中国で次々と導入される無人宅配車が、いまや「未来の先端技術」というよりも、笑劇と不安の象徴になりつつある。交差点で互いに譲らず衝突を繰り返す光景から、側溝にはまり「助けて」と叫ぶ姿まで、現場からは市民の失笑と苛立ちが広がっている。
(交差点で2台の無人宅配車が譲り合わず、何度も衝突を繰り返す場面)
河南省南陽市では大雨の夜、車輪が道路脇の排水溝にはまった無人宅配車が、スピーカーから「救救我(助けて)」と叫び続ける騒ぎもあった。通りがかった夫婦が車体を押し上げ、リセットボタンを押してようやく再始動。市民は「便利どころか手間ばかり」と呆れ顔だった。

無人運転車が公道を走り始めて以来、事故は絶えない。広東省・深セン市ではバスに衝突し、四川省・資陽市では信号を無視、陝西省西安市では倒れた電動バイクを引きずったまま走行するなど、珍事のオンパレードだ。
深セン市の宅配員・呉さんは、本紙の取材に呆れ果てた様子でこう「被害」を訴えた。
「深センの街は無人宅配車だらけで、毎日のように笑えないドタバタ劇が起きている。困った状況になるとあいつらは『助けて』『手伝って』と人間の声を出すんだ。大型トラックに追突したり、道を間違えて車と正面衝突しそうになったり、平気で赤信号を突っ切る。住宅団地に配達するときは入口のゲートをぶち壊して突っ込んでくるんだから、本当に手に負えないよ」

だが笑って済ませられないのは、その裏で多くの宅配員が仕事を奪われ、生活の糧を失っていることだ。業界は国の後押しを受けているため批判は許されず、SNSに動画を投稿した市民には削除を迫る圧力がかかるなど、否定的な声そのものが封じ込められている。
「AI先進国」を演出する華やかな看板の裏で、現実の街頭にあるのは、人間を失業に追いやり、衝突と迷走を繰り返す無人車の姿である。

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