トランプ政権が中国人留学生のビザを取り消す方針を示したことに対し、一部では排外主義だと批判の声が上がった。しかし実際には、アメリカが中国の軍事・技術的優位性を育成・資金提供していたという証拠が積み重なっていた。
マルコ・ルビオ国務長官のもと、国務省は特に重要分野を専攻している中国人学生や中国共産党(中共)との関係が疑われる学生を対象に、ビザの取り消しを開始すると発表した。これは、米中間の学術的なつながりを断ち切り、国家安全保障上の懸念に対応する動きの一環だ。
中国の2017年国家情報法では、すべての国民と組織が情報活動に協力する義務を負い、第14条では国家機関がその協力を強制できると定めている。この法律により、アメリカ国内に滞在する中国人留学生約27万人(2023〜24年度)も、中国政府の指示に従う法的義務を負う可能性がある。
アメリカの外国代理人登録法(FARA)では、外国政府の指示・要請・管理下にある者は、活動内容や資金源、関係先を司法省に届け出る必要がある。中国の情報法の拘束力を考えると、中国人留学生がFARAの「外国代理人」の定義に該当する可能性も否定できない。
この10年で、中共は、アメリカにとって最も重大な情報脅威であると繰り返し認定されてきた。FBIや国土安全保障省は、中国人によるアメリカの機密情報の窃盗事件を多数報告した。
2024年2月、カリフォルニア州サンノゼ在住の中国出身の技術者、龔晨光(きょうしんこう)が、核ミサイル探知技術に関する機密ファイルを含む企業秘密を盗んだ容疑で起訴された。
2024年3月には、林偉がGoogleからAI関連の技術情報を窃取しようとしたとして起訴され、2024年4月、李漢と陳琳が、半導体製造装置を中国に違法輸出したとして起訴され、同年9月には、武松と魏佳が軍事技術を盗もうとした疑いでそれぞれ起訴された。
さらに10月には、ミシガン大学と上海交通大学の合同プログラムを卒業した中国人学生5人が、制限対象の研究に関する証拠をスマートフォンから削除しようと共謀したとして起訴された。
2024年9月に発表した米下院・対中共特別委員会の報告書によれば、学術・科学研究における法的保護の不備により、過去10年間で数億ドル規模の米連邦研究資金が、中共の戦略目標、特に軍民両用技術や先端技術の発展に寄与していたという。
米国土安全保障省もこの問題に懸念を示しており、ハーバード大学宛の書簡で、同大学が中国の準軍事組織「新疆生産建設兵団(XPCC)」と協力関係にあると非難した。XPCCは、人権侵害を理由に米国の制裁対象となっている。書簡によれば、ハーバードはXPCC関係者を繰り返し訓練し、米国防総省の資金を用いて清華大学、浙江大学、華中科技大学など、中国の軍事関係大学と軍事転用可能な研究を行っていた。
同様の事例として、米下院共和党は、デューク大学に対し中国の提携機関との関係断絶を求め、イースタン・ミシガン大学は、中国の大学との工学共同研究2件を事前に打ち切った。
アメリカによるビザ制限措置に対し、中国政府は激しく反発し、米国を「嘘つき」と非難した。中共は、自国の大学院生を通じて、米国の技術を盗用している事実を認めようとせず、学術交流における非対称性にも目を向けず、2023年には約27万人の中国人学生がアメリカで学ぶ一方、フルタイムで中国の大学に通っているアメリカ人学生は、わずか約800人。
さらに、アメリカの移民政策に中国側が不満を示す一方で、2024年度にアメリカが帰化させた新市民は約81万8千500人、そのうち2万4千300人が中国出身者だった。これに対して、中国公安省の発表によると、中国が2016年に帰化させた外国人は過去最多でもわずか1千570人にとどまっている。
それにもかかわらず、米政府内には中共の脅威を軽視する声もあり、例えば民主党のリック・ラーセン下院議員(ワシントン州選出)は、トランプ大統領の中国人学生ビザ取り消し方針を「排外主義的」と非難し、米国の安全保障をむしろ弱めると主張した。だが、中共の脅威の規模を考えると、その主張は皮肉としか言いようがない。
中共は、SNSや報道機関を通じて、積極的に影響工作を行い、自らを無害な存在として描く一方で、あらゆる批判を人種差別と位置づけ、世論の再構築を図っている。
一部メディアは、中国人留学生の減少が、米国の教育やイノベーションに悪影響を及ぼし、「頭脳流出(ブレイン・ドレイン)」としてアメリカの技術進歩を鈍化させると主張。だが、中国人留学生がアメリカを選ぶ理由は、アメリカの大学が中国の大学よりも優れているからであり、実際には多くが学位取得後に帰国し、得た知識を中国に持ち帰っている。つまり、米国は自らの将来の競争相手を育てている格好だったのだ。
中共の情報工作は、特にリベラル派を中心とする一部アメリカ人に影響を与え、中国人学生が共産党のために活動している可能性すら否定する風潮を生んだ。こうした懸念は、20世紀初頭の「黄禍論」の再来だとして片付けられることが多い。
一方で、トランプ大統領は、アメリカの法制度と憲法の制約の中で動く必要があり、中国人の国外退去や学生ビザの取り消しを進める上で、活動家弁護士の抵抗や裁判所の判断によりしばしば阻まれている。こうした制度は、米国の自由を守るために存在するが、国家安全保障上の取り組みには障害だ。
2024年の下院報告書は、数億ドルに及ぶアメリカの国防研究資金が、意図せず中共とつながる機関に流れていた可能性を警告した。アメリカは、研究資金と教育を通じて、中共の科学者を育成し、結果として中国の軍事・技術力を強化した。アメリカの指導力を支えるどころか、学術提携は、中共を強める構図だったのである。
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