政府の再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォースの資料に中国国営企業「国家電網」のロゴが入っていた問題で、日本における中国共産党の影響力が改めて議論を呼んでいる。問題の資料を提出した構成員が所属する自然エネルギー財団と、中国の関連組織とのつながりにも注目が集まっている。
26日の記者会見で高市早苗経済安全保障相は、資料を提出した構成員が所属する「自然エネルギー財団は、中国国家電網会長が会長を務めている『団体』に理事会メンバーとして参加している」と指摘した。
高市氏はこの「団体」について具体名を挙げなかったが、中国共産党政府のグローバル・エネルギー・インターコネクション開発協力機構(GEIDCO、中国語:全球能源互联网发展合作组织)を指しているとみられる。
GEIDCOは、習近平政権が提唱する「一帯一路」構想の一環で、世界規模の再生可能エネルギー利用とエネルギーネットワークの構築を目指す北京拠点の国際組織だ。その代表を務めるのが辛保安氏である。辛氏は現在、国家電網の取締役会長を務める。
辛保安氏は1960年10月生まれ。西安交通大学で学士号を取得後、華北電力大学で電力システム・自動化の修士号を取得。教授級上級エンジニアの資格を持つ。過去には、中国国家電網の総裁や副総裁、中国華電集団公司の副総裁なども歴任した電力業界のエキスパートだ。
中国共産党との密接な関係も指摘されている。辛氏は国家電網の取締役会長であると同時に、同社の党組書記も務める。さらに中国共産党第20回全国代表大会(2022年10月)の代表にも選出されており、党内でも要職に就いている。
国有企業トップとして、辛氏はGEI構想を推進する一方で、党の路線方針政策の実現にも尽力してきた。GEIの背後にある戦略的思惑は、共産党中央の意向を色濃く反映したものだ。辛氏の出世コースは、党への忠誠心と無縁ではない。GEIが単なるエネルギープロジェクトではなく、中国共産党の計画に深くリンクしているとみられる。
「スーパーグリッド構想」、中国共産党側にも類似案
一方、今回の資料提出者が所属する自然エネルギー財団は、2011年に設立された日本の公益財団法人だ。「再生可能エネルギーに基づく持続可能で豊かな社会の構築を目指し、政策提言やビジネスモデルの研究開発」に取り組んでいる。財団幹部は内閣府ほか金融庁、経済産業省などの政策委員会構成員を務める。
自然エネルギー財団が同年に立ち上げた「アジアスーパーグリッド(ASG)」構想にも注目が集まる。ASGは、北東アジア地域の豊富な再生可能エネルギーを活用し、国家間の送電網を構築するプロジェクトだ。モンゴルのゴビ砂漠で生産した風力・太陽光発電を、日本や韓国、中国などに送電するという壮大な構想である。
この点で、ASG構想はGEIDCOの目指す方向性と重なる部分が多い。GEIDCOも、一帯一路沿線国を中心に、クリーンエネルギーの開発と電力ネットワークの北東アジア圏相互接続を推進している。実際に、GEIDCO代表が過去来日してプロモーションに訪れている。
2019年3月、GEIDCOの劉振亜主席(当時)が来日し、経済産業省資源エネルギー庁長官(当時)の高橋泰三氏やソフトバンクの孫正義会長兼社長らと会談した。この劉氏は、中国本土と北朝鮮、韓国、日本、ロシア極東、モンゴルの6カ国の電力網を相互接続する開発計画を共有している。
GEIDCOには、習近平国家主席の「人類運命共同体」思想が背景にあるとの指摘もある。再エネ分野で主導権を握ることで、関係国への影響力を強める狙いがあるというものだ。実際、GEIDCOのトップが国家電網会長を兼ねていることからも、中国共産党政府との密接な関係がうかがえる。
ロゴ問題について、岸田文雄首相は24日の衆院予算委員会で、エネルギーセキュリティが安全保障の中核的課題であり、他国から干渉されない体制確保は当然だと認めつつ、まずは内閣府で速やかに事実関係を確認し、不適切な内容が判明すれば厳正に対応するとの考えを示した。
議論に関心が高まる中、自然エネルギー財団は26日、GEIDCO自体から脱退と理事会メンバーから外れると声明を発表。「国際情勢の変化もあり、自然エネルギー財団では、東アジアにおける国際送電網構築の議論を現在は活発に行っていない」として電力網の相互接続構想の棚上げを示唆した。
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