中国共産党と官製メディアが日本の処理水排出を巡って不安を煽るなか、中国の人々は放射線測定器を求めて奔走している。一般住宅で高い放射線量が計測されたとの動画がネットで出回ると大きな波紋を呼び、国民の関心は建築材料に含まれる放射性物質へと向けられた。識者は取材に対し、建材への不安は経営不振に陥っている不動産業界にとってさらに打撃になるのではないかと指摘した。
「自宅の放射線量は東京の976倍」
中国共産党が原発処理水について日本に対する世論戦・外交戦を展開すると、国営メディアもそれに続いた。中国中央テレビ(CCTV)の記者は8月24日、福島第一原発から約6.5キロメートル離れた地点に行き、放射線量を測定した。さらに、東京でも測定を行い、0.01マイクロシーベルト/毎時(μSv/h)だったと発表した。
中国共産党の煽りを受けた一部の中国人は食塩の買い占めに加え、放射性測定器(ガイガーカウンター)の「爆買い」を行っている。しかし、世論戦はあらぬ方向に展開した。
中国のネットユーザーが投稿した動画では、自宅内でガイガーカウンターを起動させたところ、9.7マイクロシーベルト/毎時(μSv/h)という高い数値が表示された。
「放射線量は不規則に上昇し、最高で9.7に達した。本当に驚いている。中国中央電視台のニュースによれば、東京は放射線量0.01なので、我が家の放射線量は東京の976倍ではないか」
驚きを隠せない投稿者に対し、建築業界に勤めていたというネットユーザーは「家の装飾に使われる石材が放射性を持っていることがある」と指摘。「この機会に皆さんも自宅の放射線量を測定してみてはどうか」とコメントした。
台湾メディア「Newtalk」によると、カナダ・ヨーク大学の沈栄欽準教授は、中国の人々の建材に対する不安は低迷する不動産市場に追い討ちをかけることとなり、中国経済をさらに大きな困難に陥れるだろうと考えている。
放射線測定器が売り切れ
日本政府や外務省、国際機関は処理水の安全性を繰り返し説明してきたが、中国共産党は処理水を「外交カード」として利用し続けている。8月24日に処理水の放出が始まると、ガイガーカウンターの需要は瞬く間に高まり、売り切れが続出した。
中国のECサイトでは、ガイガーカウンターの検索回数は放出前と比べて232%増加。販売台数が1万台を突破するメーカーもあるという。
浙江省のメディア「潮新聞」が8月29日に報じたところによると、ガイガーカウンターを手に入れた人々が身の回りの放射線量を測定した結果、自宅が最も高い数値を示した。
報道では、多くの人々が自宅の測定結果をネットに公開し、そのほとんどが0.1マイクロシーベルト/毎時(μSv/h)だったという。セラミックタイルや大理石といった建材が原因ではないかと考えられており、今後は建材のビジネスがさらに難しくなるだろうというコメントもあった。
米国在住の学者である栄剣氏は「本当に予想外だ。反日のスローガンを叫んで塩を買い占めるだけと思ったら、とんでもない連鎖反応が起きた。多くの業界が影響を受け、酷い目に遭うのは結局のところ中国国民だ」とツイートした。
栄氏は一連の騒動について、以下のようにまとめた。
- 食塩の買い占めが起こると思えば、実際は放射線測定器の爆買いが起きた
- 次は食品安全の問題と思ったら、建築材料の安全性が疑問視された
中国の原発こそ汚染源
NHKの8月29日付の「政治マガジン」によると、福島第一原発の処理水をめぐる中国との外交戦は放出前から繰り広げられていた。国際的な場で中国当局は「処理水」ではなく「汚染水」との呼称を使ってきた。日本政府は「政治問題化することに反対する」として、科学的な観点で対応するよう強く求めた。
いっぽう、中国沿岸部に点在する複数の原発からは高い濃度の放射性物質が排出されている。浙江省にある秦山原発では、2020年に218兆ベクレルの放射性物質が放出された。遼寧省の紅沿河原発では2021年に90兆ベクレルの放射性物質が放出された。
ドイチェ・ベレ8月29日付によると、中国原子力業界協会の統計データでは、13か所の原発が2021年に放出した廃水の中にあるトリチウムの量は、福島第一原発の1年間の予定放出量を上回っている。
英国「ガーディアン」紙も、福建省の福清原発のトリチウム放出量が、福島第一原発の予定放出量の約3倍だと報じた。
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