第213回国会における上川外務大臣の外交演説(全文)令和6年1月30日

2024/01/31 更新: 2024/01/31

毎年1回、1月中に召集される通常国会では、内閣総理大臣により、その年の内閣全体の基本方針を示すものとして、施政方針演説が行われ、この他、外務大臣、財務大臣、経済財政政策担当大臣からも演説が行われるのが通例となっている(いわゆる政府四演説)。令和6年1月30日、衆議院・参議院それぞれの本会議において、上川外務大臣により、外交演説が行われた。全文は次の通り。

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所信を申し述べるに先立ち、令和6年能登半島地震の犠牲者の方々と御遺族に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、負傷された方々及び被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げます。海外からも多くのお見舞いと支援の申し出を頂いており、これらの国、地域及び国際機関等に謝意を表します。

 第213回国会に当たり、外交政策の所信を申し述べます。

情勢認識

 世界は今、歴史の転換点にあると、私は日々実感しています。

 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、今なお続くロシアのウクライナ侵略により、重大な挑戦にさらされています。また、「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国・新興国の存在感の高まりにより、国際社会の多様化が進む一方で、国境や価値観を超えて対応すべき課題は山積しています。

 我が国は、全ての人が平和と繁栄を享受できるよう、昨年、国際社会から高い評価を得たG7議長国としての成果を踏まえ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に基づき、「人間の尊厳」が守られる安全・安心な世界を実現するための外交を推進していきます。

 引き続き、日本の国益をしっかりと守る、日本の存在感を高めていく、国民の皆様からの声に耳を傾け、国民に理解され、支持される外交を展開するという三点を基本方針として外交を展開していきます。

年始の外国訪問、WPSの取組

 私は本年初頭、欧州、北米及びトルコを訪問し、各国や国際裁判所との間で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化や、ウクライナ支援、中東情勢、さらには「女性・平和・安全保障(WPS)」や北極・海洋等について協力を確認してきました。

 特にWPSについて、主要外交政策の一つとして力強く推進し、その重要性を発信しています。省内にタスクフォースを設置し、あらゆるツールを用いてWPSを推進していきます。

中東情勢への対応

 中東情勢は引き続き予断を許しません。ハマス等によるテロ攻撃を改めて断固非難すると同時に、ガザ地区の人道状況を深刻に懸念しています。人道状況の改善、事態の早期沈静化、周辺地域への波及防止といった課題に対処すべく、私自身、対応に当たってきました。

 昨年11月にはG7外相会合を開催する前に現地を訪問し、G7外相声明の発出に尽力しました。安保理がその責務を果たせるよう、ガザ地区の児童の保護に焦点を当てた安保理決議第2712号及びガザ地区に対する人道支援の拡大と監視に関する安保理決議第2720号の採択に向けて精力的な働きかけを行いました。

 我が国は引き続き国際機関への支援等を通じ、ガザ地区の人道状況の改善に取り組みます。また、現在のような悲劇を繰り返さないため、日本が一貫して支持してきた「二国家解決」の実現に向け、今こそ、米国を始めとする関係国と連携しながら、積極的に貢献していきます。

法の支配の推進

 法の支配は、平和と繁栄の基礎をなすものです。先般、私は、国際司法裁判所、国際刑事裁判所、国際海洋法裁判所を訪問し、その果たす役割への支持を改めて示しました。対話と協力に基づき、国際社会における法の支配の強化のための外交を包括的に進めていきます。

FOIPの推進、同盟国・同志国との連携

 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現は日本外交の最優先課題の一つです。この理念の下、同盟国・同志国等と連携し、協力を広げていきます。ASEANの安定と繁栄は、我が国、そしてインド太平洋地域全体にとり極めて重要です。昨年12月の特別首脳会議で打ち出した、新たな協力のビジョンと幅広い具体的協力を着実に実行し、関係をより一層強化していきます。

 日米豪印については、本年、外相会合の議長を務めるに当たり、FOIPの実現に向けた、地域の国々に真に裨益する実践的協力を一層推進していきます。

 日米韓の協力も、昨年のキャンプ・デービッドにおける首脳会合等の成果も踏まえ、一層進めていきます。

 さらに、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であり、欧州諸国、EU及びNATOとの連携も強化していきます。

ウクライナ侵略への対応

 ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙です。私は今月ウクライナを訪問し、侵略の生々しい傷跡を自分自身の目で見て、力による一方的な現状変更を決して認めてはならないと改めて確信しました。また、ロシアによる核兵器による威嚇、ましてや使用はあってはなりません。

 一日も早くロシアによる侵略を止め、ウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するため、国際社会と連携し、対露制裁とウクライナ支援を強力に推進していきます。

 ウクライナの復旧・復興のため、官民一体の取組を進めます。昨年11月の経済ミッション等の成果を踏まえ、来月の日・ウクライナ経済復興推進会議の開催に向けて調整を加速していきます。

