先月、農林水産省が発表したところによると、食料自給率は2023年度カロリーベースで、3年連続 38%だった。生産額ベースの自給率は前年度比3ポイント上昇の61%となった。いずれも30年度に45%、75%に引き上げるとした政府目標にはほど遠く、達成の見通しがつかない状況だ。アメリカ、カナダ、フランスは100%を超えている他の先進国と比較しても、低水準だ。
北海道で小麦の生産が増えたことや、油脂類の消費量が減少したことがプラス要因として働いた一方で、てん菜の糖度低下による国産原料の製糖量が減少したことが数値を押し下げる要因となったようだ。
カロリーベースの食料国産率(「国内生産」を厳密にとらえるため、輸入飼料による畜産物の生産分を除いて計算)についても、前年度並みの47%となった。
生産額ベースの食料自給率については、前年度比 +3ポイントの61%となった。輸入された食料の量は前年度と同程度だが、国際的な穀物価格や生産資材価格の水準が前年度と比較して落ち着き、輸入総額が前年度比で減少したことが要因。
生産額ベースの食料国産率についても、前年度比+2ポイントの67%となった。
なぜ?日本の低い食料自給率
食生活の多様化が進み、国産で需要量を満たすことのできる米の消費が減少した一方で、飼料や原料の多くを海外に頼らざるを得ない畜産物や油脂類等の消費が増加したことが主因となっている。農林水産省が発表している食料消費構造データによると、昭和40年度には1日のカロリーの4割以上を米から摂取していた一方で、令和2年度ではその半分ほどにまで減少している。
また最近では、高温や豪雨災害の被害によって、農作物の生産に悪影響を与えている。漁業についても、日本近海で獲れる魚の種類と漁獲量に変化が起きていることも自給率を押し下げる要因となっている。
食料自給率100%を目指して 高市大臣が提案
こうした中、日本ではどのような対策が取られていくのか。高市早苗経済安全保障担当相は 9日、都内で開いた自民党総裁選への出馬表明会見で、将来目標として食料自給率とエネルギー自給率100%を目指すと強調した。
「経済安全保障上の観点から、海外依存度が高い肥料や種子、種苗を確保することが必要だ」と表明した。
多くの高付加価値食材を生産する農林水産業と食品産業は成長産業になるため、農林水産業の基盤強化、また人材力の強化ということを考えると、現在の円安も活用しながら、海外でニーズのあるところに輸出をしていくとした。
また天候にも左右されず、自然災害にも強いモジュール型の完全閉鎖型植物工場を日本企業が開発したことについて、「まさに世界初の快挙」と称えた上で、活用すべきと述べた。
スタートアップ企業である株式会社プランテックスが、一般的な植物工場の約5倍の生産性を実現できる世界初のユニット式閉鎖型の植物栽培装置の開発に成功。地方で散見される空き校舎や空き工場、空き店舗などを活用して栽培できるほか、宇宙などでも栽培できる。
また陸上養殖で対応できる水産物の種類も増えているうえ、高市氏が担当する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の中でも、省エネ化したブリの養殖や高品質・高収量の大豆を育てるといった世界最先端の植物工場、陸上養殖などの研究が進んでいる。これらの試みについては初期投資が高額であるため、国の支援を強化するとの考えを示した。
2022年、日本ではイカの養殖に成功している。沖縄科学技術大学院大学(OIST)がツツイカの一種であるアオリイカの商業化に向けた養殖技術を世界で初めて開発した。水温や水質にデリケートなため、微小な環境変化で全滅してしまうため、イカの養殖は不可能と思われていた。
動物行動学者のコンラッド・ローレンツ博士が「イカは人工飼育できない唯一の動物」と述べていた。
沖縄科学技術大学院大学は、イカのふ化から繁殖までを水槽内で何世代にもわたって続ける「累代飼育」に成功し、洋上と陸上の双方でも活用可能で、従来の飼育方法よりも低コストで効率的にイカを育てられる世界初の技術を開発した。
日本が抱えるエネルギー問題
石油や天然ガスなどの資源に乏しい日本のエネルギー自給率(2022年度)は12.6%と、先進国のなかでも極めて低い水準となっている。
自給率が低い理由は、一次エネルギーのうち、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料の大部分を海外からの輸入に頼っているためだ。
海外依存度が高いと、国際情勢によっては、エネルギーを安定的に確保できないといった問題が起きる可能性がある。近年では、2022年2月に起こったロシアによるウクライナ侵攻などが、日本のエネルギー情勢に大きな影響を与えている。
また将来の懸念要素として、中国共産党軍が台湾に侵攻した場合、シーレーン(海上交通路)が封鎖されるリスクも存在する。輸入が途絶した場合、深刻なエネルギー・食料危機に陥る可能性がある。
高市大臣、国内エネルギー自給率100%は「達成可能」
高市氏は、エネルギー問題についてAIを搭載した製品やデータセンター、より電力消費量の大きい生成AIなどの活用が急速に広がる中、エネルギー自給率が100%を超えているアメリカやカナダでさえ大変な危機感を持っていたと明かした。
自給率100%を掲げている高市氏は達成可能だと強調し「高圧の電力を安定的に安価に供給できる対策を打っていくということによって、日本の産業を守る」と表明した。
具体的な政策としては、2020年代後半に向けて、小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉など次世代の革新炉に投資することを掲げている。また2030年代に向けては、核融合でウランやプルトニウムも使わず、高レベルの放射性排気物が出ない高効率発電に注力する。昨年4月、日本初となる核融合戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」をさらに改定をして進めて行くと表明している。
また、最新の冷媒適用技術や光電融合技術を活用すれば、データセンターなどでも電力消費量が格段と減少するといった省エネ技術の研究が民間企業でも行われており、政府として後押しするとした。
地政学リスクや国際情勢に左右されない資源の開発、国産資源の開発にも注力すると述べており、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で、南鳥島海域のレアアース泥を揚泥して精錬する一連のプロセスについて技術を確立し、南鳥島で国産のレアアース生産され、基地として機能するよう目指していると語った。
高市氏はレアメタルについても、採鉱から精錬まで、一連の技術が必要であるため、しっかりと取り組むとした。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。