あなたの車は時速1万7052キロで走行していました──。
中国・江蘇省無錫(むしゃく)市で発行された一枚の交通違反切符が、ネット上に爆笑と怒号を巻き起こしている。ロケットすら超える超音速レベルであった。
だが、これは単なる機械の誤作動で済ませられる話ではく、背景には沈みゆく中国経済と、それを必死に埋めようとする「罰金依存の経済構造」があった。
「罰金経済」
問題の切符には、制限時速80キロメートル/hの高速道路で「時速1万7052キロメートルで走行」と記載され、罰金2千元(約4万円)に加え、違反点数は一発アウトの12点。
宇宙旅行でもしてきたのかと見まがう速度に、SNSでは「この栄光の切符を空軍に突き出せ!即入隊だ」といった爆笑コメントが飛び交った。同時に、「回りくどいことせず、金が欲しいなら堂々と奪え」「何をしても罰金、もううんざりだ」といった、罰金ありきの取り締まり体制そのものへの反発も広がった。

事態の炎上を受け、無錫市の交通警察は「システムの不具合だった」と釈明し、記録を取り消した。だがSNSには「自分も時速1万キロ超の違反通知を受けた」「2分で隣の省にワープさせられた」といった「笑えない体験談」が続出し、怒りの声は収まる気配がない。
背景にあるのは、かつて「世界の工場」と呼ばれた中国経済の失速だ。税収が激減するなか、地方政府は罰金や没収金といった「非税収入」に依存するようになった。
こうしたなか誕生したのが「罰金ノルマ」だ。地方政府が公安や交通警察に「目標額」を課し、取り締まりが稼ぎの手段へと化した。その結果、雲南省では警官が自ら車に飛び込み罰金を要求する「当たり屋まがい」の事例や、街中で白昼堂々フォークリフトなどの重機を使って車を違法場所に動かして、違反を作り出すといった悪質な手口も報告された。

罰金徴収に必死になるあまり、逆に警察車両が事故を起こす例も後を絶たない。ネット上では「やりたい放題」「制服を着た強盗」といった批判が絶えない。
2026年1月からは、新たに改正された「治安管理処罰法」が施行される予定、違反1件あたりの罰金が軒並み倍増。なかには5倍10倍に跳ね上がった罰金項目も少なくない。交番の警察官にも過去の倍にあたる1千元(約2万円)の罰金を即座に課す権限が与えられるようになった。
法の名を借りた「徴収ビジネス」が加速するなか、一般市民の生活と信頼は着実に追い詰められている。

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