日本及び地域を守る取組

 我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、外交を通じて、日本の領土・領海・領空及び国民の生命・財産を守り抜きます。

日本自身の取組

 国家安全保障戦略では、日本の安全保障に関わる総合的な国力の要素として、まず外交力を挙げています。外交と防衛を連携させながら、強い経済や高い技術力、豊かな文化等、我が国が誇る様々なソフトパワーを有機的・効果的に結びつけ、総合的に外交・安全保障政策を進めていきます。

 また、政府安全保障能力強化支援(OSA)の着実な実施や、サイバー安全保障、経済安全保障の推進に積極的に取り組んでいきます。

 偽情報等の拡散を含む情報操作等を通じた、認知領域における国際的な情報戦に対しては、様々な角度から情報の収集・分析を行い、適時適切な発信につなげるとともに、情報セキュリティ基盤の構築・強化にも取り組んでいきます。

日米同盟の一層の強化

 日米同盟は日本の外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎です。日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化、拡大抑止の信頼性・強靱性の維持・強化のための努力、日本における米軍の態勢の一層の最適化に向けた取組を進めます。同時に、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古移設を進めるなど、地元の負担軽減と在日米軍の安定的駐留に全力を尽くします。

 また、昨年11月の経済版「2+2」第二回閣僚会合の議論等も踏まえ、戦略的観点から経済分野での日米協力を拡大・深化させていきます。

経済外交の新しいフロンティアの開拓

 強くしなやかな経済力で世界に存在感を示すため、官民連携を重視し、スタートアップ企業を含む、あらゆるステークホルダーを巻き込みながら、経済外交の新しいフロンティアを開拓していきます。

 まずはルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持・拡大に向けた取組が重要です。

 多角的貿易体制の一層の強化のためのWTOの改革、CPTPPのハイスタンダードの維持・強化、RCEP協定の透明性のある履行の確保、IPEFを通じた地域の持続可能で包括的な経済成長の実現、AIや信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を含む新興課題の分野での国際的なルール作りなど、課題は山積しています。

 特に、OECD加盟60周年を迎える本年、5月の閣僚理事会の議長国を務めるに当たり、リーダーシップを発揮していきます。

 さらに、経済安全保障も新しい時代の外交の重要な柱です。サプライチェーンの強靱化や経済的威圧への対応などに、同盟国・同志国との連携を一層強化しつつ、ODAも活用し、官民で緊密に連携しながら、取組を強化していきます。

 これからの日本経済は、「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国・新興国の成長を取り込んでいかなければなりません。地域ごとの課題や特性等も十分踏まえた上で、きめ細かで、戦略的な経済外交を推進していきます。

 また、社会・環境の持続可能性と経済との連結、一体化を統合的に目指すことが求められる時代です。SDGsの推進に企業が積極的に関与し、日本が経済成長を実現することで、利益が社会に還元される好循環を実現するための取組を進めていきます。

 このため、開発協力大綱の下、オファー型協力や民間資金動員型ODA等を実施し、途上国の質の高い成長を実現し、同時に我が国の成長にもつなげていきます。

 また、日本企業の海外展開、日本産食品の輸出拡大、対日直接投資の推進を積極的に後押しするに当たり、在外公館が、投資環境改善を含め、日本企業を強力にバックアップするとともに、対日投資を強くアピールしていきます。さらに、企業活動の可能性を広げていくため、第三国における日本企業と外国企業の連携についても協力を推進していきます。

 2025年大阪・関西万博、2027年国際園芸博覧会の成功に向け、力強く取り組みます。

 ALPS処理水の海洋放出の安全性については、引き続きIAEAと緊密に連携し、科学的根拠に基づき、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明していきます。

近隣諸国などとの関係

 日本及び地域の平和と繁栄を維持すべく、近隣国等との難しい問題に正面から対応しつつ、安定的な関係を築いていきます。

 昨年11月の日中首脳会談に続き、私も王毅外交部長との間で日中外相会談を行いました。

 日本と中国の間には、様々な可能性と共に、尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、中露の連携を含む我が国周辺での一連の軍事活動を含め、数多くの課題や懸案が存在しています。また、台湾海峡の平和と安定も重要です。さらに、中国の人権状況や香港情勢についても深刻に懸念しています。

 同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有しています。「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力するという、「建設的かつ安定的な日中関係」を日中双方の努力で構築していくことが重要です。

 その中で、中国による日本産食品に対する輸入規制の即時撤廃を引き続き求めていきます。

 重要な隣国である韓国とは、多様な分野で連携や協力の幅を広げ、パートナーとして力を合わせて新しい時代を切り拓いていくため、様々なレベルでの緊密な意思疎通を重ねていきます。

 インド太平洋の厳しい安全保障環境を踏まえれば、日韓の緊密な協力が今ほど必要とされる時はありません。日韓関係の改善が軌道に乗る中、グローバルな課題についても連携を一層強化していきます。

