日銀の利上げ見送りとその背景 アメリカ経済の不透明感と植田総裁の慎重姿勢

2024/12/20 更新: 2024/12/20

日本銀行は19日の金融政策決定会合で、政策金利を現行の0.25%に据え置き、追加利上げを見送った。トランプ次期米政権の経済政策や国内の賃金・物価動向を引き続き注視しながら判断を進める方針だ。賛成8、反対1の多数決で決定され、利上げ見送りは3会合連続となった。

植田和男総裁は記者会見で、「追加利上げには様々なデータの点検が必要」と述べ、特に来年春闘の賃上げ動向や物価上昇の持続性に注目する考えを示した。

経済・物価情勢

円安が進行すると、輸入物価の上昇を通じて国内の物価上昇圧力が高まる可能性があるが、現在、円安による物価上昇リスクは相対的に低下しているとされる。

植田総裁は会見で、物価、経済情勢は概ね想定にそって推移していると述べた。物価上昇率が急激に上振れする可能性は低く、海外経済の不確実性が強まっている中、日銀は追加利上げを急ぐ状況にはないと判断している。

アメリカ経済の先行き不透明感

トランプ次期政権の経済政策の先行きを巡る不透明感が続く中、植田総裁は「賃金と物価の好循環の強まりを確認するという視点から、今後の賃金の動向についてさらなる情報が必要だ」との認識を示している。

また、9月24日の大阪での講演では、アメリカ経済の展開について「依然不確実だ」と述べ、これまでの利上げが労働市場に与える影響や、労働需給の緩和による個人消費の先行きを注視する必要があると述べた。10月2日の全国証券大会で、アメリカ経済の先行き不透明感や市場の不安定な状況を「極めて高い緊張感を持って注視」し、経済・物価の見通しなどに与える影響を見極める考えを示した。

日銀の会合に先立ち、米連邦準備理事会(FRB)は18日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で市場の予測通り、0.25%の利下げを決めた。日銀はFRBの判断もふまえて現状維持を決めたとみられる。

市場の早期利上げ観測の後退

市場では、日銀の12月利上げ観測が一時高まっていたが、直近の各社報道や植田総裁の発言を受け、利上げ観測は後退している。

19日の記者会見で、植田総裁は「次の利上げにはもうワンノッチ(1段階)ほしい」と話した。これを受け、2025年1月の追加利上げが見送られるとの観測が広がった。19日、円相場はおよそ5か月ぶりに一時1ドル=158円台まで円安が進んだ。

多角的レビュー

今回の会合では、過去25年間の金融緩和策を検証する多角的レビューの結果が公表された。その中で日銀は、物価目標の実現へ経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していくとしている。

日銀は2013年以降の量的・質的金融緩和は、経済・「物価を押し上げる効果」を発揮してきたが、当初想定したほどの物価押し上げ効果を発揮しなかったとしている。「今後、副作用が拡大する可能性に留意する必要がある」と結論づけた。

植田総裁は非伝統的な金融政策手段が伝統的な金融政策手段(利上げ)の完全な代替手段にはなりえないと述べ、慎重かつ柔軟な金融政策運営の重要性を強調した。

 

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。
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