今月16日、中国広東省にある大規模な公立病院「汕尾市人民医院」の約百人の職員たちがボーナスを払わない病院に抗議する「事件」が起きた。
職員たちは「院長、出てこい、私たちのボーナスを返せ」、「私たちにも生活があるんだ」などのスローガンを叫び抗議をし、「私たちはごはんを食べなければならない(中国語 我們要吃飯)」と書かれた紙を掲げた。
事情を知る者によれば、今回の抗議の理由は「ボーナスの支給」をめぐるもので、同病院では3つの科だけ8月のボーナスが支給されたが、他の科では支払われていない。そのような不公平な扱いが医療従事者の不満を引き起こしたという。
病院職員による抗議のトピックスは、一度は中国SNSのトレンド入りしたが、関連情報はまもなくして検閲にひっかかり、各プラットフォームから封殺された。
この公立病院は医療レベルやサービスがトップレベルにランク付けされている「三甲医院」だ。常に患者であふれているのに、なぜ資金不足の事態に至ったのか、関連話題はネット上で物議を醸した。
なぜ病院が「金欠」?
今の中国ではどの業界にも寒風が吹き荒れ、閑古鳥が鳴いているが、唯一「客に困らない」のは病院だ。
タクシーに乗った女性が運転手に「私は金持ち、とにかくお金を使いたいのよ、この街の一番高いところへ行ってちょうだい!」と指示したところ、連れていかれたのは「病院の前」だった。これは華人圏のSNSでたまに見かける中国ならではの「ジョーク」だ。
しかし、そのジョークは紛れもなく核心をついている。
中国では、日本のような健全な医療保険制度がないため、一般庶民が重病になったら破産するケースも少なくない。現代中国で一番高い場所、そして一番混雑している場所は病院なのだ。間違いなくお金があるはずの病院だが、近年ではボーナスどころか、職員の給料さえも払えない病院が各地に出始めている。
経営者が金を持ち逃げしたのでなければ、病院が「金欠」になる理由は何だろうか。「お金がないから」と、治療をあきらめる患者が増えているのだろうか。
いずれにしても、由々しき事態である。
例えば今月11日、河南省新郷市にある「第四人民医院」の入り口でも給料の支払いを求める複数の医療従事者の姿があった。同病院事務室の職員は「自分も8か月分の給料をもらってない、とても生活が苦しい」と明かしている。
昨年12月26日も、四川省遂寧市中医院の一部の医療従事者が賃金の支払いを求めて、集団抗議をし、「払わないと一斉にビルから飛び降りる」と迫っていた。病院職員が自殺をほのめかして抗議をするビルの下には、万が一のための「救命用エアーマット」が敷かれていた。
昨年11月3日、河南省汝州市にある母子病院「市婦幼保健院」の入り口前にも、百人を超える職員が集まり、抗議をしていた。同院の職員は中国メディアに対して、「1年以上給料をもらっていないし、医療保険も公的な積立金の支払いをしてくれていない」と明かしている。
同じく昨年11月末、「山東煙台肺科医院」でも職員の給料を半年払っていないことが明るみになり、職員たちは「飢え死にしそうだ」と訴えていた。
生き残りをかけた中国各地の民衆たちの闘いは、近い将来、全国範囲の抗議運動「白紙革命(運動)2.0」に発展するするかもしれない。
前回の「白紙運動」は、2022年11月に中国全土で広がった。当時、民衆は「白い紙」を掲げて、政府による厳しい感染症拡大防止措置の「ゼロ・コロナ」に反対した。当時抗議する民衆のなかからは、「共産党は退陣せよ」「習近平は退陣せよ」といったスローガンも叫ばれていた。
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