中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)創業者で最高経営責任者(CEO)を務める任正非氏(74)は15日、広東省深セン市にある本社で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの海外メディアの取材に応じた。各国がファーウェイ製品を締め出しているなか、ポーランドで11日、同社社員がスパイ容疑で逮捕され、同社は窮地に立たされている。メディアでの露出が少ない任氏が取材に応じたのは、強い危機感を持つことの表れだとみられる。
任氏は取材で、2019年はファーウェイにとって、最も困難に満ちる一年になると述べた。同社収益は昨年比2割減との見通しを示した。
タイミング
各メディアによると、任氏は15日、「祖国を愛し、共産党を支持している」と述べながら、ファーウェイがこれまで中国当局のためにスパイ活動を行ったことはなく、今後もしないと強調した。
任氏が2015年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席して以降、4年ぶりに公の場に現れた。メディアでの露出が少ない任氏がなぜこのタイミングで沈黙を破ったのか、WSJなどの各海外メディアの注目を集めた。
任氏はファーウェイを設立前、中国軍で技術士やエンジニアを務めていた。除隊後、中国共産党に入党し、全国人民代表大会の代表に選ばれた。
WSJは、任氏が取材中、中国当局による情報収集の強要に対して、具体的にどのような対策を取っているのかについて言及しなかったと指摘した。中国当局が2017年6月に施行した「中国インターネット安全法」では、IT企業は「国家安全機関が国家安全を維持する活動を行う場合や犯罪捜査を行う場合に、技術サポートおよびその他の協力を提供する義務がある」と定めている。
中国当局が言う国家安全は反体制派への監視も含まれている。
スパイ容疑でファーウェイ関係者が逮捕されたのは初めてだ。同社が中国当局のためにスパイ活動を行っているという疑惑は確実のものとなり、今後同社製品を排除する動きはさらに拡大するとみられる。任氏が海外メディアの取材に応じたのはこうした動きに対して強い危機感を抱いていることの表れでもある。
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(15日付)によると、任氏はやむを得ず、海外メディアの取材に応じたと分析した。
上海にある投資会社、開元資本のブロック・シルバーズ(Brock Silvers)社長は、欧州はファーウェイの主要海外市場の1つだと指摘した。ポーランドでの同社社員の逮捕は、ファーウェイの欧州事業に大きな打撃を与えるとの見解を示した。
ポーランドのヨアキム・ブルジンスキー(Joachim Brudzinski)内務行政相は12日、地元メディアを通じて、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NOTO)がファーウェイを欧州市場から排除するよう呼び掛けた。
ポーランドにあるファーウェイ支社は、ファーウェイの東欧と北欧事業を管轄している。
逮捕された社員、ポーランド駐在の中国領事館員だった
今回逮捕された王偉晶氏は販売を担当していた同社の幹部だ。王氏は元外交官で、2006年から中国駐グダニスク総領事館で勤務した。2011年、同総領事館を辞職後、ファーウェイに入社。
在米時事評論家の田園氏は、「逮捕に踏み切ったポーランド政府は、王氏のスパイ活動に関して固い証拠を掴んだ可能性が高い」との見方を示した。
中国問題専門家の横河氏は、「王偉晶氏が自ら領事館の職を辞めて、ファーウェイに転職したとは考えにくい。同社の孫亜芳・前取締役会長(66)が良い例だ」と述べた。
「孫氏は大学卒業後、中国情報当局の国家安全部に長年、勤めていた。1992年、国家安全部に在籍したまま、ファーウェイに入社した」
王偉晶氏のスパイ活動の疑いについて、横氏は2つの可能性があるとした。1つ目は、ファーウェイ自体が中国当局の情報機関で、王氏がファーウェイのスパイ活動に関わっていた。2つ目は、プロの情報部員として、王氏は中国諜報当局の指示を受け、ファーウェイの協力を得て、スパイ工作を展開していた。
2つ目の可能性の場合、「ファーウェイの経営陣は、王容疑者の行動を詳しく把握していないかもしれない」と横氏は言う。
中国当局は2017年6月に新しい「国家情報法」を成立させた。同法第7条では、「いかなる組織と公民も法に基づき、国家情報工作に協力しなければならない」と定めた。
横氏は、この法の下で、ファーウェイが中国情報当局に協力している可能性が大きいとの見方を示した。
「ファーウェイが本当の民営企業であっても、中国当局に協力しなければならない。王偉晶氏の逮捕によって、欧米諸国は、中国のスパイ活動の実態とファーウェイの通信設備の危険性をあらためて認識できただろう」
いっぽう、米ラジオ・フリー・アジアによると、在米時事評論家の胡平氏は「王偉晶氏の総領事館の職からファーウェイへの転職はあり得ない。公務員守秘義務制度に反しているからだ」と述べた。
中国全国人民代表大会で2009年に通過した「中国人民共和国駐外外交人員法」の第1章第8条第6項では、外交官は「駐外(大使館や領事館などでの)勤務期間中に辞職してはならない」と定められている。
(翻訳編集・張哲)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。