北朝鮮の専門分析メディアは5月、北朝鮮東部の日本海側にある港町の一部では、国策である外国人誘致リゾート地の建設が急ピッチで進んでおり、少なくとも170の建物が建設されていると報じた。
高解像度の衛星写真と、国営・朝鮮中央テレビの報道映像を分析した北朝鮮情報サイトNKProによると、リゾート予定地ではピラミッド形のホテルからプライベート・ヴィラ、人工湖まで建設されており、その建設範囲は4.5キロを超える。
朝鮮中央テレビは4月と5月、金正恩政権の5カ年戦略説明番組のなかで、日本海側の港町・元山(ウォンサン)市の端にある葛麻(カルマ)半島における観光地区計画について伝えた。建設現場の映像も流れたが、撮影時期は不明。報道内容によると、数千人の兵士を建設作業に投入して、完成を急いでいるという。
元山市は、日本統治時代にはソウルとを結ぶ鉄道も敷かれ、日本海側でもっとも栄えた北朝鮮の都市だったとされる。また、金一族体制後は、かつて日本の新潟港に入港していた、万景峰(マンギョンボン)号の母港だ。
朝鮮中央テレビが報じたリゾート予定地の映像では、10階建てほどのビルが並び、数千~数万人の受け入れが可能とみられる。この建設計画は、金正恩委員長が2018年の新年の辞で初めて言及した。
現在はリゾート開発が急がれている葛麻半島沿岸部だが、わずか1年ほど前の2017年4月末には、200以上の戦車を使った砲撃訓練が行われている。
日本と韓国からの観光客が狙い?
元山リゾートの主なターゲットについて、北朝鮮の国営メディアは明らかにしていない。同報道は、金正恩氏の演説の分析から、南北国境の南部から受け入れる観光客狙いとの推測を示した。
このリゾート予定地は、金正恩政権下で外国からの観光客誘致のために2015年に完成した、元山葛麻国際空港のすぐそばに建設されている。
北朝鮮を数回訪問している、戦略国際問題研究所(CSIS)傘下のハワイ拠点研究所パシフィック・フォーラムのアンドレイ・アブラハミアン上級研究員は「北朝鮮の観光業者たちも、元山は、日本と韓国から多くの観光客を同時に受け入れられる唯一の場所だと考えている」「そのためにも、観光客の自由および韓国、日本、米国との関係改善が必要である、ということも彼らは分かっている」と述べた。
2018年5月現時点では、観光業は、国連の制裁対象外の数少ない北朝鮮の産業の一つ。米マイク・ポンペオ国務長官は米朝首脳会談が成功した場合、米国からの民間投資の可能性を示唆した。NKProのライター、チャド・オーキャロル氏は、北朝鮮が対外関係改善の突破口として、最初に「観光カード」を出すことも考えられるという。
24時間の建設体制か 現場は急ピッチ 事故多発とも
北朝鮮建築政策の専門家であるカルビン・チュア氏は衛星画像を分析。リゾート予定地は他の居住地から隔離され、元山葛麻半島のほぼ全域で開発がみられる。また、施設への出入り口は現時点で非常に制限され、検閲所が設けられる可能性もあると述べた。
5月の朝鮮中央テレビの映像によると、大規模な建設プロジェクトに参加する北朝鮮の兵士たちは、作業エリアに隣接した仮設の宿泊施設に泊まり、徴用されているとみられる。
また、同4月の映像では、周辺コーナーにスタジアムにあるような背の高い照明器具を設置し、建設スピードを図っている。オーキャロル氏によると、「これは、主要な北朝鮮プロジェクトの特徴である24時間労働の可能性を示している」と述べた。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)は5月15日、現地の匿名の人物の話として、労働者が休憩していたバラックで火事が発生し、多くの死傷者が出たと報じた。また、労働者たちは3~4時間しか休むことを許されず、大なり小なりの事故が多発しているという。
「死亡事故を聞くたびに、住民たちは強制労働に対する不満を募らせている。しかも、完成するのは、彼らが立ち入ることのない外国人向けリゾート地だ」RFAに対して匿名の地元住民は語った。
元山葛麻の観光地計画の公開期日はまだ公式発表されていない。NKニュースは3月、北朝鮮の複数の情報筋の話として、朝鮮戦争終結65周年である7月27日までに、新リゾートの完成を目標にしていると報じた。
(翻訳編集・齊潤)
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