[台北 29日 ロイター] – 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者で前会長の郭台銘(テリー・ゴウ)氏が28日、来年1月の台湾総統選への出馬を表明したことで、与党、民主進歩党(民進党)政権3期目入りが予想されていた選挙戦は一転、混戦の様子を呈してきた。
最大野党の国民党は、無所属の郭氏によって票が割れることを恐れ、出馬を批判。一方の民進党は、郭氏の出馬によって予想外に野党側が結束する恐れもあるとして事態を注視している。
郭氏は2019年に鴻海会長を退任したが、今でも世界で最も著名な台湾人の1人だ。同氏は、中国との戦争に進む恐れがある民進党を「引きずり下ろす」ため、反対勢力を「結集」したいと述べた。
総統選は台湾と中国の関係が悪化している中で実施される。世論調査で野党候補に十分な差を付けて支持率首位を走る民進党の頼清徳副総統と民進党は、繰り返し中国と対立しており、中国は頼氏と民進党に台湾独立派のレッテルを貼っている。
郭氏は今年に入り、対中融和路線を掲げる国民党候補としての出馬を模索したが、侯友宜・新北市長に破れ、当時は侯氏を支持すると表明していた。
国民党は、郭氏出馬への怒りを隠していない。同党の朱立倫主席は28日夜、記者団に「民進党は花火を打ち上げるだろう。今晩レストランはどこも予約でいっぱいだと聞く。民進党が祝宴を上げているのだ」とぶちまけた。
国民党候補、候氏の支持率は低迷し、世論調査ではおおむね小政党、台湾民衆党の柯文哲・前台北市長の後塵を拝して3位に付けている。
<お家騒動>
民進党は郭氏の出馬について、国民党の「お家騒動」であり、国民による出馬の権利を尊重するとしている。
しかし、民進党幹部はロイターに匿名で「この動向を真剣に受け止めなければならない」と打ち明け、郭氏の出馬により国民党と台湾民衆党が手を組みやすくなる可能性を指摘した。
直近の世論調査では、民進党の頼氏の支持率は35―40%前後で、候氏に10ポイント程度の差を付けている。
郭氏はここ数カ月、この差を縮める最良の方法は、野党が結束することだと主張。民進党に投票したい有権者より、同党以外に投票したい有権者の方が多いと説明してきた。
台湾メディアは今、郭氏がこの結束をどう画策し、民進党が敗れた場合に次期政権でどのポジションを獲得するかを巡る思惑であふれている。
郭氏は28日に「私は団結の最大公約数になりたい。野党の他の候補者2人を招待し、コーヒーかお茶でも飲みながら、ざっくばらんに国政にいて議論するつもりだ」と述べた。
野党メンバーの一部は連立に前向きな姿勢を見せているが、国民党の候氏は26日の選挙戦イベントで、メディアに連立の可能性を問われた際に「なぜ、そんな話をするのか」と一蹴した。
郭氏の出馬表明以来、候氏は発言を控えながらも、28日遅くには「共通の価値観の下でのみ統合すべきだ。それ以外はあり得ない」と謎めいた言葉をフェイスブックに投稿した。
台湾の選挙制度は比較多数得票制であるため、民進党の頼候補の得票率が40%にとどまったとしても、残り3候補に票がほぼ等分に分散すれば、頼氏が勝利する。
郭氏出馬に対する民進党の反応はおおむね控えめだが、一部メンバーは喜びの声を上げている。
民進党のベテラン議員、王定宇氏はフェイスブックに、候、郭、柯の野党3候補を表す自動車3台の絵を描いて投稿し、「チキン」ゲームだと揶揄(やゆ)。「3つのうちどれが引っ込むだろうか。それとも最後まで突っ走って衝突するか」と書き込んだ。
もっとも、選挙当局によると、郭氏が正式に立候補するには11月2日までに有権者30万人近くの署名を集める必要があるため、立候補できる保証はない。
また、各政党による候補者登録の締め切りは11月24日で、理論的には候補者を代えたり、全面的に立候補を取り下げたりする可能性も残る。
郭氏は2020年の前回総統選で国民党からの出馬を目指したが、候補者指名を得られなかった。このため無所属で出馬するとの観測が高まったが、選挙の数カ月前に出馬しないと表明した。
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