米国の学校教育ではここ数年、人種差別に関する「批判的人種理論(CRT)」をめぐる論争が起きている。一部の個人や団体はCRTの学校教育に否定的だが、最近の調査でも、学校で「CRT」の概念が教えられていることが判明した。
マンハッタン研究所のザック・ゴールドバーグ氏とエリック・カウフマン氏の両氏は、「高校をまだ卒業していないか、卒業したばかりの18歳から20歳の米国人1505人を全国的なサンプル」としてCRTについて調査した。その内容は、CRTに関する4つの概念等を授業で教わったか、学校の大人から聞いたかについて質問するものだ。なお、サンプルの82.4%が公立学校に通っていたという。
ここで4つの概念とは、「米国は組織的な人種差別国家である」、「米国では
白人が特権を持つ」、「米国では、白人は非白人に悪影響を与える無意識の偏見を持つ」、「米国は盗んだ土地に建設されている」である。調査結果によると、このうち少なくとも1つの概念を学校で大人から教わった、あるいは聞いたと答えたのは、それぞれ62%、69%、57%、67%と大多数を占めていた。
また同調査によると、ジェンダーに関する2つの概念、つまり「米国は家父長制の社会である」、「性別は、生まれつきの性別に関係なく、アイデンティティの選択である」の2つの概念を、大人から教わったか聞いたりしたかどうかについては、どちらも肯定的な回答が多く、それぞれ53%、51%だった。
さらに「差別は、人種や性別による富やその他の成果の違いの主な理由である」、「性別は男と女だけでなく、たくさんある」と教わったかどうかについても調査された。その結果、分からないと回答した人を除いて、全体として、差別が成果格差の主な理由と教えられたのは62%、たくさんのジェンダーがあると教えられたのは3分の1だったと両氏は述べている。
今回発表された調査結果は未だプレビューの段階であり、報告書としての完全版は、今後数ヶ月以内に発表される予定だ。
マルクス主義の産物とも言われるCRTは、社会を「抑圧者」と「被抑圧者」というマルクス主義の二項対立による解釈を、「資本家」と「労働者」という階級ではなく、「白人」と「非白人」という人種に置き換えたものだ。米国では歴史的に公民権が向上してきたが、CRTの支持者は、米国人の生活のあらゆる側面に「制度的人種主義」と「白人至上主義」が根強く残っているとし、人種に基づく富と権限の再配分の実施といった「反人種主義」政策を要求している
一方の反対派は、CRTとそのコンセプトは不必要に社会的分裂を生じさせており、皮肉にも逆に人種差別的だと主張している。
米国社会では2021年頃から、学校教育でCRT関連概念に触れるかどうかが問題となった。全米の保護者が懸念を表明し、教育委員会にCRT関連概念の教育を中止するよう求めている。一部の学校ではCRT関連の概念を教えていることを否定しており、複数の左派の個人や団体、メディアも同様に否定している。
目くらまし
ゴールドバーグ氏は、左派による「CRTは(大学の)法学課程でしか教えられない法理論だ」という反論は、本質的に意味論上の目くらましだと述べている。
同氏は「問題は、学生がクレンショーやデルガドなどのCRTの「学問」を課せられているかどうかではない」とツイートした。「むしろ、学校が、人種(とジェンダー)イデオロギーに関する現代の左翼的な仮定やストーリーを、無批判に『定説』の真実として流布したり、受け流したりしているかどうかだ」
今回の調査結果によると、ほとんどの学生(68%)がCRTへの反対論を教わっていないか、調査で指摘されたCRTやジェンダー関連の概念に対して「立派な」反対論はないと教わっているという。
「重要なのは、この割合が人種や政治的志向、高校の種類によって有意な差がないことだ。つまり、この調査結果が回答者の政治的偏見を反映していると示唆する証拠はない。むしろ、この結果は、すべてのグループの大多数が、自分たちが教えられた概念に非難の余地がないという印象を持っていると示唆している」とゴールドバーグ氏とカウフマン氏の両氏は述べている。
「意図的かどうかにかかわらず、これが教化でないとしたら一体何なのだろう?」
また両氏によると、左派が展開するのは「保守派が『奴隷制度や人種隔離に関わる米国史の特定の時代について教えようとする教師の努力を攻撃するためのキャッチフレーズ』としてCRTを使っている」という議論だ。
「しかし、CRTの文化的急進主義と、民主党の活動家が支持する米国の歴史と社会に関する、一方的で文脈を無視した描写との間には強いつながりがある」と両氏は述べている。
また、今回の調査で「ある概念を教えられたことは、それを支持することと強くつながる」、そして「CRTに関連した概念の教室での流布は、人種的不平等について白人を非難し、白人を『差別主義者で卑しい』と見なし、アファーマティブ・アクションなどの『平等指向』政策を支持することが確実に予見される」と判明したとゴールドバーグ氏はツイートした。
同氏によると、この調査結果は、「(左派の)『CRTは学校で教えられていない』という話と矛盾する」
「この調査結果が過大評価されていると仮定しても、大学に入学する前の学生のかなりの割合が、CRTの概念にさらされていると言っても過言ではない」と同氏は続ける。
「こうした概念を教えようとする学校や教育者は、その概念を取り巻く様々な考え方を教えるか、あるいは教えることを完全に禁じられるか、つまり完全にストップするかの選択を迫られるべきだと、私たちは主張しています」
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