<寄稿>中国企業ロゴ騒動…再エネ政策に浸透工作か 政府は国民に説明すべき

2024/04/19 更新: 2024/04/20

中国国営企業ロゴ、政治の舞台で騒ぎに

内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(以下、再エネTF)で、委員の大林ミカ氏(自然エネルギー財団事務局長)から提出された資料の一部に中国の国営送配電会社「国家電網公司」のロゴが入っていたことが3月23日に発覚した。大林氏は同月27日に、同委員を辞任したが、政府はこれで幕引きにせず、外国の影響工作の疑念を晴らすべく、国民に説明すべきだ。

ロゴの入った政府資料(筆者提供)

中国企業のロゴが、政府資料の中に入っている。とても恥ずかしく、異様な光景だ。

参議院予算委員会の質疑で同月25日、岸田文雄首相がこの問題をめぐり「外国が日本のエネルギーシステムに関わることはあってはならない」と明言。再エネをめぐる問題点をあまり伝えてこなかった既存メディアが、ようやくこの問題を報道している。そして国民民主党、維新の会が追及を続けている。

私は通称「河野委員会」と呼ばれた再エネTF、また自然エネルギー財団の行動に疑問を感じていた。しかし彼らの行動がここまで、中国に関係していたとは予想外であった。もっと注意を払うべきであった。実態解明が進むことを期待したい。経緯をまとめ、懸念を述べる。

自然エネルギー財団、孫正義氏が創立

大林氏が経産省、国連にこれまで提出した資料に、中国の送配電会社「国家電網公司」の透かしが確認された。大林氏は、自分の属する自然エネルギー財団が過去に行ったシンポジウムの資料を使い回す際に、その資料にロゴが残ったと説明している。しかし真相は不明であり、この中国企業が日常的に大林氏のために資料を作成し、渡していた可能性も考えられる。

この財団は、ソフトバンクグループの経営者である孫正義氏が東日本大震災と東電の福島第一原発の直後に、脱原発、再エネ利用を唱えて作った組織だ。孫氏は2012年ごろ、再エネビジネスに進出して脱原発を実現したいと言っていた。孫氏は今、原発問題や再エネにそれほど関心を示していない。そのため大林氏は、この財団でかなり自由に活動していたのかもしれない。

財団をめぐる中国の影

ただのシンクタンクなら活動は自由だ。しかし研究実績のないこの団体が、著名財界人などを運営者に集め、政府などに委員を送り込むなど、存在感と政治力の大きさは異例だった。また既存メディアも取り上げた。大林氏は、反原発の活動家で、研究実績はないのに繰り返しメディアに登場した。反原発と電力会社批判を繰り返す河野太郎氏と協力していた。

同財団は、原発の停止、電力自由化のもう一段の徹底(発送電分離から一部残る地域独占の解体)、再エネの一段の振興などを唱えていた。これは、かなり問題のある、実現可能性の低い提言だ。

特に中国と日本を送電網で結びつける「アジア・スーパーグリッド」(ASG)構想がある。これは孫正義氏が震災直後に主張し、モンゴルの風力発電の電気を日本で使おうと主張していた。夢のような、見栄えの良い話だが実現は難しいだろう。孫さんは最初、善意でこの主張をしたのかもしれない。これも、同財団は主張した。

2013年ごろから中国共産党の習近平が、中国を中心にユーラシア大陸の国々を経済や交通で結びつける「一帯一路」政策を展開。その一例として14年から「アジア・スーパーグリッド」の主張をはじめて、中国企業の国家送配電網がそれを推進するようになった。習近平氏は2019年の国連総会でASG構想に言及した。

中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)のサイトに19年、掲載されたリポートで、大林氏は「中国、ロシア、北朝鮮の送配電網の接続によって、朝鮮半島の安定を助ける手段にさえなり得る」との趣旨の主張を行った。エネルギー不足に苦しんでいるのに、日本向けのミサイルと核爆弾の開発を続ける北朝鮮への支援も公言していた。これは、孫正義氏の考えから大きく離れるだろう。

大林氏は記者会見し、「他の国の影響下にあるとか、国のエネルギー政策をゆがめているとか、一切無縁のことで誤解」と強調した。しかし、同財団と大林氏の提言は、中国の国益に沿うものだ。大規模な金銭的な関係は発覚していないが、同財団の活動に中国の政府と企業の意向が反映していた可能性は否定できない。

河野T Fの税金を使った反政府、反原発活動

そして河野太郎氏は、この自然エネルギー財団を、政治権力を使って活用した。再エネTFは大林氏と、もう一人この財団と親しい研究者を含む4人の委員から構成され、議論の余地のある提言を繰り返していた。

この委員を選んだのは、河野氏自らだ。同TFは、河野氏が行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革など)になった2020年に作った。彼は一度離任した後に2022年に内閣府特命担当大臣(規制改革)に再任され、再びこの委員会を動かした。河野氏主導で作られたため、通称「河野委員会」と呼ばれる。経産省と電力会社批判に熱心なTFだ。

河野氏は有能で、政策を実現する突破力や、人を先導し動かす力はある。しかし、電力業界、経産省と原子力に批判的だ。河野氏はこのTFを電力、経産省批判に使った。提言を繰り返させ、時には規制改革や消費者問題担当の河野氏の職権による政策、電力業界批判を支援させた。ところが、その委員が再エネ業界の人で、中国企業と繋がっていた可能性がある。

日本では民間有識者は特定業界に繋がりがあると、政策を検討する委員会の委員になれない。ところが内閣府では、このTFについて、委員ではなく「構成員」という資格を与えて大林氏を参加させた。また審議会や委員会ではなく「タスクフォース」という名の会合を作り、政策に関与させていた。これは河野氏と周辺の官僚の作為だろう。

再エネ過重重視に外国の影響はなかったか?

日本のエネルギー政策は、この10年、再エネの過剰なテコ入れによって、さまざまな問題が出ている。もちろん再エネの拡大でプラスになることもあった。しかし過剰支援がなかなか減らせず、中国系を含めた外資再エネ企業、そこに機材を供給する中国系企業が、日本国民の税金で大きな利益を得た。

政策の問題点の是正や、転換が遅れたのは自然エネルギー財団をはじめ一部の団体や個人の影響力によるものかもしれない。中国の脅威が懸念され、経済安全保障の強化が国の政策になる。それなのに、なぜか政策はそのままになった。

こうしたなか、中国企業と大林氏の深い関係に疑惑が出ている。河野氏は、日本の原発を止めるためなら、自らの批判する日本の電力システムを変えるためなら、外国の力を利用してもいいと考えた可能性もある。

私は、大林氏の話をエネルギーのシンポジウムや勉強会で何度か顔を合わせた。その主張で、極端に再エネを高く評価していた。「そんなに安いし使いやすい電源なら(国がやっているような)税金による設置補助は必要ないですね」と指摘したものの、建設的な議論にならなかったような印象を受けた。そのような人を河野氏は重用していた。

思想家のマキャベリはいう。「君主の本当の姿を知りたければ、側近を見ればいい」。これは河野氏にも当てはまるかもしれない。

大林氏が役職を辞任で、この問題はあいまいに終わりそうだ。しかし、なぜ彼らが影響力を行使できたのか。河野太郎氏の責任、中国企業と大林氏の関係性はどうなのか。政府は事実関係を明らかにし、国民に説明してほしい。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。