2021年1月には始まっていた
医師らは2021年1月からワクチン接種後の心筋炎患者を見かけるようになったが、それはこの問題が一般に知られる数カ月前のことだった。
例えば米軍の研究者らは、2021年1月の時点で、それまで健康だった22人の軍人がワクチン接種後に心筋炎を発症したことを論文で詳述している。
イスラエルでは2021年1月だけで17件の患者が発生したと、同国の研究者が論文で報告している。
論文の共著者、ドロール・メボラック医師は、ファイザーに心筋炎と注射薬との関連性を警告しようとしたと述べた。
「彼らは4ヶ月の間、私を信じようとしなかった」とメボラック氏はイスラエルのハアレツ紙に語った。これに関して、ファイザーはコメント要請に応じなかった。
医師らは、多くの症例について、ワクチンが原因であるとする説への支持を強めており、新型コロナへの感染などは原因から除外している。
症例報告は、早いものでは2021年2月16日にはジャーナルに投稿されていたにもかかわらず、掲載は発症から数ヶ月後になることが頻繁にあった。また、論文の掲載を拒否するジャーナルもあった。
医学ジャーナル「JAMA Pediatrics」の編集長であるディミトリ・クリスタキス医師は、米国疾病予防管理センター(CDC)の職員に対して症例集積研究を「歓迎する」と言いながら、実際にはそれを拒否していた。エポックタイムズが入手したクリスタキス氏の電子メールで明らかになった。
JAMA Pediatrics誌は2022年2月25日まで、新型コロナワクチン接種後の心筋炎に関する研究を発表しなかった。クリスタキス氏に問い合わせたところ、不在にしているとの返事が返って来た。
2021年にジャーナルに報告された症例数は、CDCのワクチン有害事象報告システム(VAERS)に寄せられた報告のパターンに従い、時間の経過につれて増加した。
最初に症例報告が出版されたのは2021年3月だった。同年6月末までにさらに16件が発表され、7月には290人に急増した。
イスラエルの研究グループの論文が発表されたのは2021年10月のことで、最初の症例が発見されてから半年以上も経ってからだった。
論文の共著者であるハダサ医療センターの心不全課および心血管研究センターのラベア・アスレ所長は、エポックタイムズに次のように語った。
「データを処理し、収集し、報告するには時間がかかる。もちろん、論文執筆には校閲や修正のプロセスもあるし、オンラインで発表できるようになるまで数ヶ月かかった。ワクチン接種後の心筋炎に関する早期の報告があったが、私たちはより包括的な情報が提供されるのを待った」
「ワクチンの副反応と結びつけるのが妥当」
世界で初めて文献として出版された症例報告は、スペインの研究者らによる研究論文だった。ハビエル・バウティスタ・ガルシア医師をはじめとする研究者らが、ファイザー製ワクチンの初回接種後に6日間入院した39歳の医師について報告した。
この医師は新型コロナの検査で陰性だった。研究者らはその他に考えられる要因も除外している。
「ワクチン接種と対応する明らかな時間的関係性と血清学的パターンを考慮し、急性感染症を除外すれば、この患者が発症した臨床像を新型コロナに対するBNT162b2ワクチンの副反応と結びつけるのが妥当だと思われる」と研究者らは書いている。BNT162b2とは、ファイザー製ワクチンの名称だ。
また、イタリアの研究者らは、2回目のファイザー製ワクチン接種後に心筋炎を発症した56歳の健康な男性について報告した。
「この症例報告では、2回目のBNT162b2新型コロナmRNAワクチン接種と急性心筋炎との因果関係は証明できないとしても、発症時期や炎症の性質から関連性は十分に考えられる」と研究者らは述べた。
イスラエルと米国の研究者らも、2021年の春には症例を報告していた。
2021年6月になると報告が殺到した。なかには、ワクチン接種の直後に心筋炎を発症し、入院を余儀なくされた米国の14歳の子供たちの一連の症例報告もあった。
米国の研究者らはまた、ペンシルベニア州での4例、ニュージャージー州での1例、マサチューセッツ州での6例、ミネソタ州での4例、テキサス州とバージニア州での7例、テキサス州での1例、カリフォルニア州での1例、ミズーリ州での2例、ニューヨーク州での1例、ハワイ州での2例、ノースカロライナ州での7例を報告している。
