中国はWTOから除名すべきか ルールなき超大国の代償

2025/05/19 更新: 2025/05/19

論評

数十年にわたり世界貿易機関(WTO)のルールを無視し、対立的な貿易慣行を続けてきた共産主義の中国が、引き続き世界に不均衡な取引を押し付けることは許されるであろうか?

2001年のWTO加盟は、グローバル貿易と中国にとって歴史的な転換点だった。確かに世界は安価な商品を得たが、その多くは、事実上は奴隷労働によるものだった。その代償は極めて大きいと言わなければならない。

2000年当時、中国のWTO加盟は一党独裁国家による10億人以上の国民への統制を緩和するとの期待があった。しかし、1989年の天安門事件で中国共産党(中共)が世界に示した教訓で、期待は忘れ去られたか、あるいは無視されたと言えるだろう。

共産主義国である中国が、ルールに基づく貿易システムに統合されれば、経済改革や市場の開放が進むという考えは、楽観的すぎた。中共が統制を緩め、国際協調に参加するだろうという想像は、幻想か無関心の産物だった。

現実は厳しい状況だ。中国の国家主導の経済モデルと、WTOの約束を繰り返し違反する姿勢は、世界中で不当な貿易慣行や略奪的な取引を無数に引き起こした。

知的財産の盗用から巨額の貿易不均衡まで、グローバル経済は、中国政権のWTO内での行動に起因する課題に直面した。中国を世界経済に「統合」したコストは膨大だった。

まるで「がん」が人体に浸透するように、中共は世界経済に入り込んだのだ。

世界が被った7つの損失

1.巨額の貿易不均衡

外交問題評議会によると、中国の対米貿易黒字は2001年の1千億ドルから2023年には4千億ドル以上に膨れ上がった。これは、輸出を促進しつつ外国企業の市場アクセスを制限する政策によるものだ。アメリカやEUの製造業者は、補助金を受けた安価な中国製品に太刀打ちできず、消費者は低価格の恩恵はあるが、一方で長期的な経済依存を生じてしまった。

2.数百万人の雇用の喪失

WTO加盟による中国製品の流入は、西側諸国の製造業において、大規模な雇用の喪失を引き起こし、米シンクタンク・経済政策研究所によると、アメリカだけで2001~15年の間に、340万人の雇用が中国に奪われ、繊維や電子機器産業を中心に工業地帯が壊滅した。

3.知的財産の盗用

中国の知的財産窃盗は深刻な問題だ。WTOが、強制的な技術移転やサイバー窃盗を含む知的財産の保護を加盟国に義務付けているにもかかわらず、中共は、国家ぐるみのスパイ活動を通じて、西側企業を標的にしてきた。米通商代表部によるとアメリカ企業は、年間2250~6千億ドルの損失を被った。

4.工場と産業の空洞化

中国の補助金や強制的な合弁事業により、移転した欧米企業は、独自技術の引き渡しを強いられ、これにより、電子機器や重機の重要サプライチェーンが中国企業に支配され、国家安全保障と経済の強靭性が損なわれた。

5.欧米の中間層の衰退と社会問題

製造業の雇用の減少は、欧米の中間層を侵食し、失業率の上昇、賃金の停滞、格差の拡大を招いた。中国のWTO加盟によって低コスト製品の競争を招いたのが主因であり、その社会的・政治的影響は現在も続いている。

6.一帯一路による過剰債務

中国の「一帯一路」構想は、開発途上国に持続不可能な債務を負わせた。場合によってはGDPの10~15%を超える負担となっている。スリランカやパキスタンは債務不履行により、港湾などの戦略的資産を中国に譲渡した。インフラ支援を装いつつ、中共の地政学的利益を優先したため、貧困国は主権を損なった。

7.海上交通の要所の支配とグローバルな影響力

一帯一路や戦略的投資を通じて、中国はスリランカのハンバントタ港やパナマ運河周辺など、重要な海上交通の要所を掌握した。これらの「海上ゲート」は、中国の軍事力の展開と貿易ルートの支配を強化するためであり、主要地域で中国覇権への懸念を高めた。

共産中国の打破か それともWTOの崩壊か?

中国政権は、当初からWTOルールを悪用し、世界に不均衡な取引を押し付けてきた。中共が主導する包括的かつ蔓延する不順守で、WTOの信頼性が損なわれたのだ。

2001年以降アメリカは、中国に対するWTO提訴43件のうち23件を提起したが、執行力は弱いままだ。中国の除名は改革を促し公平な競争環境を生む可能性はあるが、過去の経緯からそれは期待薄だ。

トランプ政権の関税政策は、中国の製造業支配を打破し、アメリカの製造業雇用を取り戻すことを目指している。中国はすでに、需要の減少、賃金の低下、失業率の上昇といった経済的な痛みを感じ始めている。その直接的な結果として、中共は国内の緊張の高まりを場合によっては体制そのものへの脅威として受け止めつつある。

一方、反対派は、中国の除名がWTOとグローバル貿易を弱体化させると主張する。それは事実だ。しかし、中国の敵対的貿易慣行はWTOを破壊すると長年指摘している。少なくとも中国政府のルール違反は、WTOの意義を歪め、低下させていると言える。

結局のところWTOが、世界の他の国々の幸福を脅かす経済的不均衡を生み出すのであれば、何の意味があるのだろううか?

WTOは、中国を無視する新たなルールを作るべきか。とはいえ中共が権力を握っている限り、同じやり方を繰り返して中共が変わることを期待するのは現実的ではない。

中国を除名すれば、中国がWTOの枠外で別の貿易圏を作る動きを加速させ、グローバル経済の分断がさらに進むのではないかと懸念する声がある。それはまさに今、実際に起こっていることだ。

中国はWTOから除名されるべきだ。

より良く公正で、有益な形は、自由な国々が互いに貿易を行う。北京のような独裁国家は同じような国々とだけ付き合っていればいいというものだ。

それはどのくらい上手くいくだろうか?

『中国危機』(Wiley、2013年)の著者であり、自身のブログTheBananaRepublican.comを運営している。南カリフォルニアを拠点としている。
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