中国のライブ通販業界でトップの売り上げを誇り、「口紅王子」として知られる人気インフルエンサーがいる。その名は李佳琦(り かき)氏、31歳。その「口紅王子」が、ライブで商品の販売中に視聴者に向けて発した「ある言葉」が強い反発を招き、波紋が広がっている。
「給料、上がってないの?」で一発アウト
3時間で10億円以上の売り上げ記録を持つ「口紅王子」こと李佳琦氏は、10日夜の生配信で、1本79元(約1600円)のアイブローを紹介していた。その時、李佳琦氏は視聴者から寄せられた「値段が高い」というコメントをきっかけに、これに言い返すような「持論」を展開しはじめた。
「どこが高いの? ずっとこの値段だよ」「そんなに長い間、あなた給料が上がってないの?」「あなた、本当にまじめに働いてるの。自分に向かって原因を探したら?」
視聴者に対してあまりに高飛車な物言いに、そばにいたアシスタントの女性まで驚いた様子で、目を見開いて彼を見つめていた。
ただ、この時にも李佳琦氏は「あ、ちょっと言いすぎたかな」と思ったのか、笑顔をふくみながら軽い感じで「ごめんね~(対不起)」と言っている。SNS上に非難が殺到するのは、この後である。
(問題発言をした直後、軽く「ごめんね(対不起)」と謝る李佳琦氏)
化粧品が高いと感じるのは、「視聴者自身がまじめに働いていない(収入が少ない)せいだ」と言わんばかりの発言と「上から目線」の態度に、「李佳琦は、働く者を見下している」などとネット上で批判が殺到した。その夜「李佳琦の発言が物議を醸す」のトピックが、中国SNSウェイボー(微博)のホットリサーチ入りした。
もちろん、人気があってこそ成り立つ「口紅王子」である。世論の風向きが良くないのを見て、さすがに焦った李佳琦氏は、日付が変わった11日の午前1時半過ぎ、自身のSNSで、数時間前の不適切な発言について撤回し「涙ながら」に謝罪した。
「涙の謝罪」も手遅れか
その涙が、本心からの自己反省であるのか、人気が急落することを恐れての「必死の演技」であるかは何とも言えない。ただ、自分の軽率な発言で思いもかけないバッシングを受けたことは、人気者の「口紅王子」にとって全く想定外の衝撃であったに違いない。
11日になると、「79元は庶民にとって何を意味するのか」「李佳琦が謝罪」「あなたは李佳琦の謝罪を受け入れるか?」といった関連するトピックまでホットリサーチ入りしている。中国メディア「梨視頻」が実施した投票では、「李佳琦の謝罪を受け入れない」と回答したネットユーザーは約5割に上る結果に終わった。
11日午後8時過ぎ、李佳琦氏は再び、ライブ配信中に「涙で声をつまらせながら」に謝罪した。ただ、気持ちが少し落ち着いた後で「じゃあ、今日の商品をご紹介しましょう」と、いつも通りのライブ番組を始めている。
(11日午後8時過ぎ、李佳琦氏は再び「涙ながらの謝罪」をし、その後で、いつも通りのライブ番組を始めている)
たしかに李佳琦氏は、時をおかず、重ねて謝罪をした。しかし、彼の不適切な発言に対するネット上の怒りは、まだそう簡単には鎮まらない様子だった。
「努力したって、そう簡単に昇給できるわけはない」と訴える動画が相次いで投稿され、中国国営の中央テレビまで「初心を忘れたらダメよ」と李氏を批判するなど、波紋は広がるばかりだった。
こうして「口紅王子」は、自身の問題発言からわずか1日で100万人以上のフォロワーを失ったという。
中共の狙いは「躺平」させないこと
彼のたった一度の失言がこれほど炎上したのは「その発言が失業、給与削減、経済悪化、社会的不公平など中国社会の問題を浮き彫りにした。そして、いくら努力しても給料は上がらないしお金がない、という中国国民に普遍的で最も敏感なところを突いてしまったからだ」と分析する人は多い。
いっぽう、中国官製メディアまで加わって、李氏に「追い打ち」をかけるその目的について、時事評論家の李林一氏は「溜まりにたまった民衆の怒りや不満を、このインフルエンサー(李氏)に向けさせようとするためだ」と分析する。
また、15日に放送されたNTD新唐人テレビの時事評論番組「新聞五人行」に出演した中国時事評論家の林瀾氏は、李佳琦氏を「一部の強く育つニラ」と例えて、次のように分析した。なお、この場合のニラ(韮菜)とは「搾取される人民」の比喩であり、現代中国の世相を表す単語としてよく使われる。
「中国共産党は、一部のニラが他のニラより強く育つことを許している。中共の目的は、よく育ったニラを利用して、躺平(寝そべり)をせずに努力をすれば希望がある、という幻像を作り出すことだ。しかし、ニラとニラの間にできた格差によって、成功者(金持ち)を妬む心理が作り出され、ニラの間では争いが絶えない。しかも、ニラたちが強く育たないのは、他のニラが(社会の)資源を奪い取ったからではない。本当の理由は、ニラを刈り取る鎌を常に振り回している者がいるからだ」
林瀾氏によれば、中国共産党は若者たちが躺平(寝そべり)をせずに努力するよう「成功例」の出現を許しているが、そのような成功者は妬まれやすく、攻撃されやすい。たった一度の失言で痛手を受けた今回の「口紅王子」李佳琦氏の例は、まさにその典型であると指摘した。
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