アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで先週末、地下鉄の車両が一夜限りの「魔法の図書館」に変わった。8月23日、D線のホームには約400人の市民が本を手に集まり、列車が到着すると同時に一斉に車内で読書を始めた。スマートフォンを手にする人はおらず、静まり返った車内はまるで図書館のようだった。

乗客が車内に入ると、次々に本を開き、車内は一瞬で静寂に包まれた。途中から乗り込んできた人々もその雰囲気に引き込まれ、自然と読書に加わっていった。終点に着くと、一部の参加者は互いに本を交換し、初対面の人同士が語り合う光景まで生まれた。

この取り組みは、アルゼンチンで毎年8月24日に祝われる「読者の日」に合わせて実施されたもの。日付は同国が生んだ20世紀の文学巨匠、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの誕生日にちなむ。当日は参加者がボルヘスの代表作『アレフ』を声に出して朗読し、文学の魅力を改めて共有した。

SNSでは「読書する人は絶滅危惧種だと思っていたが、希望を取り戻した」「これは美しい提案だ」と称賛の声が相次ぎ、実際に参加した人々からは「現場は本当に魔法のようだった」との興奮も投稿された。

本離れが進む現代社会で、地下鉄の車両いっぱいに広がった静かな読書の光景は、街の人々に強い印象を残した。「読書はまだ生きている」
ブエノスアイレスの市民がそう実感した一日となった。
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