ワクチン免責法でも守れないもの アメリカで問われた“親の意思”

2025/03/25 更新: 2025/03/26

米ノースカロライナ州最高裁判所は3月21日、母親の同意なしに新型コロナワクチンを接種された少年のケースについて、連邦のワクチン免責法では憲法上の権利侵害は免責されないとの判断を示した。

3月21日の判決によって、原告であるエミリー・ハペルさんと息子のタナー・スミス君(当時14歳)は、地元の教育委員会と医療機関を相手取った訴訟を続行できることとなった。2021年、スミス君は保護者の同意がないまま、学校でコロナワクチンを接種されたという。

下級裁判所は、公衆緊急事態準備法・対応(PREP法)により、訴訟は認められないと判断していた。PREP法は2005年に制定され、公衆衛生の緊急事態において、ワクチン接種を行う医療関係者らに幅広い法的免責を与えるもの。コロナのパンデミック下でもこの法律が発動されていた。

しかし、州最高裁のポール・ニュービー主席判事は、多数意見の中で「PREP法が適用されるのは、主に民事訴訟上の損害賠償請求などに限られ、憲法上の権利を侵害した行為には適用されない」と明言した。

ニュービー判事は、「被告側の主張するようにPREP法を文字通り解釈すれば、たとえ国家が市民の基本的な権利を故意に侵害したとしても、死亡や重傷を伴わなければ免責されることになる。さらに、判事は「極端な例として、意識のない患者へのワクチン接種や、公立学校の看護師が治療効果を誇張して接種を促すような行為までもが容認されかねない」と懸念を表明。「身体の自由や親の同意といった基本的な憲法上の権利が、軽視されることはあってはならない」と述べた。それは、連邦議会の本来の意図ではあり得ない」と指摘した。

PREP法における「損失」の定義

米連邦政府が制定した「公衆緊急事態準備法・対応(PREP法)」は、「損失に関するすべての請求」から特定の医療行為を行う者を免責すると定めている。だがノースカロライナ州最高裁は、同法における「損失(loss)」の定義は、死亡や財産損失といった民事訴訟(不法行為)に限られるとして、憲法上の権利侵害には適用されないとの判断を下した。

原告のエミリー・ハペルさんは、自身の訴えはPREP法で想定されている「損失」には当たらないと主張。最高裁の多数意見も、PREP法に記された「損失」の例がすべて不法行為法(tort law)に関連するものであることから、この見解を支持した。

「通常の不法行為による損害と、憲法上の権利侵害による損害は別物である。PREP法に記された例示がすべて不法行為に基づいていることから見ても、連邦議会は同法によって州憲法上の権利侵害を免責する意図はなかったと考えられる」と、ポール・ニュービー主席判事は述べた。

訴訟の発端は2021年、ギルフォード郡教育委員会が後援したクリニックにおいて、オールド・ノース・ステート医師会の職員が、保護者の同意がないまま14歳の少年タナー・スミス君にワクチンを接種したことにある。本人も接種を拒否していたという。

被告側は、他の裁判例を引用しつつ、「PREP法によりこの行為は免責される」と主張していた。しかし、州最高裁は「これらの判例はいずれも憲法上の権利侵害を扱っておらず、また、他の州法違反と明確に区別していなかった」として説得力に欠けると判断した。

今回の判決は、2023年に下された第一審の免責認定と、それを支持した翌年の州控訴裁の判断を覆すものである。控訴裁は当時、「PREP法は州法による保護を無効にするものと判断せざるを得ない」としていた。

最高裁は、本件を控訴裁に差し戻し、憲法上の論点について改めて審理するよう指示した。一方で、ハペル氏らが主張していた暴行(バッテリー・違法な肉体的接触)に関する請求については、下級裁判所の棄却判断を維持した。

フィリップ・バーガー判事とタマラ・バリンジャー判事は補足意見で、「PREP法の免責は無制限にも見えるが、あからさまな不正行為にまで適用されると考えるのは難しい」と述べた。

反対意見では「PREP法は憲法上の訴えも排除」との見解 

今回の判決に対し、アリソン・リッグス判事はアニタ・アールズ判事と共に反対意見を示し、PREP法の文言上、「唯一の免責除外」とされているのは故意による行為で死亡または重大な傷害が発生した場合に限られると指摘した。

リッグス判事は「多数意見による解釈は、PREP法の目的や、その実現のために用いられている広範な法文の趣旨と整合しない」と述べ、「原告側が主張する憲法上の請求もPREP法により排除され、被告は免責されるべきだ」との見解を示した。

ただし、リッグス判事は同時に、PREP法による免責は民事訴訟や損害賠償責任に限られ、刑事責任や医療免許に関わる懲戒処分には適用されないとも付け加えた。

保護者の権利への波及効果にも注目

オールド・ノース・ステート医師会の弁護士は、本件についてのコメントを控えている。また、ギルフォード郡教育委員会とその弁護士の一人からも、判決公表時点までに回答は得られていない。

一方、原告側の代理人であるスティーブン・ウォーカー弁護士は、大紀元に対し「判決内容には非常に満足している」とコメントした。

「もちろん、暴行(バッテリー)に関する訴えも復活してほしかったが、主たる論点については非常に有利な判断が下されたと考えており、不満はない」と述べた。

さらにウォーカー氏は、「この裁判はPREP法の適用範囲という枠を超えて、親が子どもの医療行為について決定する権利が州憲法に基づいてどのように守られているかを、州最高裁がこれまでで最も明確に示した重要な判例である」と強調した。

「PREP法は、危機的状況下で治療手段の安全性が判断しにくい場合に、責任を免除するために存在する。だが、その目的は決して、政府が明確な憲法上の権利を踏みにじることを許すためではない」と述べた。