米中サプライチェーン戦争の現実 レアアース・安全保障・脱中国の行方

2025/06/16 更新: 2025/06/17

米中対立の激化に伴い、サプライチェーンを巡る争いは、新たな局面へと進展した。レアアースや半導体、電気自動車部品など、経済安全保障に直結する戦略的物資をめぐり、両国は、激しい争奪戦を展開しており、テスラやF-35をはじめとする米国の主要産業にも深刻な影響が及んだ。本記事では、米中サプライチェーン戦争の現状、中国のレアアース戦略、アメリカの脱中国方針、そして今後の世界経済に対する波及リスクについて詳述する。

ある日、アメリカのF-35戦闘機の製造ラインが停止し、テスラの電気自動車工場が部品不足で稼働不能となり、ミサイル製造が滞り、風力タービン企業が対応に追われる――このような事態は、現実として近づいたのだ。これは米中の関係が完全に崩壊し、戦争寸前の状況に陥った瞬間であり、中共が、アメリカを押さえ込み、世界に赤い旗を掲げようとする場面に他ならない。

この予測は誇張ではなく、すでに現実味を帯びていた。現在の米中対立は、関税やテクノロジーの争いを超え、サプライチェーンを巡る「核戦争」へと突入し、中国は、レアアースの供給網を武器に、アメリカのハイテク産業、兵器製造、自動車産業を掌握し、さらにミャンマーでは親中武装勢力を使って鉱山を支配する体制を築いた。加えて、安価なショッピングアプリを通じて、アメリカ国民の個人情報を吸い上げ中との指摘もある。

この一連の動きは、陰謀と計算、そして戦略によって成り立つ。今回はこの複雑な構図を明らかにしながら、その裏に潜む真相を順に解き明かしていく。

第一幕:中共、三つの譲歩で後退 レアアースが「核兵器」に変貌

1. 新交渉で中共が三つの譲歩を決断

直近のロンドンで行われた米中交渉は、双方が勝利を主張する混沌とした結果に終わった。

親中派のメディアは、中国のレアアースによって、アメリカが屈服し、交渉の場に引き込まれたと強調した。一方、アメリカ寄りのメディアは、トランプ大統領の「中国に10%、我々は55%の関税を課す」という発言に注目し、中国側に妥協はなかったと示した。トランプ大統領はさらに、中国からのレアアース供給を維持する代わりに、中国人学生の留学ビザを認めると述べ、損失はないとの認識を示した。

しかし、実際の交渉結果を精査すれば、中共が三つの大きな譲歩を行った事実が明らかになった。

発端を辿れば、4月に、トランプ大統領が包括的関税を発動した後、中共はレアアースの輸出制限を行った。その後のスイスでの交渉では、輸出制限の緩和に言及したものの、アメリカはファーウェイへの制裁を強化し、ハーバード大学を「中共の海外党校」と位置づけて、中国人留学生への審査強化に踏み切った。現時点で双方は、交渉の結果、一定の停戦状態にあるが、アメリカは、制裁解除を行っていない。トランプ大統領は、中国人留学生の歓迎を口にしつつ、引き続き審査を継続する方針を明言した。

要するに、5月中旬、中共がレアアースを使って圧力をかけたが、アメリカは、ジェットエンジンなど中国が必要とする先進技術の輸出を即座に制限し、両国は交渉に踏み込んだ。結果として相互制限の一部解除には至ったものの、本質的には元の地点に戻ったに過ぎない。中共はレアアースで譲歩し、ファーウェイ問題も宙に浮いたままである。

また、トランプ大統領の関税55%という表現には誇張がある。実際には、10%の基礎関税、20%のフェンタニル制裁、25%の平均関税を合わせた合計である。一方、中国の対米輸入品への平均関税は33%で、10%という数字は事実と異なる。ピーターソン国際経済研究所の分析がこれを裏付けた。