CDCの当局者は2021年6月29日付の論説で、一部の症例について、「これらの患者の症状は臨床的に驚くほど類似している。mRNAベースの新型コロナワクチンを最近接種しており、急性心筋炎に代わる病因がないことから、ワクチン接種との関連性が示唆される」と述べている。
フランスの専門家は論文で、新型コロナワクチン接種後の心筋炎の報告214件を分析した結果、データは「他のワクチンと同様に、新型コロナのmRNAワクチンが心筋炎と関連していることを示唆している」と述べた。
最初の承認
イスラエルのメディアは2021年4月、2例目となるワクチン接種後の心筋炎による死亡を報告した。一方、同国の当局は、調査の結果、55例の心筋炎がワクチン接種に関連しており、さらに81例についてもおそらく関連しているであろうと判断したことを明らかにした。
2021年5月31日、イスラエル保健省から派遣された専門家らは、最初の危害発生率の計算において、16~19歳の男性ではファイザーの2回目投与6,637回につき1例、20~24歳の男性ではファイザーの2回目投与9,208回につき1例の心筋炎が発生すると推定した。
「統計的に有意な、高い心筋炎のリスクが判明した。私たちの見解では、この関連性は因果関係の基準を満たすものだ」と専門家らは述べた。
イスラエル保健省は次のように述べている。
「結論としては、2回目のファイザー製ワクチンの投与と心筋炎、特に若い男児における心筋炎リスクの増加との間には、高確率で関連性があるということだ」
またCDCは2021年5月、米国における心筋炎の報告を調査することに重点を置いた新たなチームを結成した。そして、小児科病院の医師を含む医療従事者を対象にガイダンスを作成し、助言を与えた。しかし、その多くは一般公開されなかった。また、2021年5月5日と14日のワクチンアドバイザーとの公開会議では、心筋炎について全く触れられなかった。
これらの会議の間に、米国食品医薬品局(FDA)は、1,131人の青少年にワクチンを接種しても死亡者や心筋炎を発症した者はいなかったという試験データに基づき、ファイザー製ワクチンの接種対象者を12〜15歳に広げた。当時のロシェル・ワレンスキーCDC所長はこの年齢層へのワクチン接種を推奨したが、FDAもワレンスキー氏も心筋炎には言及しなかった。
(1)の冒頭で紹介した、ワクチンの副作用を経験したエイデン・エカナヤケ君のお母さんは、イスラエルの研究は読んでいたが、ワレンスキー氏の公式声明を読んだこともあり、リスクを上回る利点があると考えたため、息子ともどもワクチン接種を決めたという。
「彼女はある時点で関連性はないと言っていたので、私たちは接種に進んだ。息子が接種した時、インフォームド・コンセントは全くなかった」
エイデン君は2021年5月10日に最初のワクチン接種を受けた。
米国西部在住のプロのマウンテンバイクレーサー、カイル・ワーナーさんは、2021年5月と6月にワクチン接種し、心筋炎を発症した。起こりうる有害事象について米国当局から警告がなかったことが、ワクチンを接種した理由の1つだったと彼は述べた。
「私たちの多くは、『まだ誰も障害を負っていないし、私が聞いた限り何の問題も起きていないから、言われているように安全で効果的なのだろう』という誤った思い込みをしていた。そうやって『安全で効果的』という神話が長続きした」
警告が出されていれば助かったかもしれないと、ワーナーさんは振り返った。
2021年5月24日、CDCの作業部会は、ワクチン接種後に報告された16歳から24歳の心筋炎の症例が予想以上に多かったことを初めて認めた。しかし、この部会は若い人たちにワクチン接種を受けないよう警告はしなかった。その代わり、医師が心臓の炎症を認識し、症例を適切に管理できるよう準備すべきだとした。
CDCは、この事実を認めた後も、感染症は心筋炎よりもリスクが高いとしてワクチン接種を推奨し続けた。ワレンスキー氏は、心筋炎のほとんどの症例は安静と治療で「完全に治癒した」とし、「ワクチン接種を受けることがこのパンデミックから抜け出す方法だ」と述べた。
