衆議院内閣委員会は3月31日、経済安全保障に関して参考人4人を招き意見陳述と質疑を行った。東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授は台湾海峡における有事が発生した場合、世界のサプライチェーンが寸断されるリスクは極めて大きいと述べ、政府および企業は具体的なシミュレーションに応じたリスクの把握が必要だと警鐘を鳴らした。
ロシアのウクライナ侵攻により世界情勢が複雑化し、中国共産党の脅威が強まるなか、日本の国会では新たな経済安全保障法案についての議論が進んでいる。法案はサプライチェーンの強靭化、基幹インフラの安全性・信頼性の確保、特許出願の非公開化、官民技術協力の4つの柱からなる。NHKの1日の報道によると、この新法案は6日にも岸田首相の質疑を経て、委員会で採決するという。
岸田内閣は昨年10月の所信表明で、半導体などの「戦略物資の確保や防衛に関わる重要技術流出の防止に向けた取組を進める」と述べており、経済安全保障に関する法案の制定を目玉政策としてきた。
相互依存の武器化
佐橋氏はグローバル化により国家間の相互依存が深まるなか、自国の政治的意図のために経済を利用する「相互依存の武器化」の事例が増えていると指摘。「相手から技術を不公正なやり方で獲得し、さらに経済やエネルギーの力を使って強要する事例が大変目立ってきた」と述べた。
日本の経済安全保障は「サプライチェーンのリスクを具体的なシナリオから点検し、海外ビジネスのあり方を産業界と考案していくアプローチが必要だと考える」と述べた。このなかで台湾有事の影響を図る必要があると付け加えた。
参考人の東京大学公共政策学連携研究部の鈴木一人教授は、法案にあるサプライチェーンの強靭化は、相互依存によるサプライチェーンのチョークポイント(脆弱な部分)に対処できるようにすべきだと述べた。2010年に中国に依存するレアアースが日中関係の悪化により輸出停止になった事例をあげた。
鈴木氏もまた「相互依存の武器化」について言及。自由貿易の枠組みの中で経済力を盾に自国の手法を押し付ける事例があると指摘。例として中豪関係の悪化で中国が豪州産石炭や鉄鋼、農産品の輸入を規制したこと、またノーベル平和賞の受賞に反発して中国がノルウェーサーモンの不買キャンペーンを行った例を挙げた。
経済安保法案は罰則の是非についてひとつの焦点となっていた。鈴木、佐橋の両氏は規制違反による罰則を設けることには否定的な見方を示した。佐橋氏は「サプライチェーンは企業にとって重要な営業秘密を含む可能性がある。相手企業もある。米政府も罰則ではなくあくまでも働きかけ」と企業側の自由意志と協力の尊重を重視すべきとした。
鈴木氏は、半導体受託生産世界大手のTSMC(台湾積体電路製造)が米国工場建設の誘致を受ける際、サプライチェーン情報の提供を拒み米国の補助金を受け取らなかった例を挙げて「罰則ではなく(政府協力で)インセンティブを得られるかどうか」の選択など、政府と民間企業の信頼関係を重視する代替案を提案した。
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