米国防総省が中共軍事企業リストを拡大 制裁なしでも広がる影響

2026/07/13 更新: 2026/07/13

トランプ米大統領が今年5月に訪中した後、米中両国は「建設的な戦略的安定関係」の構築を約束した。しかし、表向きは対話姿勢を見せる一方で、両国の戦略的競争は依然として続いている。アメリカは、中国共産党(中共)国有企業などを対象に、国家安全保障に関わる措置をさらに拡大している。

6月8日、米国防総省は、中共軍事企業リスト(CMCリスト)を188社・団体に拡大した。2021会計年度の国防権限法第1260H条に基づき、中国企業64社を新たに追加した。今回の更新は過去に例を見ない規模であり、テンセント、DJI、宇樹科技、アリババなど、中国の有名民間企業も含まれていることから、大きな注目を集めている。

米外交専門誌「ザ・ディプロマット」の最新分析記事は、CMCリストがアメリカの対中政策ツールとして重要性を増している一方で、「エンティティーリスト」や「特別指定国民リスト」とは根本的に異なると指摘した。CMCリストは、商取引を禁止したり、輸出規制を課したり、経済制裁を発動したりするものではない。また、掲載企業をアメリカ市場から直ちに締め出すものでもない。

CMCリストの法的効果は限定的である。それにもかかわらず、米政府は同リストの拡大を続けている。では、直接的な法的効果がないにもかかわらず、なぜ米政府はこれほど大規模にリストを拡充しているのか。

同記事によれば、CMCリストの目的は、直ちに制限を加えることではない。国家安全保障の観点から、中共に関係する企業を分類するための仕組みである。つまり、制裁そのものではなく、リスクを可視化し、将来の政策対応につなげるためのリストといえる。

中共の軍民融合を見据え、対象企業を拡大

トランプ政権がCMCリストを拡大し続けていることは、ワシントンの対中戦略が大きく変化していることを示している。シンクタンク「民主主義防衛財団」の専門家は、今回のリスト拡大は単なる更新ではなく、中共の「軍民融合」戦略に対応する米政府の取り組みの一環だとみている。

米国防総省は、CMCリストの目的について、中共の「軍民融合」を支える仕組みを直接または間接的に支援する企業や団体を特定することだと説明している。AI、ロボット、クラウドコンピューティングなど、軍民両用技術が戦略競争の中心になりつつあるなか、民間の技術革新と軍事能力の境界はますます曖昧になっている。

米シンクタンク「全米アジア研究所」は、米政府にとって現在の課題は、単に中共軍の軍需生産に直接関わる企業を特定することではなくなっていると指摘する。むしろ、中共が軍民融合の枠組みを通じて、民間技術をどのように軍の近代化に動員しているのかを評価することが重要になっているという。

近年、CMCリストが拡大し続けているのはそのためである。中共軍との関係が間接的、あるいは関係性をめぐって議論のある有名民間企業まで、リストに掲載されるようになった。今回の拡大は、どの中国企業が国家安全保障上のリスクになり得るのかについて、アメリカの認識がより広がっていることを示している。

CMCリストに載ったからといって、米政府から直ちに制裁を受けるわけではない。これは、米政府がリスクを分類し、政策体系の中でこれらの中国企業をどう位置づけるかを整理するためのものである。将来の政策対応に向けた共通の土台を作る、いわばリスク評価の仕組みといえる。

中共の軍民融合に対する懸念が高まるなか、米政府には、各省庁が潜在的な安全保障リスクを識別し、共有するための共通の枠組みが必要になっている。ジョージタウン大学の安全保障・新興技術センターは、軍民融合は従来型の国防とは異なる新しいモデルであり、アメリカにとって、純粋な商業企業と軍民融合に関与する企業を見分けることはますます難しくなっていると指摘している。

実務上、CMCリストは執行ツールではない。むしろ、どの中国企業について厳格な審査が必要かを判断するための共通の枠組みである。各機関が個別に基準を作るのではなく、軍民融合に関与している可能性のある中国企業を識別する基準を示す。これにより、異なる権限を持つ各機関が共通の判断基準を持ち、省庁間の調整負担を減らすことができる。