 竹島については、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土であるとの基本的な立場に基づき、毅然と対応していきます。

 日中韓協力は、大局的な視点から、地域及び世界の平和と繁栄にとって重要です。昨年11月の外相会議の議論を踏まえ、早期で適切な時期のサミットの開催に向け、議長国の取組を後押ししていきます。

 ロシアに対しては、日本の国益を守る形で引き続きしっかりと対応していきます。日露関係は、ロシアによるウクライナ侵略により引き続き厳しい状況にありますが、政府として、北方領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持していきます。

 その上で、漁業などの経済活動や海洋における安全に係る問題のように、日露が隣国として対処する必要のある事項については、我が国の外交全体において何が我が国の国益に資するかという観点から適切に対応していきます。

 また、北方四島交流等事業の再開は日露関係における最優先事項の一つです。今は特に北方墓参に重点を置いて事業の再開を引き続き強く求めていきます。

 北朝鮮は、核・ミサイル活動を一層活発化する意向を明らかにしています。安保理決議違反でもある弾道ミサイルの発射等は断じて許されません。また、露朝間で強化されている軍事協力も深刻に懸念しています。今後とも、日米、日米韓を始めとする国際社会で緊密に連携して対応していきます。

 北朝鮮との間では、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。

 とりわけ、拉致被害者御家族も御高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせに出来ない人道問題です。全ての拉致被害者の一日も早い御帰国を実現すべく、全力で果断に取り組みます。

地球規模課題のための協力

 気候変動、環境問題、食料・エネルギー問題、国際保健課題、人口問題、難民問題、海洋の持続可能な利用等、地球規模課題は山積しています。

 これらの課題に取り組むためにも国連が本来の役割を果たすことがますます重要になっています。安保理改革を含め国連の機能を強化すべく取り組んでいきます。また、我が国が安保理議長を務める3月には、重要課題について活発な議論を行いたいと考えています。

 9月には国連「未来サミット」が予定されており、「人間の尊厳」という原点に立ち返り、人間の安全保障の理念に基づく「人間中心の国際協力」を主導していきます。また、2030年までのSDGsの包括的な達成に向けた国際的取組に積極的に貢献していきます。国際機関で邦人が職員として更に活躍できるための取組も推進します。

 本年、「国際協力70周年」という節目の年を迎える中、最も重要な外交ツールの一つであるODAの意義や展望について積極的に発信し、国民の皆様により理解を深めていただく機会としたいと思います。

 同時に、「核兵器のない世界」の実現、日本らしい人権外交、平和構築、テロ・国際組織犯罪対策等を積極的に推進します。

 特に、核軍縮・不拡散については、「ヒロシマ・アクション・プラン」の下での取組を一つ一つ実行していくことで、現実的で実践的な取組を継続・強化していきます。

日本外交の新たな可能性

 これらの取組に加え、日本外交の新たな可能性を切り拓いていきたいと考えます。

 国家間の協力が難しい時代だからこそ、国・地域・ジェンダーなどの垣根を越えて、中高生を含むユースなど、様々なステークホルダーを巻き込んだ取組を進めます。また、駐日大使の皆様との議論を外交に連携させていく国内での活動も強化していきます。これらのような「アウトリーチ型外交」の取組も引き続き重視します。

 魅力ある日本文化や科学技術などソフトパワーも積極的に活用していきます。

 日ASEAN特別首脳会議で打ち出した「次世代共創パートナーシップ」を始め、対日理解の促進と戦略的な対外発信を更に推進していきます。「佐渡島の金山」の世界遺産登録に向け、関係国と丁寧な議論を行いつつ、しっかりと役割を果たしていきます。

 世界各地の日系社会との連携も強化します。

 「外交の要諦は人」であり、これらの取組で着実な成果を上げるため、外交実施体制の強化が不可欠です。

 在外職員等の勤務環境改善や生活基盤強化、人的体制の強化、財政基盤の整備、DXや働き方改革の推進等、外交・領事実施体制の抜本的強化に取り組みます。

 緊急事態に際し、邦人保護を始め迅速かつ機動力のある危機対応が可能となるよう、在外公館の強靱化を推進し、人的体制を含む即応体制を充実させます。

結語

 本年は世界各地で重要な選挙が控え、国際情勢は大きな局面を迎えます。このような中、我が国は、第10回太平洋・島サミット、TICAD閣僚会合など重要な国際会議を開催する予定です。また、G20及びAPEC議長国としての中南米諸国との連携も強化していきます。

 私は、日本が戦後80年近くにわたって平和国家として築いてきた国際社会からの信頼や期待が、非常に高いと実感しています。

 この信頼や期待に応えるべく、本年も国民の皆様の声に耳を傾け、理解と支持を得ながら、挑戦を続けていきます。

 議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。

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