中共の三つ目の譲歩は、市場開放である。トランプ大統領は中国がこれに同意したと述べ、交渉を担当した米財務長官ベセント氏もこれを裏付けた。

6月11日、帰国直後、議会で証言したベセント財務長官は、「中共が輸出で復活するのを許せば、アメリカと世界の生活水準が下がる」と警告し、「今回の交渉は、米中経済関係の安定化と均衡化につながる」と主張した。彼はまた、「中国は消費重視に、アメリカは生産重視に経済を転換すべきだ」との見解を述べた。

この発言は、中共の対米輸出黒字(間接輸出や原産地偽装を含む)が大きく減少することを意味し、事実上、中共にとって深刻な譲歩となる。

2. 貿易戦争の次元上昇:関税応酬から生命線封鎖へ

今回の交渉では、中共に打撃が走っただけでなく、アメリカの脆弱性も露呈した。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、中国は、アメリカ向けレアアースの輸出許可に、6か月間の期限を設けており、緊張が再燃すれば供給を止める準備を整えており、これまでの米中貿易戦争は、関税の応酬に留まり、「10%対20%」の泥沼に過ぎなかった。だが2025年に入り、戦場は明確に変化した。双方が輸出規制という武器を手に取り、相手の産業の根幹に打撃を与える局面に突入したのである。

この構図は、かつての米ソ冷戦期における戦略兵器制限交渉にも似て、双方が「核戦争」は避けたいと考えつつ、互いに手持ちのミサイルを手放すことを拒んでいる構図と重なった。アメリカ商務省の元官僚エミリー・ベンソン氏も、「これは経済分野における破滅的衝突を防ぐ試みだ」と述べた。

江蘇省の連雲港には、出荷を待っているレアアース。(STR/AFP)

第二幕:レアアース、中共の切り札

中共が今回示した切り札は、レアアースである。レアアースは高度技術産業における「ビタミン」とも呼ばれ、中国はその採掘の60%、精錬能力の90%を掌握し、特に南方のイオン型鉱床において独占的な地位を築き、世界の重レアアース供給の90%をコントロールする。アメリカは一部で、レアアース採掘を再開したが、採掘した鉱石を中国へ送り、加工後に高値で買い戻す構造となっていた。

今回、中共は6種類の重レアアース金属と磁石の輸出を制限し、アメリカの重要産業に対して大きな打撃を与えた。

武器製造では、F-35戦闘機の磁気ナビゲーションシステムやレーザー誘導兵器にレアアースが不可欠である。戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国が供給を完全に止めた場合、アメリカの武器生産は数ヶ月間停滞する可能性があると分析している。国防総省の官僚は「レアアースなしでは、F-35の生産ラインはただの飾りにすぎない」と語った。

自動車産業では、電気自動車のモーター製造にレアアース磁石が必要である。今回の供給網の断絶により、テスラのModel Yは生産量を15%減らし、ゼネラルモーターズの生産ラインもたびたび停止した。

グリーンエネルギー分野でも、アメリカの風力タービンや太陽光設備は、大量のレアアースを必要とする。

中国の強みは、資源だけでなく、技術にも及んでいる。中国は、レアアースの分離技術において99.9999%の純度を実現しており、他国の追随を許さない。加工コストも西側諸国の3分の1から半分に抑えており、市場参入における強力な障壁を構築していた。

第三幕:中国の「裏庭」ミャンマー新鉱山 米国は多角的に依存脱却を模索

中国は国内資源にとどまらず、海外にもレアアース覇権を拡大していた。

ロイター通信の2025年6月12日の独占報道によれば、中共が後ろ盾となるミャンマーのワ州連合軍は新たなレアアース鉱山の開発を進めた。鉱山は、中国語を話す管理者によって運営され、ジスプロシウムとテルビウムを採掘し、中国へと供給していた。

ワ州連合軍は3万から3万5千人の兵力を保有し、中国製の武器で武装している。ミャンマー最強の武装勢力の一つであり、シャン州に「安全な要塞」を構築したことで、中国の鉱山業者が安定した環境で採掘を行えるようにした。衛星画像によれば、鉱山の建設は、2023年4月に始まり、2025年2月には十数個の浸出池が設置され、活発な生産が続いた。消息筋によると、少なくとも100人が交代で山腹で採掘作業を行い、化学物質を用いて鉱物を抽出している。地元住民が、鉱産資材を運ぶトラックが、鉱山から約200キロ離れた中国国境に向かっている様子を目撃した。

