「何を隠蔽するのか?」 水死体となった若者、遺族の携帯電話を奪う当局=中国 江蘇

2024/01/30 更新: 2024/01/30

中国では、全く理由もなく、若者が失踪する事件が後を絶たない。

失踪した若者は多くの場合、そのまま永久に見つからない。なかには発見されるケースもあるが、その時には、明らかに不自然な「変死体」となっていることが少なくない。

そのような場合、なぜか警察は判で押したように「本人の意思による自殺」と決めつけ、遺族が提示する疑問には見向きもせず、強引に幕引きを図るのだ。

不審死を「自殺」と決めつける警察

江蘇省連雲港市の張新偉さん(18歳)は2023年12月9日に失踪。今年1月14日に川のなかから水死体となって見つかった。張新偉さんの父親は連日のようにネットを通じて、真相究明と関係者の責任追及を求めていた。

今月19日に行われた江蘇省連雲港市の公安当局(警察)の発表によると、張新偉さんの失踪時の行動は次の通りだという。

「張新偉は12月9日の未明である午前1時45分に、母親と同居していた住居から外出し、焼肉店で酒を飲んだ。2時46分に、東方紅大橋の上で、携帯電話でWeChatのモーメンツに遺書をのこし、川に飛び込んだ。その後、行方不明となっていた」

携帯電話にのこした「遺書」には、元のガールフレンドから受けたとされる屈辱らしき内容もあったという。しかしそれが本当だとしても、そのことが自殺の要因になるのかは分からない。また、その「遺書」そのものが筆跡のわかる直筆ではないため、本人のものである確証はない。

この公安局による「事件の結論」の通達が出されると同時に、当局は世論統制を行い、ネットに出回っていた関連動画や文章を全て削除した。

真相究明を求める父親の携帯を奪う

19日以降、張新偉さんの家がある村の出入り口は、警察によって封鎖された。つまり当局は、亡くなった張新偉さんの家族を、人々が訪ねることさえ許さないのだ。

張新偉さんの父親は19日、自宅から携帯電話を使って「公安当局の結論に異議を唱える」内容のライブ配信を行っていた。

ところがその日の夜中、そのライブ配信のなかで、突然ドアを壊す音や家族の叫び声が聞こえてきた。

そのあと、大勢の正体不明の男たちが家の中に押し入ってくる様子も、室内に設置されたカメラに映っている。張新偉さんの父親によると、そのとき携帯電話を奪われたという。

このほか、張新偉さんの事件に関する動画を投稿したセルフメディア発信者のもとへ、警察から電話がかかってきて、脅されたことを示す動画もネットに出回っている。

明らかに警察当局は、何かを隠蔽しようとしている。「張新偉が自殺したことについて、いかなる異議も唱えるな」という不穏な動きがあることは、明白であった。

(「遺体が発見された」という場所。複数のゴムボートが出ている)

水中から「発見された」謎だらけの遺体

張新偉さんの家族によると、今月14日の遺体の引き揚げ現場でも疑問点が多かったという。

張新偉さんは1か月以上も行方不明であった。その間、張新偉さんの生死もふくめて全く消息が分からず、全国の多くの専門の救助隊であっても張新偉さんを(たとえ遺体になっていても)発見できなかった。

しかし不思議なことに、現地で設立してわずか3日であるこの「捜索隊」は、まるで遺体の場所を知っていたかのように、川の中からすぐに遺体を引き揚げたのだ。「市民からの通報を受けた」というが、その市民とは誰なのかは明らかにされていない。

しかも遺体の引き上げ時に、家族には連絡しなかった。引き上げ現場の周囲には数百人の公安要員が配置され、人びとが遺体に近づけないよう、立ちはだかった。あわてて現場に到着した家族も、公安によって乱暴に追い払われたという。

それは、家族を完全に遠ざけて行われた、なんとも不可解な「遺体引き上げ場面」である。しかも、張新偉さんの家族によれば「遺体の様子がおかしい」という。

張新偉さんの家族は、遺体の引き揚げ現場を遠くから見るしかなかったが、家族が見た衣服と靴は、いずれも良い状態で残っていたという。しかし、これでは当局の「遺体はひどく腐敗していた」という主張と一致しないのだ。

また、遺体の顔は腫れていたが、腕は腫れていなかったという。「現地の気温は10度台であった。もし本当に遺体が水中に30日以上漬かっていたのならば、全身が巨人のように膨れ上がっていたはずだ」と、家族は主張する。

これら説明のできない疑問点の数々から、家族は「真の死因は別にある」として、警察の主張に疑問を抱いた。

なお家族は、遺体のそばへ寄ることさえできなかったので、臓器などが抜き取られているか否かは、確認できていない。

1時間後に、なぜ「錦旗」を贈れる?

さらに不可解なことがあった。遺体の引き上げからわずか1時間後に、呉さんという 「情熱的な市民」が出てきて、遺体の発見と引き上げに功績があった捜索隊を称賛する「錦旗」を贈ったのだ。

災害の生存者を感動的に救助したわけではない。要は、水底に沈んでいた死体を引き上げただけである。動画を見ると、複数のゴムボートが川面に出て、いかにも人道的なミッションが、さも懸命に行われているようにも受け取れる。

しかし一体、その光景のどこまでが本当で、どこまでが(あるいは全てが)演技なのか。

ここでいう中国の「錦旗」とは、日本語のその意味とは全く異なるものである。社会的功績のあったチームや個人に贈る布製のペナントのようなもので、多分に意図的な演出が込められた派手な飾り物を指す。

その表面には、功績を誇大に美化した褒め言葉が刺繍されている。今回の「錦旗」には、赤地に金文字で「無私奉献、公益救援」と刺繍されていた。

それにしても、通常そのような「錦旗」は注文してから出来上がるまでに、少なくとも数日はかかるはずだ。なぜ「わずか1時間後に」そのような贈呈品が(まるで用意されていたように)出てきたのか。その「呉さん」という市民は、親族でも関係者でもない、全く謎の人物だった。

支援者、数千人が村の入口に集まった

「地元当局が、何かを隠蔽するため、裏で動いているのではないか」。もはや遺族となってしまった張新偉さんの家族は、当局を強く疑っている。

こうした現地当局への不信感とともに、張新偉さんの家族に連帯し、支援する輪が広がった。

24日、周辺地域から数千人の支援者が張新偉さんの家のある村の入口(警察によって封鎖中)に集結して、張新偉さんの父親への連帯を示したことを示す動画がネットに流れた。

一部の市民は「私の携帯電話を公安に預けてもいいから、村に入らせてもらいたい。ただ(張新偉さんの)家族に会いたいだけだ」と公安に交渉したが、最後まで公安は許さなかった。そのことを示す動画もネットに流れている。

2024年1月24日、張新偉さんの父親へ連帯を示すために、周辺地域から村に駆け付けた数千人の支援者。(SNS投稿動画よりスクリーンショット)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
関連特集: 中国