者が出る可能性も否めない。
――台湾関係法の制定をめぐって。
私は4年前、すなわち2018年の秋、雑誌『正論』で台湾関係法の策定を訴えた。しかし当時の国会と言えば、外国人労働者受け入れや「モリカケ」問題ばかり。結局2019年から始まったコロナ禍は法案から人的交流まですべてを停止させた。これを「失われた4年」と呼んでいる。
当時、米国ではトランプ前大統領が在任中であり、日本は安倍元首相が政権の座に就いていた。安倍元首相ほど台湾を想う総理はいなかった。
現在、自民党の部会では台湾関係法について議論が行われているが、国会の本会議での提出に至っていない。政治家が政府を動かさないといけないが、台湾を重視して動いている政治家は少ない。いっぽう、中華人民共和国(PRC)のために一生懸命動いている政治家が非常に多い。日米同盟や日台関係の強化を阻止する政治家がいるのも事実だ。
――現状で有効な対策はあるか。
コロナ禍により、高官同士の人的交流や軍事演習、防災訓練などすべてが止まった。もっと緊張感とスピード感をもって行動しないといけない。失われた4年間を取り戻すことはできないが、せめて1日も早く行動することが大切だ。
ロバート・D・エルドリッヂ
1968年米国ニュージャージー州生まれ。政治学博士。米リンチバーグ大学卒業後、神戸大学大学院で日米関係史を研究する。大阪大学大学院准教授(公共政策)を経て、在沖アメリカ海兵隊政務外交部次長としてトモダチ作戦の立案に携わる。著書は『尖閣問題の起源』(名古屋大学出版会、2015年)など多数。
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