ミャンマーは、中国のレアアース供給網における「裏庭」であり、2025年前半の4ヶ月間で、ミャンマーからの供給が中国のレアアース輸入量の約半分(中国税関データ)を占めた。

この状況を受けて、中共はワ州連合軍への影響力を一層強化し、ミャンマー全体の情勢にも深く関与する状況だ。

米国平和研究所ミャンマープロジェクトのディレクター、ジェイソン・タワーズは「ワ州武装勢力とミャンマー軍の間では過去35年間に本格的な衝突がなく、中国政府と企業は、ワ州地域をミャンマー北部の他地域より安定していると判断している」と述べた。

Benchmarkの専門家ムケルジー(Mukherjee)氏は、世界的な重要鉱物資源の争奪戦の中で、これらの鉱床への投資が中共にさらなる交渉力をもたらすと分析している。「中共は、重レアアースの支配権を自らの手で握ろうとしており、これを戦略的なツールと位置づけている」との見解を示した。

こうした背景から、アメリカが東南アジアで代替供給源を探す取り組みは、一層困難となった。ミャンマーの内戦は外部勢力の介入によって激化し、大国間の争いの舞台となる可能性もあり、中国のレアアース戦略により、アメリカは依存からの脱却を図っているが、その道のりは極めて困難であると言えよう。

米国の対抗策:多角的脱却戦略

アメリカ国内産業の再興として、カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山が再稼働し、年間200万トンの軽レアアースを生産している。ただし、重レアアースの精錬は依然として大きな課題である。専門家は、完全なレアアース供給網の構築には50億ドルの投資と5〜10年の歳月が必要と見積もった。

国際的供給源の多様化も進行中である。アメリカはオーストラリア、グリーンランド、アフリカなどからの調達を模索しているが、中国は、盛和資源社などの企業を通じて、多くの鉱山を既に支配している。アフリカの鉱山も中国資本の影響下にあり、アメリカは、同盟国との連携を強化して、この状況の打開を目指す。

リサイクル技術の開発では、電子廃棄物からレアアースを回収する取り組みが進められ、Urban Mining Companyなどのスタートアップ企業が、低コストの回収手法を開発しているが、現時点での規模はまだ限定的である。

同盟国との連携として、アメリカは日本、オーストラリア、欧州連合とともに「重要鉱物同盟」を構築し、供給網の共同開発を推進中だ。

技術的代替も検討されている。テスラなど一部の企業は、レアアースを使用しないモーターの開発を目指しているが、技術はまだ実験段階にとどまっており、短期的にレアアース磁石の完全な代替は困難だ。

第四幕:薬物「見えざる脅威」とその他の危機 アメリカ、「フレンドショアリング」を推進中

今回、中国共産党が打ち出した切り札はレアアースである。この展開により、読者の多くは次の疑問を抱くことになる――もし中国が他の重要物資をも戦略的に活用した場合、アメリカはどれほど深刻な危機に直面するのか。

中国は、世界最大の医薬品有効成分(API)供給国として、アメリカの抗生物質、鎮痛薬、心血管薬の原料の4割以上を握っている。アメリカ国内のペニシリン、アスピリン、インスリンの生産も、中国の供給に、強く依存している。

2020年、パンデミックの影響で中国からのAPI供給が一時停止した際、アメリカ国内の病院では抗生物質の在庫が枯渇寸前となった。中共が今後、意図的に供給を制限すれば、その影響は一層深刻化する。CSISの試算では、アメリカがAPIのサプライチェーンを再構築するには、3~5年を要し、コストは現在の3倍に達する見通しである。

医薬品分野にとどまらず、中国は以下のような重要産業でもアメリカの命運を左右する立場にある。

リチウム電池と新エネルギー分野

中国は、世界のリチウム電池生産の70%、原材料(リチウムやコバルトなど)の加工の50%を支配する。輸出が制限されれば、テスラやフォードなどの主要企業は、甚大な打撃を被ることになるという。