CMCリストは将来の政策の土台に

政府機関や市場参加者が共通のリスク分類を持つようになると、分類は単なる情報整理にとどまらない。将来の政策措置の土台にもなる。

たとえば「バイオセキュア法案」では、CMCリストに掲載された中国企業が、将来、生物安全保障上のリスクを持つ企業として優先的に位置づけられる可能性がある。

また、一連の国防権限法の条項により、CMCリスト掲載企業への影響は、法律面でも広がっている。具体的には、国防総省による調達制限、ロビー活動への制限、技術調達の制限などである。

ロビー活動の制限を例に取ると、多くの米国のロビー会社は、国防総省の請負業者としての地位を守るため、中国企業との関係を相次いで断っている。報道によれば、ロビー活動制限の発効後、ワシントンの大手ロビー会社であるブラウンスタイン・ハイアット・ファーバー・シュレックやマーキュリー・パブリック・アフェアーズなどは、アリババやテンセントとの契約を打ち切った。

中国企業がCMCリストに掲載されても、その企業の商業活動が直ちに制限されるわけではない。しかし、その影響はルールそのものの法的範囲を大きく超える。後続の規制措置は広範な波及効果を生み、サプライチェーンの見直しや投資判断の慎重化につながる。企業も、法令順守や取引先の確認をより慎重に進めるようになる。

制裁なしでも影響 CMCリスト強い抑止効果

CMCリストには、企業に取引を控えさせる効果がある。市場は、将来的にさらなる規制を受ける可能性を警戒し、先回りして行動を変えるからだ。

CMCリストに載ることは、潜在的な国家安全保障リスクがあると見なされることを意味する。投資家、供給業者、顧客、その他の取引先は、その情報をもとに取引上のリスクを評価する。

その結果、リスト掲載企業が正式な制裁を受けていなくても、実際には市場に大きな影響が出る。さらなる規制リスク、信用低下、取引上のリスクを避けるため、アメリカ企業は自発的に関与を減らすようになる。

中国の薬明康徳とアリババの訴訟は、CMCリストに掲載された後の影響がどれほど深刻かを示している。薬明康徳は、CMCリストに載ってから10日以内に多くの顧客が懸念を示したと訴えた。なかには、新規プロジェクトの発注を拒否したり、進行中の臨床段階の協力を停止したりする顧客もいた。さらに、CMCリストを理由に出荷を停止したと明言した顧客もいたという。

アリババも、CMCリストに掲載されたことで企業の評判が損なわれ、投資家の懸念が高まり、取引先が同社との関係を見直すようになったと訴えた。

この2つの事例は、掲載理由の妥当性をめぐって争いがあっても、取引先などの民間企業は将来の規制リスクを見越して、直ちに行動を変えることを示している。CMCリスト自体が強力な市場シグナルとなっており、直接的な法執行がなくても、市場の商業行動に影響を及ぼす。

リスト掲載後の影響は深刻

CMCリストは、国家安全保障上のリスクを持つ中国企業を識別するだけのものではない。すでに米中競争におけるリスク識別の仕組みの一部となっている。

米下院の「中共に関する特別委員会」のジョン・ムーレナー委員長と、下院情報委員会のエリス・ステファニク議員は最近、国防総省に対し、新たなロビー活動制限を厳格に執行するよう求めた。国防総省の請負業者に対し、中共の野心や利益を後押しする企業、ロビー団体との協力を停止させるべきだと訴えたのである。この動きは、CMCリストが政策上のリスク識別に組み込まれていることをよく示している。

CMCリストに掲載された中国企業は、薬明康徳やアリババのように訴訟を起こすことができる。訴訟が成功する可能性もある。2021年には、シャオミが異議申し立てに成功した例もある。

しかし、訴訟でリストから外れたとしても、すべての問題が簡単に解決するわけではない。禾賽科技などの事例が示すように、一度リストから削除されても、将来再び掲載されないとは限らない。

専門家は、アメリカの対中規制は、もはや個別の政策ツールだけで運用されているわけではないと指摘する。相互に結びついた規制構造へと変化しているのである。CMCリストは、法律や規制の枠組みが政府の行動だけでなく、企業の行動や市場の意思決定にも影響を及ぼすことを示している。リストに掲載されても直ちに制裁を受けるとは限らないが、その影響は極めて大きい。

同記事は、今年9月と11月にトランプ氏と習近平が再び会談する可能性があり、双方の高官レベルの意思疎通ルートは維持されるかもしれないと指摘している。しかし、CMCリストが拡大し続けている事実は、首脳会談が重ねられても、米中競争の大きな流れを変えるのは難しいことを示している。

李平
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