「社会分断の恐れも」LGBT法案に潜む問題点 知るべき「性自認」と「性同一性」の大きな違い

2023/02/26 更新: 2023/04/05

国会では今、性的少数者(LGBT)への理解を増進する法案の審議が進められている。野党は人権を旗印に推進役となり、公明党はG7(先進7カ国首脳会談)開催前の成立を急ぐ。しかしLGBT関連法制が整う欧米諸国では、トイレや更衣室の利用などをめぐるトラブルが頻発、スポーツの公平さが問題となるなど、課題は山積みだ。

法案に対する考え方が与野党で大きく異なることや、法案で使われる言葉の違いにも注意が必要だ。保守派政治家は、かつて使われていた「性同一性」が「性自認」に置き換わるだけで、「出来上がる社会は全く異なる」と指摘する。さらに、歴史的観点からLGBT運動の左翼的背景について指摘する声もある。

にわかに注目されるLGBT問題

同性婚に関する前総理秘書官のオフレコ発言が報道されたことを受け、LGBT問題は再び国会の議題として取り上げられた。左派メディアや左派政党の「口撃」に政権側は守勢を強いられ、岸田首相の「社会が変わってしまう」という答弁まで問題視されるに至った。

差別禁止規定が「訴訟の乱発を招きかねない」と批判され2年前に一度棚上げされたLGBT法案が、再び動き出した。超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」は15日の会合で岩屋毅元防衛相(自民)を会長として選任し、岩屋氏は「今国会で一日も早く、できればG7までに成立させるよう全力を尽くしたい」と述べた。

いっぽう、参議院議員の西田昌司氏は自身のYoutube番組のなかで、ことの発端を作ったのは毎日新聞のマッチポンプだと指摘する。総理秘書官の更迭の原因となった記者会見はオフレコ(発言を公表しないことを指す報道用語)だった。発言を記者が記事にしないとのルールがあるにもかかわらず、毎日新聞は社の判断で報道した。「そして政治問題として急浮上した。今度はそれを受けて党内で議論し、秘書官は罷免となった。」

「日刊スポーツ」は、法整備に積極的な国会議員は「言葉は悪いかもしれないが、いいチャンスだ」と話しており、差別発言がなければ法整備の動きが起きなかった可能性が高いと報じている。

「差別禁止」で懸念されることとは

LGBT法案をめぐる与野党協議の中で追加された「性自認を理由とする差別は許されない」との文言に対し、自民党内では反発の声が上がっている。自民党の西田昌司政調会長代理は7日、「差別の禁止や法的な措置を強化すると、一見よさそうに見えても人権侵害など逆の問題が出てくる」と述べた。かつての人権擁護法案やヘイトスピーチ禁止法案などを挙げ、差別禁止などの文言が入ると社会の分断につながりかねないと指摘した。

いっぽう、岩屋氏は15日の総会後記者団に「最終的には文言調整になると思うが、『差別はあってはならない』という精神が生かされるよう追求したい」と語った。

文言に対する「こだわり」の背景には、LGBT法案に対する基本的スタンスの違いがある。自民党が2年前に党内でまとめていた「理解増進法」は差別禁止ありきではなく、関連知識を広めることを目的としている。いっぽう、共産党や立憲民主党などの野党案は「差別は許されない」との意向を強く反映している。

LGBT問題について政策提言などを行う一般社団法人LGBT理解増進会によると、自民党案では「一人の差別主義者も出さない」ことが可能だが、「差別禁止法」が制定されると「不注意な発言が差別と断定されるリスクがある」。さらに「差別禁止を掲げる団体等の既得権につながる恐れがある」ことや、賛否が別れることによって対立を煽ることにつながりかねない。

「性同一性」と「性自認」の違い

共産党など推進派の意向が強く反映されている「差別禁止法(性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案)」では、「性同一性」の代わりに「性自認」の文言が用いられている。国会の大臣答弁ではもっぱら後者が使われている。これに対し長尾敬前衆議院議員は自身のYoutube番組で、言葉が異なることにより「出来上がる社会は全く異なる」と警鐘を鳴らす。

「性同一性」は一般的に、自己の属する性別に関する斉一性の有無または程度に関わる意識のことを指す。心と体が一致しない性同一性障害に関しては、平成16年の特例法に基づき、複数の医師による診断など一定の条件のもと、戸籍上の性別を変更することが認められている。

いっぽう、「性自認」とは自己の性別に関する認識であるため、医者などによる客観的な判断がなくても自己の性別を決めることができる。この点について長尾氏は「行きすぎたトランスジェンダリズムがあった場合、生まれながらにして女性だった方が一番被害を被りうる」と指摘する。

同様の議論は自民党内で根強い。中曽根弘文元外相は2月22日の会合で、群馬県のゴルフ場の女性トイレに「女性だと自認する男性」が入るというトラブルを取り上げた。「管理している人が、『出ていって』と言った場合に、『差別だ』と言われかねない。そして裁判沙汰になる」「男の体で女性のトイレに来た、女性のお風呂に来た場合のことを、レアなケースだと思いますがそこも考えておかないといけない」と中曽根氏は強調した。

