カンボジア渡航した多数の台湾人、帰国せず…中国系カジノで強制労働との報道も

2022/08/26 更新: 2022/08/26

「高収入の仕事がある」との人材募集広告を見てカンボジア入りした多くの台湾人が帰国を果たせていない問題で、彼らは同国南部シアヌークビルの中国資本が所有するカジノやオンライン詐欺に従事させられている可能性がある。ラジオ・フリー・アジア(RFA)が情報筋の話として伝えた。

報道によれば、高収入を謳う仕事に応募してカンボジアなどの東南アジア諸国に赴いた若者は人身売買業者により「転売」されている。取引先の監禁施設ではパスポートを取り上げられて、オンラインゲーム、違法カジノ、オンライン詐欺などに強制的に従事させられている。脱出できないよう感電、殴打、レイプなどの暴力を受けているという。

台湾政府は専門のタスクフォースを形成し、足止めされた台湾人の救出に乗り出したが、帰国できたのは22日まででわずか70人弱。渡航記録に基づいた外交部や内政部警政署(日本の警察庁に相当)の統計では、1月から7月まで6400人がカンボジアに渡航しているが、2000人あまりが帰国していないという。

情報筋は、台湾人の若者たちは主に中国資本のカジノから救出されており、北京語を理解する彼らは従業員として労働を強いられているとRFAに語った。

カンボジア内務省は18日から外国人を対象とした人身売買関連の大規模な調査を実施すると発表。被害者を救出し、容疑者を裁判にかけるとした。いっぽう、23日には全国人身売買対策委員会のチョウ・ブン・エン常務副委員長は「入国してその後、帰っていないからといって人身売買の被害とは限らない」とし、一部メディアが報じる数千人規模の被害は「事実ではない」と否定した。

カンボジアにおける軟禁騒動は台湾人に限らない。今月中旬、42人のベトナム人が中国人の経営するカジノ施設から脱出した。VnExpressが投稿した映像には、金属棒を振り回す警備員を振り切り、川に飛び込む労働者たちの姿が映っている。

カジノから脱出した労働者らは「合意した給与をもらえず、時には全く支払われないこともあった」「オンライン詐欺やオンラインギャンブルの運営を強要された。また、殴られたり、拷問を受けたり、家族に多額の身代金を送るよう強要された」と当時の状況を語った。

RFAによると、カンボジア当局は強制労働と労働者虐待でカジノの中国人支配人を拘束している。

詐欺や人身売買を追跡し、救助活動を行う「グローバル詐欺防止機構(GASO)」によると、東南アジア圏のオンライン詐欺は年間数十億ドルを荒稼ぎしており、被害者の大半は東南アジア諸国や中国、台湾の出身者だと推定されている。

一帯一路」が生む犯罪の温床

エメラルドグリーンの海が広がるカンボジア南部の港湾都市シアヌークビルはかつて、欧米人向けリゾート地として人気を博した。しかし、いまや人身売買や麻薬密売などの犯罪の温床となっている。

経済学者で政治評論家の李恒青氏は、中国共産党が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」が背景にあると指摘する。中国出資の経済特区が設けられたシアヌークビルには進出企業が増え、カジノが密集する街となり、治安が悪化したと述べた。「地元の犯罪組織や銃の拡散とともに、多くの麻薬密売が行われており、犯罪率が非常に高い」という。

中国本土では賭博が禁じられているため、観光客はシアヌークビルなどにあるカジノに興じる。観光客のサービス向けに、現地中国企業は「(働き手として)中国語話者を探している。そしてより多くのビジネスチャンスを得るために彼らを欺くのだ」と語った。

2013年から一帯一路に参加しているカンボジアは、中国からの巨額投資を受け入れてきた。5年間で1兆円を超え、2019年には海外直接投資の43%を占めた。RFAの伝える情報筋の話によれば、シアヌークビルの中国人実業家は現地政府と緊密な関係にあり、地元では絶大な権力を誇っている。

シンクタンク・国際戦略研究所(CSIS)のジョナサン・ヒルマン研究員は2019年8月、中国共産党の「一帯一路」は汚職と腐敗を世界に広げていると論じた。同氏によると、80カ国以上の一帯一路加盟国はすでに汚職が蔓延し、信用格付けの評価は「投機的(ジャンク)」だが、中国側はリスクを厭わず、いざというときは政治的な介入を行えることを織り込んでいるという。

中国共産党、「人身売買」事件を政争の具に

いっぽう、中国共産党はこの事件を受けて、台湾民進党政権に打撃を与えようと試みている。20日、台湾人の救出にあたって声明を発表した。「台湾同胞は中国国民だ。台湾同胞の合法的な権益を保護することは、在外中国大使館・領事館の義務だ」と述べ、台湾は中国の不可分の一部であると強調した。

人民日報傘下の環球時報は、今回のトラブルの発生は台湾の失策や怠慢によると批判し、統一を拒む蔡英文政権を糾弾した。

これに対し、台湾外交部は「中国が台湾国民を思いやる心があるならば、直ちに暴力による攻撃や脅迫を止め、台湾への内政干渉を止めるべきだ」と反論。さらに、カンボジアでの事件には中国の一帯一路政策が背景にあると非難し、いかなる偽善行為も同政策の「失敗を覆い隠すことができない」と述べた。

台湾の警政署は19日の記者会見で、事件解決のために駐カンボジア台湾企業の関係者、宗教団体、非政府組織などの力を借りて人道救援を行っているほか、米国やタイとも連携していると述べた。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。
米国をはじめ国際関係担当。
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