この発言に関して、ワレンスキー氏の報道官であるジェイソン・マクドナルド氏は「論調が定まりましたね」とメールで意見し、ワレンスキー氏も「そうね、私も気に入った」と返信している。エポックタイムズが入手した内部メールで明らかになっている。
リスク・ベネフィット分析
新型コロナウイルス感染症は、健康な若年層へのリスクはほとんどない。したがって、ワクチン接種が意味のあるものとなるには、ワクチンの有効性と安全性に関してより高いハードルをクリアする必要がある。
豪キャンベラ病院の感染症専門医であるピーター・コリニョン氏は以前、「ベネフィットがリスクを著しく上回ることを示さなければならない」とエポックタイムズに語った。
米当局やその他のワクチン推進派は当初、早期の文献を引用して、ワクチン接種後の心筋炎はまれであり、ほとんどが軽症であるとしていた。2021年6月23日、米国小児科学会やCDCをはじめとする複数の団体が、「事実は明らかだ:これは極めてまれな副作用であり、ワクチン接種後に経験する人は極めて少数だ。重要なのは、これを経験した若者のほとんどは軽症で、多くの場合、自力あるいは最小限の治療で回復することだ」と共同声明で述べた。
最初期の臨床試験における小児の数は、ファイザーの場合は少なく、モデルナの場合は全くいなかった。ファイザーの臨床試験では1人が心停止で死亡したが、その年齢は公表されず、もう一人、心膜炎を起こした人は36歳だった。当初、FDAのアドバイザーの中には、16歳と17歳のワクチン接種を待つよう勧めた者もいたが、結局却下された。
CDCは2021年6月23日の会議で、新型コロナワクチンのベネフィットとリスクの比較を、初めて正式に発表した。それによって、ファイザー製ワクチン接種100万回につき12〜17歳の男性に56〜69例、18〜24歳の男性に45〜56例の心筋炎が発生することが推定された。
心筋炎以外に疑われる、あるいは確認された副作用(重篤なアレルギー性ショックなど)は、リスクには含まれなかった。
CDCは、この100万回与が120日間で数千人の新型コロナ感染者と数百人の入院者、そして一握りの死亡者を救うことができると推定している。
CDC職員のミーガン・ウォレス氏は会議で、「直接的なベネフィット・リスク評価は、すべての年齢層と性別でプラスのバランスを示している」と述べた。
このモデルは、主に臨床試験データに基づいており、絶大な効果があると推測している。CDCの広報担当者がエポックタイムズにメールで語ったところによると、この計算の大部分はファイザーの試験結果をまとめた研究に基づいているという。
しかし、モデルの前提をひとつ変えただけでリスクがベネフィットを上回る計算になってしまう、と評価の根拠を疑問視する研究者らもいた。彼らは、VAERSがいかにリスクを過小評価しているかを考慮すれば、「若年層への2回目の接種は好ましくない」と指摘した。
ほどなくして、トレイシー・ベス・ホーグ医師らのグループが、12〜17歳の健康な男性がワクチン接種後に心筋炎やその他の心臓疾患で入院するリスクは新型コロナウイルス感染症よりも高いとする論文を発表した。この論文はプレプリント(査読前論文)として発表されたが、後に学術誌に掲載された。
その直後、北欧の研究者らが、2回のワクチン接種を受けた若い男性100万人当たりの超過症例数が274件に上ったことを報告した。
また、ワクチンの種類別に症例をグループ分けし、モデルナ製ワクチンの接種者が心筋炎を起こしやすいことを発見した研究者もいた。
例えば、カナダの研究グループは、2回目の投与後の超過症例は、ファイザー製ワクチンを投与された若い男性では100万人当たり31人だったのに対し、モデルナ製ワクチンを投与された同じ集団の場合は100万人当たり162人だった。また、モデルナ製を接種した女性も発症率が高かった。
英国の研究グループは、40歳未満の男性において、ファイザーの2回目の投与で100万人当たり14人の過剰症例を発見し、同じ集団においてモデルナの2回目の投与で97人の過剰症例を発見した。
早期のモデルナ製ワクチンの有効成分は、2回の接種でそれぞれ100マイクログラムが投与されたが、ファイザー製が1回30マイクログラムだったのと比べて量が多かった。
