沖縄県の玉城デニー知事は27日、県庁地下駐車場から有害な有機フッ素化合物「PFAS」を含む消化剤が6月から漏出していたにもかかわらず公表しなかったことについて、議会で謝罪した。沖縄の県政に詳しい識者の仲村覚氏は取材で「米軍を批判している場合ではない」と指摘した。なぜ、公表が遅れたのか。
玉城氏は19日、ジュネーブの国連欧州本部で駐留米軍の問題を訴えたばかり。地元有力紙は県議会与党の話として「最悪のタイミング。信頼と説得力を根底から失う失態だ」と報じた。漏出したPFASを含む消火剤の一部は久茂地川に流入していたという。
泡消火剤に使用されるPFASは自然分解せず、「永久の化学物質」と例えられている。人体にはホルモンの変化、生殖能力の低下、免疫力の低下、がんリスクの増大などの健康問題を引き起こすとされ、国際的な使用・製造の規制が設けられている。
沖縄県はどう対応したのか
県庁地下駐車場でPFASを含む泡消火剤が誤作動し、流出が確認されたのは6月だ。県庁担当者は取材に対し、6月18日の段階では総務部長までの報告を行なったが、知事への報告は行われなかったと語った。
「6月から9月の間は特に調査をするわけでもなく、どうやって回収しようかという検討をしていた。3カ月もかかってしまったことは申し訳なく思っている」
総務部長から知事への報告がなかったことについて、詳細の回答は避けた。
県の対応遅れにより、消火剤は流水槽に流入し続け、外部へと漏出した。その総量およそ900リットル。県が把握したのは9月12日だった。しかし、外部への漏出がいつから始まったのかは不明だ。県によれば、久茂地川で検出したPFASは、国の暫定目標値を下回った。
玉城知事の対応
県担当者によると、9月15日、PFAS漏出の報告がついに玉城デニー知事の知るところとなった。報告は「現在調査を行っており、調査結果が判明した後に公表する」との段取りだったという。知事からは「適切に対応するように」との指示が下った。
担当者は「現場レベルでは把握していた」としつつ、外部に漏出したかどうかわからなかったため、知事への報告を行わなかったと述べた。「現場の担当者の危機意識が欠如していた」ことが原因だったという。
玉城氏は18日からスイス・ジュネーブを訪問し、国連人権理事会に出席。日本政府が米軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事を強行していることなど、沖縄の基地問題について訴えた。
現地紙「沖縄タイムス」によると、玉城氏は帰国後の25日、知事公舎の意見交換の場で、初めて与党に報告した。参加した与党幹部は「衝撃過ぎて立ちくらみがした」という。
玉城氏の帰国後、沖縄メディアをはじめとする報道各社は県庁からのPFAS漏出について報じた。玉城氏は27日、報道陣の前で頭を下げた。
解けぬ疑惑
玉城知事はかねてから沖縄に駐留する米軍を問題視しており、米軍基地への立ち入り調査に加え、PFASの保管状況の把握などを求めてきた。自らの管理責任が問われる失態だけに、保守派の風当たりは強い。
中山義隆石垣市長は「この種の事故はあってはならないが、起こるかもしれない。県は米軍のPFAS流出についてあれだけ強く抗議し、情報開示を求めている立場なら、自らの事故を公表しないのは❌(バツ印)です。知事は知らなかったのか?」とX(旧Twitter)に書き込んだ。
識者の仲村覚氏は「米軍を訴える前に自分のところでも垂れ流しているではないか。米軍を批判している場合ではない」と批判した。公表が遅れたことについては、玉城氏の国連での演説の直前に県庁からもPFASが漏出していることが知れ渡れば「(差別されていると)言えなくなるのではないか」との考えを示した。そして「米軍だけではなく、県庁からも(PFASが)出していたことを、国連にも率直に言ったらどうか」と述べた。
いっぽう、沖縄県庁は取材に対し、隠ぺいする意図は「全くない。そのようなものはない」と強調した。
一連の騒動を受けて、県は流出した物質の回収と洗浄作業を実施した。再発防止策として、各施設の消火設備の早期点検と、環境に優しい泡消火剤への切り替えを検討している。
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