中国の市民の間で近年よく使われるようになった言葉に「軟肋(ルヮンレイ)」がある。本来は肋骨を指すが、折れやすい部位であることから転じて「弱み」を意味する。
共産党当局が市民を恫喝する際に「お前は自分の『軟肋』を考えろ」と告げるのは常套句であり、その含意は「子供を人質に取っている」という脅しにほかならない。海外に出た人権活動家や民主派にとっても、国内に残る親族や子供が「軟肋」として当局に握られている。
近年は教育現場でもこの「軟肋」が利用されている。ある学校役人が、保護者を政治的なチャットグループから退会させる際に「子供の進学や将来に響く」と脅していたことが発覚し、一時話題となった。かつてワクチン接種を強制した際も、学校を通じて「接種証明の提出」が迫られた。いずれの場合も、親の「軟肋」である子供を人質にとり、従わせる手法である。

今回、新たに注目を集めているのは、河北省で「子供の入学条件に両親の社会保険加入を義務付けた」との情報である。四川や深センでも、非戸籍地での就学条件として社会保険の支払いを求められる事例が確認されており、すでに全国的な慣行になりつつある。
こうした状況に市民の不満は強い。「また軟肋が使われた」「子供を盾に保険料を強要するのか」との批判が噴出し、SNSには「子供を産ませるのは一生親を締め付けるためだ」との書き込みも見られる。上海のロックダウン期に広まった「我々は最後の世代だ」というフレーズもまた、軟肋を持たない決意を表す言葉として広まった。
現代中国において、子供を持つことは生活の喜びであると同時に、当局に握られる「最大の軟肋」となる。だからこそ、一部の若者が結婚も出産も拒み、「軟肋を持たないこと」をあえて選ぶ。それは「弱みによる支配」を企む当局に対する、ある意味での静かな抵抗でもある。

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