長尾氏は、体が男性でも心が女性だと性自認することに懸念を示す女性が多くいることに触れ、「マジョリティの意見有無を言わせず、マイノリティーの意見だけを聞くことはない」として、性自認ではなく性同一性で法案を成立してほしいと主張した。「産経新聞」も2月17日付の「主張」において「逆に女性らの権利が侵害されかねないとの指摘がある」と報じた。

世界における「性」の実態

欧米などの先進国では、従来のトイレや更衣室といった女性専用スペースに女性と性自認するトランス男性が進入するなどのトラブルが発生している。

米メディア『New York Post』などの報道によると、カリフォルニア州で暮らすレベッカ・フィリップスさん(17)は先日、水泳を楽しんだ後更衣室に戻ったところ、裸の「男性」がいたためひどく驚いたという。恐怖を感じたレベッカさんはカーテンの裏に隠れ、「男性」が出ていくのを待った。のちにわかったのだが、その「男性」は女性と自認するトランスジェンダーだった。

レベッカさんが施設職員に相談すると「すべてのトランスジェンダー女性に女子更衣室を使用する権利がある」と、きつく言われたという。困ったレベッカさんは自治体の会議に出席して自身の体験を語り、トランスジェンダーの女性が女子更衣室を使用することを認めないでほしいと訴えた。

スポーツにおいて女性が不利益を被ることも注目されている。BBCによると、WTAツアーの最多優勝記録(シングルス167勝、ダブルス177勝)を持ちウィンブルドン元王者のマルチナ・ナヴラチロワ氏(62)は、トランス女性の選手が競技に出場することに批判的な発言を繰り返している。

この事により2019年、ナヴラチロワ氏は性的少数者(LGBT)のスポーツ選手を支援する団体から提携関係を解消された。ナヴラチロワ氏は自身をレズビアンだと公表している。

最近では、2022年3月17日に行われた全米大学選手権女子500ヤード自由形で、元男子水泳選手で性転換を行なったリア・トーマス選手が圧倒的な差をつけ優勝した。しかし男女の体格に大きな差があることから、異論が噴出した。

2月9日に米ニュース番組「FOX News」に出演した女子水泳選手は、トーマス選手と更衣室を共用することを知らされなかったとし、辛い心中を吐露した。そして多くの女子選手が動揺していると語った。

性的な解放やフェミニズムといった価値観は学校教育にも影響を与えている。共産主義がもたらす問題に詳しい作家のジェームズ・リンゼイ氏はエポックタイムズの取材に対し、「現在、学校やメディアの影響を受けて、ずっと若い年齢から、親と子が性やセックスの会話をしなければならない状況になっている。10年前、15年前に比べて、親が抱えている問題は非常に難しいものになっている」と指摘した。「このようなことが少なくとも過去10年間、かなりの程度で横行していた。親もようやく気づき始めている」。

共産主義との関連を指摘する声も

前出の西田議員は、LGBT関係者全員に当てはまるものではないと前置きしつつ、LGBT問題やフェミニズム問題は共産主義運動とも関連すると指摘した。「LGBT問題はフェミニスト問題を含め、既成の価値観、既成の考え方、秩序を潰して変えていこうという大きな運動が戦後ずっと続いている」とし、そのような政治的運動を推進してきたのが共産党などの左翼勢力だと指摘した。

アメリカや欧州諸国の例を挙げ、「左翼勢力が既成の家族、地域、伝統的な価値観を粉砕することを目的にそのような活動をしてきているという現実がある」と語った。そして自民党が慎重になっているのは、社会の分断を懸念しているからだと述べた。「個人個人の尊厳を認めることを旗印に、結局家族や伝統的な価値観から人間を分断していく、それを政治目的として推している運動が全世界で行われてきている。欧州も米国もそうだ。そして最終的にはマルクス主義にたどり着く」。

ニュージーランドの作家トレバー・ルードン氏は大紀元の姉妹メディア新唐人テレビ(NTD)のインタビューのなかで、「マルクス主義は今やLGBTQ運動、フェミニスト運動、環境保護運動、反差別運動などに姿を変えている」と指摘、近年のフェミニズム運動は人々を性別で分断し、伝統的な結婚と家族を崩壊の道へと導いていると語った。

「マルクス主義とは自然で伝統的な生活方式を覆すことだ」とルードン氏。「宗教や伝統的な家族の価値観、社会構造を損なうものは間違いなくマルクス主義の基盤がある」。

西田氏は自身の番組でこう締め括った。「この世に存在するということは、私たちに両親がいたということだ。そして、その両親にもその両親がおり、過去から存在していただいたことが、今日の我々が存在する一番の理由だ。この仕組みを次の世代にも伝えていかなければ、次の子供が生まれないという現実がある」。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。
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