16日現在、深刻な洪水に見舞われた中国の河北省や黒竜江省の被災地では、いまだに大勢の被災民が帰る家を失い、農地が水没して、生活再建の目途が全く立たない状況が続いている。
洪水災害の最も深刻な河北省の涿州や淶水(らいすい)を管理する保定市当局が今月11日に公表した救済・補償政策によると、洪水で死亡した市民の遺族には「犠牲者1人につき2万元(約40万円)」の補助金が支給される。
しかし、民間で推定される死者数は「少なくとも10万人」であるのに対し、河北省が公式に発表した死者数はわずか「29人」だ。つまり、政府からの補償金は(その金額がいくらであろうが)ほとんどの犠牲者家族が、もらえないことになる。
SNS上には「おお、2万元もあれば、ロバが買えるぞ」といった、あまりにも冷酷な当局へ向けた痛烈な皮肉コメントが多く寄せられた。政府補助金の少なさと、その人命軽視のひどさに、ため息をつく人は少なくない。
そのほかには、家が倒壊した農家には1家族あたり最高4万元(約80万円)。家が倒壊しなかった人には5000元(約10万円)の手当金が支給される、といった補償政策もある。
被災した農民によると「現地の農産物は全滅した」という。これに対し、政府から与えられる補償金は耕地1畝あたり9元(約180円)である。畝(ムー)は中国の農地などを数える単位で、1畝は約6.667アールに相当する。
収穫間近の農作物を全て失い、前借りした肥料代や耕作機械の賃料などがそのまま借金として残った農民にとって、1畝あたり180円の補償金が、もはや何の意味をもつのであろうか。
そのような折、河北省当局が被災農民に配る災害救援物資のなかに「農薬」が含まれていることがわかった。被災農民は「農地は水没で全滅した。いまさら農薬など、もらっても意味がない」として、困惑の声を上げている。
これを受けて、当局の恐るべき真意に「気づいた」といったコメントが多数寄せられている。「そうか。これ(農薬)は人に飲ませるためのものか!」。
中国では、農薬を飲んで自殺するケースが少なくない。農薬を救援物資として送った当局の真意は確認できないが、あまりにも奇妙なタイミングであるため、農民側には「これを飲んで自殺しろ」の意味に受け取るだけの現実感がある。
この農薬が被災農民の手に渡れば、あってはならないことだが、本当に「目的外使用」をするケースは高い確率であり得る。それが今の、被災地となった中国農村の現実である。
現在、多くの被災民にとって、最優先の課題は家の片付けである。屋内に流れ込んだ泥はあまりにも重く、人力でかき出すには限界がある。しかし、情報統制のため、民間ボランティアの救援隊は被災地入りが制限され、重機やトラックも外部からほとんど入ってこない。中国の官製メディアのニュースに映る災害復旧の光景は、当局が宣伝用に見せている「条件が比較的良い場面」である。
使用不能になった家具や家電製品など、大量の災害ゴミが北京などの都市からも出ている。そうした都市部の災害ゴミが、同じ被災地である農村に勝手に投棄されている実態もある。
河北省だけでなく、同じく深刻な洪水被害を受けた黒竜江省では、再度豪雨に見舞われている。
大勢の被災者が帰る家もない状況にいるが、中国当局による被災地の情報封鎖により、外部は被災の実態を知ることが困難になっている。そのため、民間ボランティアが救援に入ることもできない。
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