リスク増大とベネフィット縮小
観察データ、症例報告、前向き研究により、心筋炎のリスクがより明確になった。心筋炎は当初考えられていたよりも一般的で、必ずしもすぐには解決しない問題だった。それに、ワクチンの効果は新たな変異型に対して悪化していく一方だ。
先ほどのホーグ氏の論文が掲載された後、FDAは6つのモデル化されたシナリオの1つで、5歳から11歳の間では、ファイザー製ワクチンによる心筋炎と心膜炎の予測症例数が新型コロナによる入院件数と死亡件数を上回ることを発見した。異常値シナリオにおいて、5歳から11歳の男性では、ワクチンが感染症による入院を21件予防したのに対し、心筋炎による超過入院数を156件に高め、同じ年齢層の女性では、感染症による入院を21件予防したのに対し、心筋炎による超過入院数を28件に高めると予測された。
それにもかかわらず、当局はこの年齢層に対するファイザー製ワクチン接種を承認し、CDCはそれを推奨した。
多くの研究者が、すべての年齢層でワクチンのベネフィットがリスクを上回ると言っていたが、すべてではなかった。
2021年夏の時点で、ドイツの研究者らは、「若者はワクチン接種なしでも新型コロナが重症化するリスクが非常に低いため、子どもに対するリスクとベネフィットの計算は慎重に検討する必要がある」と述べていた。
2022年春に行われたFDAの別の分析では、新型コロナワクチンの入院に対する有効性を少なくとも80%と予測していたが、これは最新の数字ではなかった。分析における3つのシナリオのうち2つは、16歳または17歳の男性において、ワクチンによって予防される入院数より引き起こされる心筋炎の方が多くなると推定した。同機関は例によって、基礎疾患や過去の感染歴による層別化は行っておらず、心筋炎以外のリスクも含めていなかった。
同月、CDCは、ワクチン接種後よりも新型コロナ感染後の方が心臓病の合併症を引き起こす可能性が高いという査読を経ていない論文を発表した。「これらの知見は、5歳以上の対象者全員に対する新型コロナのmRNAワクチンの継続的な使用を支持している」とCDCの研究者らは述べた。しかし、新型コロナウイルス感染症であると正式に診断された人たちだけを調査したことなど、彼らが用いた手法は広く批判を浴びた。つまり、家庭で検査を受けたり、軽い症状のために検査を受けなかったりした子供たちは除外されていた。
その後2022年、ホーグ氏などの米国の研究者らは、若く健康な人々の間で、追加接種によって予防できた入院1件につき1.5〜4.6件の割合で心筋炎が引き起こされたと推定した。彼らの分析には、オミクロン株に対するワクチンの効果が薄れてきていることが織り込まれている。
研究者の一人であるケビン・バルドシュ氏は、エポックタイムズにこう語っている。
「多くの親のグループが私たちのところに来て、『科学文献に目を通しましたが…若い健康なスポーツマンの息子が心筋炎になったりその他の有害事象に見舞われないか不安です』と言った」
FDAの最新のリスク・ベネフィット評価では、18歳から25歳を対象としたモデルナ製ワクチン接種により、心筋炎による入院が58件から207件発生するが、635件から5,957件の入院が予防されると推定した。これは6月に発表されたが、2023年以降のデータは使用されていない。
モデルが数ヶ月前のデータに依拠しているために、ベネフィットを過大評価してしまうことはしばしばある。ワクチンの効果は新たな変異株に対してはるかに悪化していることはデータが示しており、有効性がマイナスに転じる兆候もある。
「この先、もっと多くのリスクが見つかるでしょう。そしてもちろん、誰もが思っているほどベネフィットが長くは続かないこともわかった」とホーグ博士は語った。
しかし、CDCはそのリスク・ベネフィット評価を擁護していた。2023年7月に発表した論文で、「緊急時のワクチン接種のベネフィット・リスク・バランスの重要な評価となる、より伝統的なモデリング手法に代わる迅速で柔軟な手法を提供した」と述べている。研究者らは、先行感染による層別化の欠如とその他の限界を認めた。
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