日本上陸した中国大手通販アプリ「Temu」、情報不正取得か…X広告に付記

2023/08/16 更新: 2023/08/16

主に西側諸国で席巻している中国のネット通販アプリ「ティームーTemu)」が今夏、日本に上陸した。このアプリは個人情報の不正利用や廉価販売への説明不足について、専門家が警告している。大手SNS「X(旧ツイッター)」に出された広告表示には警告的な文言が付記された。

「読売新聞が2023年4月に警鐘を鳴らしています 中国通販サイト『ピンドゥオドゥオ』、利用者スマホから通話履歴・写真など不正取得か」

破格値のついた中国電子機器大手レノボのワイヤレスイヤホンの広告表示に、Xのコミュニティノート(誤情報や偏向を指摘できるXの利用者サービス)が付けられ、ユーザーたちの注目を集めた。

イヤホンは「¥183」という破格値で、日本の楽天市場やアマゾンで販売されている同型製品の20分の1程度だ。¥のマークは日本円ではなく中国人民元を意味するのではとのコメントもついた。

「安すぎる」への説明不足

ティームーは、中国最大の大手ネット通販サイト「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」の越境版アプリ。靴や子供のおもちゃ、電子機器など、中国出荷の製品を3ケタなど超格安で販売している。22年から欧州・米国事業を始めた。今年6月下旬には日本、韓国でサービスを開始。8月中旬現在、日本におけるアップル、アプリストアではTikTokに次ぎダウンロード数2位となっている。

ロシア・ウクライナ戦争の勃発以降、世界的なインフレが起きておりメーカーは物流や原料のコスト高に苦戦している。こうしたなか、「億万長者みたいに買い物しよう」とのキャッチコピーのもと、低価格で衝動買いを誘うティームーの戦略は際立った。

同様の中国格安ファッションアプリ「シーインSHEIN)」が成功を収める中、ティームーも広告戦略が功を奏し人気を獲得しているもよう。上記のコピーは米スーパーボウルのスクリーンに映し出され、ユーザーの45%増に導いたという。日本でもSNSで日本語広告を増加させている。

安値を実現できている理由は明らかではない。紹介キャンペーンや時限式の割引券配布ほか、加盟店同士の価格競争ユーザーの共同購入を図ることで安値を実現させる親会社のピンドゥオドゥオの工場と関連するとの指摘もある。

いっぽう、急激な成長の背景には、データ漏洩リスクや人権侵害、品質問題、著作権違反などいくつもの問題点が指摘されている。

米国の中国問題調査委員会が4月に発表した報告によれば、グーグルのプレイストアはティームーの親会社ピンドゥオドゥオのアプリを一時停止した。複雑なマルウェアが見つかり、ユーザー許可を得ず個人情報にアクセスし、他のアプリのデータを閲覧したりアプリ削除を難しくするといった工作がなされていたという。

この報告書はティームーについて「商慣行には疑問を呈する」と指摘。不可解なほどの安値の説明不足、中国本土との不透明な企業構造、サイバーセキュリティ、国家安全保障の懸念を引き起こすと警告している。

USAトゥディ4月20日付の記事は、すぐにティームーアプリを削除するよう利用者たちに勧めている。理由は、「共産主義体制の中国を拠点とするアプリである」ことや、「連絡先やアルバム、チャット、電話など全ての情報にアクセスできる」リスクを指摘した。

ティームーやシーインなどファストファッションを扱う中国のネット通販企業は、人権侵害や強制労働に関わる綿を使用した製品を扱っていると昨年の人権団体の調査で指摘され、米国のウイグル強制労働防止法違反の疑いが持たれている。

こうした流れから、米下院の中国共産党戦略特別委員会は強制労働に関する調査を開始。5月の中間報告で、マイク・ギャラガー委員長は「衝撃的な結果だ。ティームーは供給チェーンから奴隷労働を排することをほとんど何もしていない」と批判。さらに、同社は米国の税制度の抜け穴をつき検査を逃れているとして、輸出の見直しの必要性を訴えた。

米税関・国境警備局は申告要件を800ドル以上としており、ティームーやシーインの顧客向け出荷の多くはこの基準を下回り、小売業者の大量輸入に課せられる厳しい検査の対象にならない。

品質問題は消費者から酷評がくだっている。レビューサイトのBBBやトラストプロットでは、「赤ちゃんのおもちゃを買ったがボロボロに壊れ、窒息の危険も。すぐゴミ箱行き」「写真や説明と現物が全然違う」「カスタマーサポートは英語がわからない」「カゴに入れた途端、表示価格が10倍になった」などなどの苦情が書き込まれていた。最良とつけるコメントの多くはキャンペーンコードの貼り付けなど、利益誘導の意図がみられた。

著作権侵害や知的財産権侵害の訴訟も行われている。アマゾンの出店者は7月、ティームーに商品画像や説明を無断転用されたとして訴訟を準備している。新興メディアWiredによれば、ある利用者は、ティームーによる無断転載の影響で売り上げが著しく減少したという。「ティームーの販売業者は他人の情報を盗み、偽の広告を作り、消費者の利益を損なっている」とアマゾンの担当者は非難している。

日本ではティームーやシーインの利用に特記した公的文書や国会での言及はないが、消費生活センターは昨年10月、商法や意匠法などの改正法施行により模倣品の取り締まりが強化され、個人使用でも税関の没収対象になると警告している。また、「¥」表記の日本円と人民元の誤認に注意するよう呼び掛けている。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。