半導体製造装置

アメリカの半導体工場は、オランダのASML製EUV装置を中核に据えているが、その他の主要部品やツールにおいても中国サプライチェーンへの依存が避けられない。

太陽光パネル

中国は、世界の太陽光パネルおよび主要構成部品の8割を生産している。

消費電子機器サプライチェーン

アップルやデルなどアメリカの代表的企業は、依然として、中国国内の製造拠点に依存中だ。中国が輸出に制限をかければ、アメリカ国内では、価格の上昇や製品不足が生じ、消費者が直接的な影響を受ける。

現在、アメリカは「フレンドショアリング」の方針を掲げ、インドやベトナムなど信頼できる国々での生産を促進しているが、こうした供給網の転換には時間を要する。

第五幕:6.99ドルの「トロイの木馬」、アメリカ国家安全保障に警鐘

直近の米中貿易交渉では、双方ともTikTok問題を避けた姿勢を見せたが、筆者は一貫して警告を発している。中国共産党によるアメリカへのソフト面・ハード面双方からの浸透工作には、より高次の警戒が不可欠である。中国共産党は、多様な手法でアメリカ社会に「トロイの木馬」を仕掛けており、その中には市場価値がほとんどないものもあれば、わずか6.99ドルの安価な手段も含まれている。

6月11日、ネブラスカ州のマイク・ヒルガース検事総長は、中国系ECプラットフォーム「Temu」に対して、訴訟を起こした。訴状によれば、Temuのアプリにはスパイウェアが仕込まれ、ユーザーデータを吸い上げている。アプリはマイク、メッセージ、写真、位置情報などへのアクセスを可能にし、密かに作動してセキュリティ対策を回避していた。Temuおよびその親会社「拼多多」は、格安販売を売りにしているが、背後では広範なデータ収集を実行中だ。

さらに訴訟は、Temuがユーザーに対して合計83項目もの権限――バイオメトリクス情報やWi-Fi情報など――を要求している点に言及した。通常のアプリの範囲をはるかに超えており、異常な権限取得が明らかである。加えて、Temuはダウンロード後、アプリストアのセキュリティ制限を回避して、自動更新を実行できる仕組みを持つ。そこにどのような新たな機能が組み込まれるのかは不明である。

この事例は、アメリカ国家安全保障に対する新たな警鐘となり、Temuの商品は、まるで「餌」のような存在であり、ユーザーはアプリを通じて自身のプライバシーの流出リスクに直面し、2023年、Temuはアメリカで最も多くダウンロードされたアプリとなった。『中国国家情報法』によれば、中国国内のハイテク企業はすべて、中国共産党の情報活動に協力する義務を負っており、したがって、Temuのシステムがアメリカの重要人物や施設の監視に転用される可能性は否定できない。

モンタナ州による調査では、Temuがデータ収集プロセスを意図的に隠蔽しており、研究者ですらその解析に苦労することが確認された。

このTemu事件は、米中間におけるデジタル戦争の一端に過ぎない。Sheinをはじめとする他の中国系EC通信販売サイトも、ユーザーデータや注文傾向、決済情報、位置情報の取扱いをめぐって、アメリカ側の調査対象となった。

米中ハイテク情報戦は、通信販売サイト、アプリ、データ主権、AIインフラ、越境決済など、あらゆる分野に広がった。

たとえばTikTok(バイトダンス)に対して進められている審査・分離法案の核心は、アメリカの1億人超に及ぶユーザーデータの管理と影響力の制御にある。同様に、中国のWeChatやDeepSeekといったアプリも注視すべき対象である。海外在住の華人の多くは、情報源としてWeChatを利用しており、そこには中国共産党による監視および思想統制が組み込まれおり、要注意だ。中国製のDJIドローンについても、アメリカでは政府による調達が制限され、理由は、地理情報の流出リスクがあるためである。それでもなお、DJIは、アメリカの民間市場で主流を占め、日々アメリカの空を飛行中なのだ。

 

秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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