「寝そべり主義」が主張するもの【現代中国キーワード】

2022/09/12 更新: 2022/09/17

躺平
躺平(とうへい)とは「寝そべる」ことを指す。実際に寝るわけではないが、今の中国では、それが一種の社会現象となっている。

2021年4月、中国のSNS上に「躺平即是正義(寝そべりは正義だ)」と題する文章が掲載されて以来、この言葉が広まった。

つまりは「抑圧された若者による精神的レジスタンス」である。中国では現在、大学や大学院を出た若者でさえ、それに見合う職を得られない。全体としては、若い世代の4人に1人が無職であるという。社会としては、崩壊状態にちかい。

そこで彼らが選んだのは、生命を維持することは放棄しないが、もはや立身出世を望まず、高収入を得て家や車を買うこともしない生き方である。結婚して家庭や子供をもつことさえ諦める。言わば、伝統的な中国の価値観に逆らう生き方を、彼らは敢えて選択するのだ。

こうした「寝そべり主義」の若者を、怠惰なものとして責めることはできない。

古来、中国には、竹林の七賢に代表されるように、乱世のなか知識人が世俗を離れ「清談」をもって時勢に抵抗する六朝時代以来の伝統がある。

今の中国は「乱世」である。個人の努力が正当に評価される公正さが、決定的に欠けているのだ。つまり、あらゆる理不尽が社会に蔓延しているため、若者は「寝そべり」で抵抗するのである。

「寝そべり」をする若者は、人生に敗れたのではない。それは彼らが中国共産党へ突きつけた、一種の「不服従運動」と見るべきである。