LGBT問題、過度な法規制で分断の恐れ 長尾敬氏「マジョリティの声を聞いて」

2023/03/14 更新: 2023/03/14

欧米諸国では性的少数者をめぐる過度な法規制で社会のひずみが生じている。これを尻目に、日本ではLGBT関連法案の議論が国会で進む。多数派の声も等しく考慮する長尾敬前衆議院議員は取材に対し、「マイノリティの方々の声を聞くのも大事だが、マジョリティの方々の声もたくさん聞かなければならない」と語った。

長尾氏は、LGBT理解増進法や選択的夫婦別姓など少数派の課題を通じて、左翼活動家がイデオロギーを浸透させ、世論はおろか政権与党内部さえも分断が図られている可能性があると指摘する。

ーーLGBT関連法案についてどのようにお考えか。

性的マイノリティの方々の中には、今のままで十分幸せに生活できいる方もいればそうではない方もいるので、広く意見を聞きながら解決していく必要がある。いっぽう、性自認という言葉が入ってくると慎重にならざるを得ない。ここが最大の論点だ。

自民党では2年前にLGBT理解増進法を作成し、機関決定した。そこでは性同一性という概念が盛り込まれた。心と体が一致しない性同一性障害の場合には、医師の診断を受けるなど一定の条件のもと、性別を変更することが法的に認められている。対する超党派の議連が作成した法律案は、性自認という言葉を主要な概念として据えている。

性自認の場合には、本人がそのように思えば自己の性別を決めることができるため、「私は体は男性だけれども心は女性なのだから、女性として扱っていただきたい」と言えば女性として扱わなければならない。しかしそうなると、生まれながらにして女性として生活している方々が、公衆浴場や更衣室、あるいはスポーツの世界において、色々な不都合を受けてしまう恐れがある。

そのため、やはり性同一性という言葉で法案を進め、性自認という言葉を概念に入れないと言うことが論点だと思う。

ーー政府与党内で「性同一性」が「性自認」に置き換わった経緯とは。

分からないというのが本音だ。安倍政権下では、性自認という言葉を総理と閣僚は答弁で口にしていない。しかし菅政権になり、岸田政権になってからは、性自認という言葉が閣僚の答弁書に書かれている。「性自認」という言葉を慎重に対応していたにもかかわらず、文書に盛り込まれていることは完全にブラックボックスだと感じる。

ーー「性自認」が法律で認められた際にどのような問題が生じるのか。

欧米の場合では、性自認による差別は許されないという流れになっている。例えば、海外ではレイプ事件を起こしたある男性が、自分はトランス女性であると性自認し、女性刑務所で刑を受けることを申し出た。性自認による差別は許されないという法律になっているため、その申し出を拒めば差別行為として処罰を受けることになる。その結果、犯人は女性刑務所に送られたが、刑務所内でレイプ事件を起こしたという事案がある。

もちろん全てのトランス女性が女子トイレを使いたい、女子の入浴場に行きたい、あるいは女子刑務所に行きたいということを主張しているわけではない。しかし中には、トランス女性を隠れ蓑(みの)に悪事を働くような場合もある。その防止策を講じなければならない。

ーー自民党案の「理解増進法」と野党案の「差別禁止法」、着地点はどこか。

こちらの案にするかはまだ決まっていない。現在の論点は、性自認に加え、差別は「あってはならない」という言葉と、差別は「許されない」という言葉のいずれを取り入れるか。ちょっとした言葉の違いだけれども、その先は大きく変わってくるので、これからの議論で結果が出るだろう。

ーー差別禁止法が社会に与える影響について。

秩序や道徳、人を思いやる気持ちなどが世の中にある以上、本来ならば法律がないほうが世の中は気持ちいい。しかし時々揉めごとが起きたり、悪さをする人がいるから法律を作ることになる。もちろん差別があってはならない。しかし法律で明文化することによって、新たな対立軸が生まれてしまい、人間関係がぎくしゃくする。

差別ということが法律で明文化されるといろいろなことが解決されると思うが、法的根拠を持って人間同士お付き合いするより、相手を思いやりながら生活したいもの。対立軸が生まれてしまうことは考えものだと思う。

ーーテレビでの発言によって謝罪に追い込まれたタレントもいる。

その女優の方は本当に気の毒だと思う。まだ法律ができてないのだが、もし法律が成立したら、そのようなことを口にしただけでも法律の処罰の対象になってしまう。

ーー処罰の具体的な内容はどのようなものか。

現在の法案ではまだ処罰のところにまでたどり着くものにはならないと思う。「差別はあってはならない」の文言にとどめれば加速度の度合いも低くなるのだが、「許されない」という文言になると、処罰を作らなければならないという概念になっていくだろう。

ーー渋谷区では女性トイレを多目的トイレに置き換えている。女性の意見はどうか。

女性は不自由に思うだろう。マイノリティの方々の声を聞くのも大事だが、マジョリティの方々の声はもっとたくさん聞かなければならないということが、やはり政治の役割の一つだと思う。お手洗いの話にしても、生まれながら女性である方が圧倒的に数は多いので、その方々がどう思っているのかという議論は非常に不足している。

女性団体と意見交換をした際、生まれながらにして女性である方々が安全を確保できるスペースがないまま「性自認」の概念が盛り込まれてしまうと困ってしまうとの声が上がった。

ーー国会の議論では性的少数者の声が取り上げられている。女性の声を聞く機会はあるのか。

圧倒的に少ないと思う。LGBT関連団体は法案を作成してほしいとあまり言わなかったが、T(トランスジェンダー)の方の一部は法律を絶対作ってほしいと主張した。もちろん、トランスジェンダーの方が全員この法律を推進しているわけではない。

欧米や日本国内の左翼活動家がLGBT問題や性的マイノリティの方々を利用して、自民党の中の議論を分断することや、国民の世論を分断することなどの画策しているのではないか、このことは確実に指摘できると思う。

ーー自民党内部でも意見が割れていると聞く。

あくまで個人の意見だが、自民党は左翼勢力に対する免疫力、抵抗力があまり強くないのではないか。気がつけば左翼勢力の人間がサイレントインベージョンして、もう侵入してきている。自民党の全部ではないものの、LGBT問題や選択的夫婦別姓の問題、経済的な部分では再生可能エネルギーの分野など(最重要とはみなせない課題に)全身全霊を傾けてしまう、そういう状況だ。

日本は昔から多様性を認めてきている。これも保守の保守たるゆえんの一つだと思う。対立軸を生むような法律を作りたい左翼勢力や、ぎくしゃくした世の中を作ろうとしている勢力に対して、自民党こそが「それは我が国には文化としてそぐわない」と毅然と対応するべきだと私は思う。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
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