8月22日、中国日本商会は「第7回会員企業景況・事業環境認識アンケート」の結果を公表した。調査は2025年7月14日から7月31日にかけて実施され、約8千社の在中国日本企業を対象に1434社(製造業928社、非製造業499社、公社・団体7社)から回答を得た。調査結果は、2025年1~6月期の企業業況と中国国内の経済環境が前回調査と比較して悪化傾向にあることを示している。一方で、一時期に比べれば若干の改善も見られる。
売上・利益・販売価格、軒並み悪化
調査結果は、中国市場の厳しさを浮き彫りにした。売上は「増えた」と答えた企業が28%(前回比6%減)に対し、「減った」が48%(同12%増)と大幅に悪化。利益も「増えた」が30%(同3%減)に対し、「減った」が47%(同9%増)と低迷が続く。商品やサービスの価格は「上がった」が13%(横ばい)に対し、「下がった」が46%(同11%増)と値下げ圧力が強い。全体の業況は「良くなった」が26%(同1%減)に対し、「悪化した」が40%(同10%増)
つまり、約半数の企業が「売上も利益も減り、価格も安くせざるを得ない」と感じている。これは、中国経済の減速や、価格競争の激化が大きな原因だ。
投資額については、「増やす」は16%(横ばい)に対し、「減らす・しない」が43%(同2%増)、「前年と同じ」が40%(同2%減)。約4割が投資を手控える「様子見」姿勢で、将来への不安が広がっている。
企業が直面する課題としては、安売り競争(60%)、人件費の高騰(58%)、米中対立や日中関係の影響(45%)などが挙げられた。経済的プレッシャーだけでなく、制度面や安全面の不透明さが企業活動を制約している実態が浮き彫りになった。
アステラス事件や襲撃事件で強まる不安
経済的な苦境に加え、安全保障への懸念も企業を悩ませている。2023年にはアステラス製薬の社員(中国日本商会の幹部でもあった)が中国当局に拘束され、翌年起訴された事件が波紋を呼んだ。さらに2024年と2025年には日本人親子が襲撃される事件も発生し、社員やその家族の安全に対する不安が強まっている。
「何が違法で、何が許されるのか分からない」「駐在員や家族が安心して暮らせず、赴任や出張を控える動きが出ている」との声も多い。
中国日本商会の本間哲朗会長は「邦人の安心・安全に関するコメントが多数寄せられた。日本政府や大使館・領事館、中国当局に対し、安全確保と事件の背景に関する透明な情報開示を強く求めていく」と述べた。
今後の展望
2025年に入ってからも撤退や事業縮小の動きが続いている。日立製作所やクラボウ、丸一鋼管、アーレスティ、資生堂などが中国事業を見直し、東南アジアや米国への投資を拡大。トヨタやホンダも電気自動車(EV)分野で現地事業を再編し、ベトナムなどに生産や部品調達をシフトし始めている。
中国日本商会は、2025年の中国景況は2024年と比べて悪化傾向が続くと予測されるが、一時期に比べれば改善の兆しも見られるとしている。ただし、企業業績の低迷と邦人の安全をめぐる懸念は依然として大きな課題だ。
中国は今なお日本にとって最大の貿易相手国だが、経済の減速と安全リスクが企業活動を圧迫している。巨大市場の魅力は残る一方で、「リスクがリターンを上回る」と判断する企業も増えつつある。現地に拠点を構える日系企業は、コスト管理やリスク対応を強化しながら、中国での事業を続けるべきか撤退すべきか、難しい選択を迫られている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。