[上海/北京 19日 ロイター] – 中国福建省で貿易会社を営むハン・チャンミン氏は、イエメンの親イラン武装組織フーシ派による商船攻撃に伴う紅海の物流混乱で、経営を存続できなくなる恐れに直面している。
中国製自動車をアフリカに輸出し、欧州からオフロード車を輸入しているハン氏はロイターに対し、欧州向けコンテナ1台の出荷の費用が、フーシ派の攻撃が始まった2023年12月時点で3000ドルだったが、今は約7000ドルに跳ね上がったと明かす。
「物流混乱で、もともと極めて薄かった利幅が完全になくなった」と語り、輸出のための保険料上昇も負担になっていると付け加えた。
<浮上するニアショアリング>
世界で最も利用される航路の一つである紅海で起きたこのような不穏な事態によって、中国の輸出依存型経済は、供給の混乱や外的な需要ショックに対して脆弱であることが浮き彫りになった。
生産拠点を中国に置く企業の間では最近、地政学的な緊張を踏まえて脱中国の動きが広がっているが、紅海の問題でこの流れがさらに加速。例えば、米国のBDIファニチャーは、トルコとベトナムの工場への依存を高める対策を講じている。
中国が今抱えている危険は、こうした方針に追随する企業が増えて、中国リスク低減戦略を改めて検討し、各社が本拠に近い場所に生産拠点を移す「ニアショアリング」を選択する可能性があることだ。
中国製機械部品を欧州に輸出するICトレードの創業者マルコ・カステッリ氏は「この状況が実際に恒久化する、または恒久化する可能性があるなら、全体の仕組みも再調整される」と述べ、一部企業は欧州までの輸送期間が1週間短いインドにより多くの生産をシフトしていると説明した。
既に国内の不動産危機や弱い消費、人口減少、世界経済のさえない成長などで苦戦を強いられている中国経済にとって、紅海の物流混乱がさらに大きくなれば、一段と重圧が加わることにもなる。
ハン氏の事業は欧州とアフリカ向けが4割を占めており、経営を続けていくためにサプライヤーや顧客に平身低頭して追加コストの一部負担をお願いしている、と話す。一部の注文の出荷は最長で数週間も遅れているという。
紅海の物流混乱は、中国で全ての工場の稼働が止まる春節(旧正月)の前でただでさえ取引を急ぐ時期に起きているため、一部企業にとっては痛みが倍増している。
紅海はスエズ運河経由でアジアと欧州を結ぶ最短の航路。商船が南アフリカの喜望峰沖に迂回(うかい)するルートを選んだ場合、輸送期間が2週間は長くなり、別の貨物を積み込むまでの時間が延びるので、世界のコンテナ容量が縮小し、サプライチェーン(供給網)に亀裂が生じかねない。
そうなると恐らく、本来4月か5月に予定されていた西側への貨物到着は遅延する。調査会社BMIによると、幾つかの物流企業は既に、世界有数の貨物量を扱っている中国の寧波舟山港でコンテナが不足していると報告している。
米シンクタンクの分析では、中国から欧州向けに輸出される製品の約6割はスエズ運河を経由しているという。
<連鎖的な影響>
温州市で産業用バルブを製造する企業を所有するヤン・ビンベン氏は、上海のある顧客からバルブの発注を最近になって75個から15個に減らされたと述べた。これらのバルブは、海外に輸出される大型機械に使われるものだが、背景には貨物運賃高騰があるとみられる。
ヤン氏は「影響は甚大だ」と語り、既に準備し、加工してしまった原材料はもう元に戻せない以上、「赤字を生む注文を受け取ったようなものだ」と頭を抱える。
従業員への給与は仕事の出来高制なので、もはや支払いを保証できず、今年必要な人員の見直しも進めているというヤン氏は「彼らに十分な仕事を提供できなければ、生活していけなくなるのではないか」とも心配している。
広州市の運送業者の一人は、一部のサプライヤーがより付加価値が低い製品の出荷を遅らせ、製造業セクターの在庫にプレッシャーを与えていると指摘した。
以前は予測できた取引環境の不透明感が増大する一方になるとともに、ジャストインタイム方式や定期的に在庫を入れ替えるやり方に頼ってきた企業への影響が、特に非常に強烈となっている。
カステッリ氏は、各工場が取引相手に製品が到着するまで代金を受け取れないというのが、もう一つの問題だと述べた。
「代金決済が遅れれば、彼らもサプライヤーや従業員への支払いができない。中国がグローバル市場で成功を収めてきたのは、薄利で仕事を請け負ってきたからだ。数量が出ればお金は回るが、お金の動きが止まれば大問題になる」という。
東莞市の高級スポーツウエアメーカーの幹部は、既に利幅縮小に悩まされている企業は、今回の物流危機のある時点で、多くが廃業に追い込まれるのではないかとの懸念を示している。
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