昨年10月、一人の無名の市民によって、中国当局を批判するスローガンが記された横断幕が北京市内の陸橋に掲げられた。以来、この勇気ある行動に触発されたためか、同様の抗議行動はいまや中国の各地で見られるようになった。
「勇気ある市民の出現」を恐れる中共
陸橋の上で行われた「単騎デモ」の悲壮な様子は、SNSを通じて世界中に知れ渡っただけではない。
まさしく体と命を張ったこの行動に、中国各地の市民は大いに感銘を受けた。彼らもまた、陸橋に掲げられた横断幕と同じ文言を公共のトイレや電柱など様々な場所に落書きするなどで共有するとともに、ネット上で草の根の啓蒙活動を繰り広げている。
北京の陸橋で掲げられたスローガンは、11月下旬に中国全土に広がった「白紙革命」の先駆けにもなった。その手に掲げた「白紙」には何も書かれていないが、勇気をもって街頭に出てくる彼らの行動自体が、中共に「不(No)」を突き付ける明確な意思表示になっていた。
そうした勇気ある市民の出現を最も恐れる中共は、デモ参加者を画像などで追跡し、取り締まりに躍起になっている。しかし、ひとたび着火した民衆の抗議の炎は、盛衰を繰り返しながらも、もはや消えることはない。
抗議の叫び、北京の陸橋から天安門広場へ
最近では、北京の天安門広場で「打倒(中国)共産党」「祖国を返せ(還我家園)」と抗議のスローガンを叫んだ女性の動画がSNSで拡散されている。女性はその後、すぐに警察や私服警官らによって拘束され、連行されたとみられる。
この事件がいつ起きたのか、また女性の身元や背景などの詳細については、現在のところ確認できていない。一方、ネット上には、この勇気ある女性を称賛し、敬意を表するコメントが殺到している。
「これがいつのことであっても構わない。天安門広場でこの言葉を叫べる彼女は、間違いなく勇士だ」
「政府の圧迫を前に、民衆は立ち上がることを余儀なくされている!彼女は、この時代の最強の声を上げたのだ!」
1989年の天安門事件の際、戦車の前に立ちはだかった無名の男性がいた。彼は「タンクマン」と呼ばれている。これにちなみ、北京の陸橋に横断幕を掲げた男性について、人々は敬意を込めて「ブリッジマン」と呼ぶようになった。
「天安門の女勇士」に続け
今回、天安門広場で「打倒共産党」を叫んだ女性を、前例にならって「天安門の女」と呼ぶ人が出てきている。それと関係があるかは定かでないが、4月上旬、天安門の壁に習近平指導部への批判とみられる落書きも見つかっている。
昨年10月に起きた「陸橋事件」の翌月である11月24日の夜、新疆で10人が死亡する集合住宅火災が発生した。「死者10人」は地元当局による発表であり、実際には子供をふくむ40人以上が犠牲となったと見られている。
この火災で多数の犠牲者が出た原因は、当局のコロナ対策の影響で建物が封鎖されており、住民避難が遅れたためとされている。火災犠牲者を追悼する集会は、やがて全中国を巻き込むゼロコロナ政策に反対する「白紙革命」へと発展した。
当時、上海では「習近平は退陣しろ。共産党は退陣しろ」のスローガンが叫ばれた。
今年2月、武漢や大連などで、医療改革に反対する高齢者を主体とした抗議運動「白髪(はくはつ)運動」が発生した。当局は多数の警官を投入してデモを制圧したが、そうした市民の根強い反抗は、中国共産党の圧政が続く限り消えることはない。
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