「いずれ起きると思っていた」
中国のSNSには、そんな声が相次いだ。中国で交通警察官が大型トラックを無理に止めようとし、逆にはねられて死亡したとみられる映像が広がったからである。
逃げたい運転手と、罰金の徴収を目的とした取り締まりを続ける交通警察。
追い詰められた双方が衝突したとき、中国の道路では何が起きるのか。それを象徴する場面である。
追い込まれた者同士の正面衝突
中国経済の悪化により、多くのトラック運転手は生活が成り立たない状況に追い込まれている。罰金目的の取り締まりを行う交通警察と、取り締まりから逃れようとする運転手の間では、すでに「生死をかけた駆け引き」のような衝突が各地で起きている。
そうした中、12月2日、ネット上にある悲惨な映像が投稿された。映像には、交通警察官が大型トラックを強引に止めようとし、逆にはねられて車体に巻き込まれる様子が記録されている。
映像の冒頭では、交通警察官がパトカーを使ってトラックの進路をふさぎ、停止を試みていた。しかし、トラックの運転手は左右に大きくハンドルを切りながら警察車両を避けようとし、何度もパトカー後部に接触するなど、その動きは運転手がパトカーを突破しようとしていることを示していた。
それでも警察官2人はパトカーから飛び降り、左右から走り寄って運転席の窓を叩き、無理やり停車させようとした。だが、トラックは止まらなかった。
トラックはジグザク運転しながら進み続け、そのうち警察官の1人を巻き込み、その警察官は腰部付近を前輪と後輪に次々に踏みつけられた。
映像には、轢かれた警察官が動かなくなっている姿が映っている。もう1人の警察官は、衝突を恐れて急いでその場から逃げ去った。
(当時の様子、モザイク処理済)
映像の撮影日時・場所は不明だが、SNS上では「交通警察官は即死した」「トラック運転手はそのまま逃走し、現在も行方不明」といった投稿が拡散している。
■背景1:トラック運転手の生計が崩壊
近年、中国の経済は急速に落ち込み、かつては「きついが稼げる」仕事だったトラック運転手も深刻な生計難に陥っている。
ネット上には、「何か月も動いていない運送会社のトラック」「荷物がなく出番を失った車両」「運賃が下がりすぎて家族を養えない」と訴える運転手の動画が大量に投稿されている。
荷物の減少に加え、運送アプリによる価格の引き下げ競争も重なり、運転手の収入は激減した。そのため、罰金を科されればその月の生活が一気に破綻するため、逃げようと必死になる。
(2024年12月4日夜、湖北省利川市。高架橋での検問中、大型トラックの運転手が突然車を降りて走り出し、そのまま橋から飛び降りた場面。仕事の激減と借金で追い詰められていたという)
■背景2:罰金収入に依存する交通警察
一方、地方政府の財政難が深刻化する中で、交通警察は罰金を「実質的な収入源」として当てにするようになった。その結果、現場では交通安全など完全無視した危険な取り締まりが日常化している。
過去の記事でも、警察官が高速走行中の大型トラックに三角コーンを全力で投げつけたり、走行中のバイクに警棒を叩きつけて運転者を転倒させるといった「殺人まがい」と批判される事例が多数報じられてきた。

(交通警察の検問を強行突破するトラック集団に三角コーンを投げつける交通警察)
こうした映像は次々とネット上で共有され、「罰金のためなら市民の命も危険にさらす」「もはや反社会集団だ」など強烈な批判が広がっている。
中国語圏のSNSでは、城管(じょうかん:露店や屋台を強権的に取り締まる都市管理部門)と交通警察こそが「現代中国の最凶チーム」だと揶揄されるほどで、人々の不信と恐怖は増す一方である。
今回の事故は、生活が苦しい運転手と、罰金を求める警察側が極限状態でぶつかった結果である。経済が回復せず、罰金に依存する取り締まりが続く限り、こうした衝突は今後さらに増えるとみられる。道路で起きた悲劇は、中国社会の深いひずみをそのまま映している。


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